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それぞれの結末
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暮羽を自室のベッドへ下ろし、魔王は口を開く。
「後悔、しているのか?」
魔王の質問に、暮羽はビクッと体を強ばらせる。かなり落ち込んだ様子の暮羽を、魔王はそっと抱き締めた。
「お前の所為ではない」
分かっている。全て愛輝が招いた結果である事も、彼を助ける必要は無い事も、何をしても彼は変わらない事も、分かっているのに……それでも、暮羽は現状の愛輝を「ざまぁ見ろ」とは思えなかった。あんなに憎かった筈なのに、あんなに消えて欲しいと願っていた筈なのに……
「お前は、優しいな」
「っ」
「あれ程痛めつけられ、苦しめられても、お前は誰も憎まない」
暮羽の額にキスを落とし、魔王は愛おしそうに暮羽を見詰める。
「悲しいなら、泣いても良い」
暮羽は魔王にしがみ付いたまま、静かに泣き続けた。泣きじゃくる暮羽を抱き締め、魔王は彼が泣き止む迄ずっと傍に居た。それから何日か経ち暮羽は笑うようになったが、その笑顔は何処かぎこちない。愛輝の事を思うと胸が痛む。魔王達は「当然の報いだ」と言うが、愛輝と一緒に居た時に何か出来なかっただろうかと、ずっと、そればかり考えていた。落ち込んでいる暮羽の姿を見ていられず、魔王は暮羽を愛輝の元へ連れて行く事にした。何時の間にか隣国の国王と繋がりを持っていたらしく、魔王と国王は数分話した後、国王は愛輝の元へ暮羽を案内した。
「出せよ! 何で俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ!」
愛輝は牢屋に入れられても、以前と何一つ変わっていなかった。恐る恐る暮羽が牢屋に近づくと、愛輝は暮羽を視界に入れた途端、キッと睨みつけ責め立てた。
「お前の所為でこんな事になったんだ」と。「親友の俺を裏切る何て最低だ」と。「お前さえ居なければ、魔王は俺を愛した筈なのに」と。暮羽に暴言を吐き続け、愛輝は暮羽にこう言った。「屋上から落ちたあの時に、そのまま死ねば良かったんだ」と。
暮羽は愛輝の言葉を聞き、ゆっくりと口を開いた。
「俺さ、何処かで期待してたんだ。こんな状態になれば、お前は変わるんじゃないかって……一言で、良かったんだ。たった一言、お前に『ごめん』って、言ってほしかった」
今迄の仕打ちを忘れた訳ではない。何度も愛輝に振り回されて、心も身体も痛めつけられた。死にそうになる迄放置された。愛輝は何時も「暮羽が悪い」と言って助けてはくれなかった。それでも、そんな最低な相手でも、心の底から「憎い」と思う事はなかった。
ごめん。
たった三文字。謝罪の言葉を愛輝が言ってくれたら、愛輝を助けようと思っていた。しかし、愛輝は暮羽を睨み付けたまま、口を開いた。
「何で俺がお前に謝らなくちゃいけないんだよ! 俺はお前の所為でこんな目に遭ってるんだぞ! お前が謝れよ!」
我慢の限界に達し、牢屋の片隅で成り行きを見守っていた国王は口を開こうとするが、その前に暮羽が口を開いた。
「そっか、ありがとう。広瀬の本心を聞かせてくれて……」
「は?」
「これで漸く、お前との縁を切る事が出来る」
「な、何言ってんだよ!?」
「本当は、お前とちゃんと、友達になってみたかった」
さようなら。
愛輝に別れの言葉を告げ、暮羽は泣きそうになるのを必死に耐え、牢屋から出て行った。愛輝が必死に何かを叫んでいるようだったが、彼の声が、暮羽に届く事はなかった。
魔王の元へ戻ると、暮羽は魔王に抱き付き静かに涙を流した。暮羽の体を優しく抱き上げ、魔王は国王にお礼を言うと、一瞬でその場から姿を消した。二人が消えた場所を暫く眺めた後、国王も自分の仕事をする為、その場から去って行った。
数日後、愛輝は予定通り死の島へ流された。
愛輝と最後に会った日から数週間経ち、暮羽は漸く本当の笑顔を見せるようになった。暫くは泣いて過ごす事の方が多かったが、魔王達が優しくしてくれた為、暮羽は少しずつ元気を取り戻した。愛輝の事で思い悩む事は、もう無い。辛い事ばかりだった日々が嘘のように、今は幸福に満ちた日々を送っている。身体はほぼ回復し、傷痕も少なくなっている。体力も戻りつつあり、漸く一人で歩けるようになった。
数ヶ月後、綺麗に晴れ渡った空の下、魔王から「俺の花嫁になってくれるか?」と告白され、暮羽は花が綻ぶような笑顔を向け「宜しくお願いします」と返した。魔王は暮羽を抱き締め、「お前を幸せにすると約束しよう」と耳元で囁き、お互いに見詰め合った後、誓いの口づけを交わす。幸福に満ちた時間を噛み締めるように、二人はクスリと笑い合った。
-end-
◇
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
「人を愛した魔族達」はこれで完結です。
お気に入り登録、感想、いいね、エールなど、本当にありがとうございます! とても励みになります。
「後悔、しているのか?」
魔王の質問に、暮羽はビクッと体を強ばらせる。かなり落ち込んだ様子の暮羽を、魔王はそっと抱き締めた。
「お前の所為ではない」
分かっている。全て愛輝が招いた結果である事も、彼を助ける必要は無い事も、何をしても彼は変わらない事も、分かっているのに……それでも、暮羽は現状の愛輝を「ざまぁ見ろ」とは思えなかった。あんなに憎かった筈なのに、あんなに消えて欲しいと願っていた筈なのに……
「お前は、優しいな」
「っ」
「あれ程痛めつけられ、苦しめられても、お前は誰も憎まない」
暮羽の額にキスを落とし、魔王は愛おしそうに暮羽を見詰める。
「悲しいなら、泣いても良い」
暮羽は魔王にしがみ付いたまま、静かに泣き続けた。泣きじゃくる暮羽を抱き締め、魔王は彼が泣き止む迄ずっと傍に居た。それから何日か経ち暮羽は笑うようになったが、その笑顔は何処かぎこちない。愛輝の事を思うと胸が痛む。魔王達は「当然の報いだ」と言うが、愛輝と一緒に居た時に何か出来なかっただろうかと、ずっと、そればかり考えていた。落ち込んでいる暮羽の姿を見ていられず、魔王は暮羽を愛輝の元へ連れて行く事にした。何時の間にか隣国の国王と繋がりを持っていたらしく、魔王と国王は数分話した後、国王は愛輝の元へ暮羽を案内した。
「出せよ! 何で俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ!」
愛輝は牢屋に入れられても、以前と何一つ変わっていなかった。恐る恐る暮羽が牢屋に近づくと、愛輝は暮羽を視界に入れた途端、キッと睨みつけ責め立てた。
「お前の所為でこんな事になったんだ」と。「親友の俺を裏切る何て最低だ」と。「お前さえ居なければ、魔王は俺を愛した筈なのに」と。暮羽に暴言を吐き続け、愛輝は暮羽にこう言った。「屋上から落ちたあの時に、そのまま死ねば良かったんだ」と。
暮羽は愛輝の言葉を聞き、ゆっくりと口を開いた。
「俺さ、何処かで期待してたんだ。こんな状態になれば、お前は変わるんじゃないかって……一言で、良かったんだ。たった一言、お前に『ごめん』って、言ってほしかった」
今迄の仕打ちを忘れた訳ではない。何度も愛輝に振り回されて、心も身体も痛めつけられた。死にそうになる迄放置された。愛輝は何時も「暮羽が悪い」と言って助けてはくれなかった。それでも、そんな最低な相手でも、心の底から「憎い」と思う事はなかった。
ごめん。
たった三文字。謝罪の言葉を愛輝が言ってくれたら、愛輝を助けようと思っていた。しかし、愛輝は暮羽を睨み付けたまま、口を開いた。
「何で俺がお前に謝らなくちゃいけないんだよ! 俺はお前の所為でこんな目に遭ってるんだぞ! お前が謝れよ!」
我慢の限界に達し、牢屋の片隅で成り行きを見守っていた国王は口を開こうとするが、その前に暮羽が口を開いた。
「そっか、ありがとう。広瀬の本心を聞かせてくれて……」
「は?」
「これで漸く、お前との縁を切る事が出来る」
「な、何言ってんだよ!?」
「本当は、お前とちゃんと、友達になってみたかった」
さようなら。
愛輝に別れの言葉を告げ、暮羽は泣きそうになるのを必死に耐え、牢屋から出て行った。愛輝が必死に何かを叫んでいるようだったが、彼の声が、暮羽に届く事はなかった。
魔王の元へ戻ると、暮羽は魔王に抱き付き静かに涙を流した。暮羽の体を優しく抱き上げ、魔王は国王にお礼を言うと、一瞬でその場から姿を消した。二人が消えた場所を暫く眺めた後、国王も自分の仕事をする為、その場から去って行った。
数日後、愛輝は予定通り死の島へ流された。
愛輝と最後に会った日から数週間経ち、暮羽は漸く本当の笑顔を見せるようになった。暫くは泣いて過ごす事の方が多かったが、魔王達が優しくしてくれた為、暮羽は少しずつ元気を取り戻した。愛輝の事で思い悩む事は、もう無い。辛い事ばかりだった日々が嘘のように、今は幸福に満ちた日々を送っている。身体はほぼ回復し、傷痕も少なくなっている。体力も戻りつつあり、漸く一人で歩けるようになった。
数ヶ月後、綺麗に晴れ渡った空の下、魔王から「俺の花嫁になってくれるか?」と告白され、暮羽は花が綻ぶような笑顔を向け「宜しくお願いします」と返した。魔王は暮羽を抱き締め、「お前を幸せにすると約束しよう」と耳元で囁き、お互いに見詰め合った後、誓いの口づけを交わす。幸福に満ちた時間を噛み締めるように、二人はクスリと笑い合った。
-end-
◇
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
「人を愛した魔族達」はこれで完結です。
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