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第二部

後日談「それぞれの未来」

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 バーベキューパーティーは大好評で「毎年このパーティーを開催したいな」とクレマン様達が文也に相談していた。今回は俺が開きたいと言ったからベルトラン公爵邸だったけど、来年はモラン侯爵邸で開きたいと話し込んでいた。ジルベール様とリゼットちゃんも乗り気で「その時はよろしくお願いします!」と文也に頭を下げていた。

 このパーティーが終わったら文也も自分の店へ戻ってのんびり過ごすと思っていたが、やはりクレマン様達が文也を離そうとしなかった。これで彼との関係が終わるのを惜しんで、月に一回か二回程度でいいからベルトラン公爵邸に来て他の料理も教えてほしいと頼んで頼んで必死に頼み込んで、文也は「分かりました」と二人の依頼を引き受けた。案の定、ジルベール様達が「ベルトラン公爵家が彼の料理を独占するのはずるくないですか?」と言って彼のご両親まで「是非うちにも」と文也を勧誘し始めた。

 まあ色々とあってジルベール様達を説得し、文也は月に一度か二度、ベルトラン公爵邸を訪れている。

「なあ、文也。本当にこれだけでいいのか?」
「おう。クレマン様達から沢山貰ってるからな」
「それはそうだけど。俺、ずっとお前にお世話になってたじゃん? やっぱりその分のお金は払った方が……」
「モラン侯爵家からもかなり貰ってるから大丈夫だって」
「うーん」

 文也には色々とお世話になっているから、お金を受け取ってほしいが、本人が「大丈夫」と言うならこれ以上押し通すのは迷惑か? 文也がリゼットちゃんを助けたことと彼女がジルベール様の病気を治したことで、モラン侯爵家から毎月決まった金額が支払われているという。そして、ユベール様の誕生日パーティーの件でもクレマン様から報酬をいただいたそうだ。今回の依頼もクレマン様達が無理を言ってお願いしたことだから、その分のお金はきちんと支払われていると文也から教えてもらった。

「ジャノ。フェルナンもこう言っていますから、悩まなくて大丈夫ですよ」
「そうそう。それは本来お前に支払われる筈だった金なんだから、お前の使いたいものに使えよ」
「……分かった。その代わり、お前が困っている時は必ず助けるからな!」
「頼りにしてるぜ親友!」

 悪事を働いていた貴族達を一掃した後、俺の元に殿下が訪れて「これは君への報酬だから受け取って」と、大きなケースを幾つも置いていった。ケースの中にはお金がびっしり入っていて気絶しそうになったのは言うまでもない。殿下に詳しく話を聞くと、このお金は本来俺に支払われる筈だった給金だという。給金よりも多いような気がすると呟くと、俺への慰謝料や賠償金も含まれているからこの額なんだと説明してくれた。全てユベール様達と相談した上で決めた金額だから俺は気にしなくていい、と。勿論俺は「こんなに貰えません!」と断ろうとしたけど、王家も王家で事情があり、俺がこのお金を受け取らないと色々とまずいからということで、申し訳なく思いつつ受け取った。

 これだけあれば文也にお金を払える! と思ってお金を渡そうとしたんだけど、結局少ししか受け取ってもらえなかった。バーベキューパーティーのお金だって、本当は俺が払うつもりだったのに既にユベール様が文也に支払った後だった。更にクレマン様が上乗せしていて、モラン侯爵家のご両親からもお金を渡されたから今はかなり潤っているとか。むしろ大金を受け取り過ぎて後が怖いと呟いていた。分かる。分かるぜ。文也。急に大金を得ると怖いよな。俺も怖い。

「ところで、文也。殿下とは上手くやってるのか?」
「一応。俺も古代魔導具とロイヤル・ゼロを目覚めさせたということで、表彰式に出ることが決まった」
「ローズさんか。色々と落ち着いた後で冷静に考えると、やっぱり謎だよな。なんで俺と文也だったんだろう?」
「さあな。それも後々分かるだろ。気になるならリリーに直接聞いたらどうだ?」
「気になって聞いてみたんだけど『ご主人様が前のご主人様と同じだったからです』としか教えてくれなかった。他にも色々と条件はあるみたいだけど。リリーちゃん、あまりその時の記憶は思い出したくないみたいで」
「そうか」
「うん。だからリリーちゃんが話したくなるまで待とうかなって思ってる」
「……お前らしいな」
「へへ! でも良かった。表彰式、俺だけ出ないといけないのかとずっと不安で。お前も一緒だと聞いて安心した。パートナーはやっぱり殿下なのか?」
「…………」
「ジャノをエスコートするのは俺ですから安心してくださいね」
「ひ! ひゃい!」

 急に手を持ち上げられ、ちゅ、と手の甲にキスを落とされて変な声が出てしまった。美しい人がこういうことをするとやっぱり絵になるなあ。惚気も入っているが、どんな姿でもユベール様は麗しくて格好いい。

「相変わらず仲のいいことで。俺はフランソワさん達に用事があるのでこれで失礼します。二人ともお幸せに」
「お前もな」
「殿下との恋を応援している」
「殿下とは何もありませんから」

 真顔だった。文也も殿下のことが好きな筈なのに、頑なに認めようとしないんだよなあ。やっぱり身分とか国の代表になることへの不安や重圧が邪魔をしているのだろうか。もし、ユベール様が王太子殿下だったら俺も文也みたいに躊躇していたし、逃げていたかもしれない。公爵家でも不安ばかりなのに、王家はそれ以上の決まりや制限がある世界だ。

「殿下と文也、結ばれてほしいですね」
「彼も古代魔導具とロイヤル・ゼロを目覚めさせたんです。きっと大丈夫ですよ」
「ん」

 親友の心配をしていると、ユベール様に口付けられた。俺が文也とばかり話していて拗ねてしまったらしい。「少しだけ甘えさせてください」と言って、俺の胸元に顔を埋めて嬉しそうに微笑むユベール様は天使のように可愛い。彼は俺のことを「大天使様」と表現するけど、俺よりもユベール様の方が天使だと思う。






 ソファに座って二人で寛ぎながら、俺は届いた手紙を読んでいた。差出人はモラン侯爵家のジルベール様達。内容は四月から王立学園に通うことが決まったというお知らせだ。ジルベール様とリゼットちゃんは一年前から王立学園に入学することが決まっていた。

 ニコラくんも王立学園にという話はあったが、本人が「お金がかかるから俺のことはいいよ」と言って断っていたそうだ。でも、ジョエルちゃんと再会して将来はデュボア男爵家を支えたいと強く思うようになり、それなら王立学園で基礎知識を学ぶべきだと考え直し、ジョエルちゃんと一緒に通うことを決めた。

 二人の学費についてはモラン侯爵様が出してくれるそうで、ブレーズさんは「学費は私が」と言ったがニコラくんもジョエルちゃんも既に家族だからと説得したらしい。ブレーズさんはジョエルちゃんの意思を確認して、モラン侯爵家なら安心だと告げて領地へと帰って行った。これからお互い家族になるからと優秀な騎士達も派遣してくれたとか。そのお陰でデュボア男爵領の民達は以前よりもいい暮らしが出来るようになり、意地悪な貴族からの嫌がらせもなくなって、領民達はブレーズさんとモラン侯爵家の人達にとても感謝していると手紙に綴られていた。

「入学式は四月なんですね。なんだか日本っぽいなあ」
「ジャノの国も四月だったんですか?」
「はい。海外だと九月が主流だと聞いたことがあるので、意外だなあと思って」
「そうですか」
「これも古代文明と何か関係があるんでしょうか」
「今は何も分かりませんね。ですが、少しずつその謎も解明されていく筈です」
「そうですね。ジルベール様達、王立学園に通うなんて凄いなあ。沢山学んで、沢山青春を謳歌してほしい」
「注目されるのは間違いありません。あの四人はとても人気ですから」
「確かに」

 ジルベール様とリゼットちゃんの婚約パーティーでも色々と凄かったらしい。二人とも大人気で、婚約した後でも求婚者が続出したってニコラくんから聞いた。ニコラくんとジョエルちゃんも同じ状況になったと聞いた。婚約しているのに次から次へと声をかけられ、求婚されかなり疲れたと文也の店で愚痴を零していたらしい。

「俺達も、今から準備をしておきましょうか」
「準備?」
「表彰式に着る衣装と宝飾品です! 今回は白をベースに青をちりばめたデザインにしましょう!」
「えっと、その衣装って」
「勿論ドレスです!」
「…………」
「何処に行くんですか? リリー。貴方には俺がデザインした衣装を忠実に作っていただかなければならないのですから、逃げないでください」

 ひぃいいいいいいい! ご、ご主人様! 助けてください! あんなパワハラを受けるのはもう嫌ですぅ! リリーはご主人様と一緒にのんびり過ごしたいですぅうううううう!

 今のリリーちゃんは両手に乗るくらいの大きさまで小さくなっている。ユベール様の誕生日パーティーで着たドレスで、ネックレス以外の宝石も小さくなっている。顔の部分にネックレスになっていたサファイアがあって、リリーちゃんは部屋の中を優雅に飛んで寛いでいた。しかし、ユベール様の話を聞いたリリーちゃんはピタッと固まり、そっと逃げ出そうとしたがユベール様に捕まってしまい、必死に助けを求めようとする。

「ユベール様。リリーちゃんに無理強いは」
「分かっています。ジャノ。以前のような無茶なお願いはしません。最初から完璧なものを作り上げればいいだけですからね!」

 やだぁああああああああああ! 完璧じゃなかったら怒るんでしょ!? 烈火の如く怒るんでしょ!? リリー知ってる! 完璧なものが出来るまで部下を帰らせない典型的なブラック上司! リリーはゆとり世代なので圧迫面接もブラック企業も高威圧的な上司も全部嫌ですー! 社会の荒波に揉まれても強くなれません! 衰弱死するだけです! リリーは! リリーは打たれ弱いんです!

「あ、うん」

 なんか久しぶりに聞いたな。ゆとり世代。リリーちゃん、もしかして日本で暮らしてたことある? 社畜だったの? 日本の影響受けすぎだと思うんだけど。リリーちゃんに詳しく聞きたいけど、ユベール様に捕まってそれどころじゃない。必死に抵抗していたリリーちゃんだけど、ユベール様の無言の圧力に屈して大人しくなった。ロイヤル・ゼロに対してこんな無茶振りをしていいのか? と疑問に思うけど、リリーちゃんは「ユベール様は怖いけど拘りが強いところ以外は好き」と言っていたから大丈夫、だと思いたい。

「ユベール様。リリー様にあまり無茶なことは言わないでください」
「坊っちゃま。気持ちは分かりますが、リリー様の嫌がることをしてはいけません」

 ステラさんとレイモンさんが一緒ならリリーちゃんも安心だろう。二人がユベール様に注意した瞬間、ユベール様の両手からするりと抜け出してステラさんとレイモンさんに全身をすり寄せていた。

 ありがとうございます! ありがとうございます! リリーは褒められて甘やかされて伸びるタイプなんです! リリーは、リリーは甘やかしてくれる人が大好きです!
「リリーちゃん」

 それはどうかと思う、と注意しようと思ったが、俺も俺で文也やユベール様達に甘えてばかりなので説得力がない。この後、ユベール様とリリーちゃんの攻防戦が暫く続き、俺はその光景を眺めながらステラさんが淹れてくれた紅茶と、レイモンさんが用意してくれたお菓子を堪能した。





ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

「当て馬にされていた不憫な使用人は天才魔導士様に囲われる」はこれで一旦完結です。

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みんなの感想(24件)

ピスケ
2024.10.03 ピスケ

第2部完結🙌お疲れ様でした〜近況報告にも書いて有りましたが是非 第3部もこちらにもお願い致します🙇
また楽しみにしております🥰❤️

トキ
2024.10.05 トキ

ピスケ様

感想ありがとうございます。第三部は他サイトには投稿しているのですが、近況ボードでも書いた通りこちらに投稿するかは検討中です。

その時はまたお知らせしますので、よろしくお願いします。

解除
あいうえおん
ネタバレ含む
トキ
2024.10.02 トキ

あいうえおん様

感想ありがとうございます。第三部でローズがが活躍します。

解除
aimi
2024.09.27 aimi
ネタバレ含む
トキ
2024.09.28 トキ

aimi様

感想ありがとうございます。ジャノに救われてからずっと崇拝しています。十年も会えなかったこともユベールの愛が重くなった原因の一つです。

一歩間違うとヤンデレ一直線ですが、ジャノが無自覚にユベールを甘やかしているのでギャグで終わっている状況です。

ジャノを好きすぎて時々不安になる発言はしますが……

解除

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