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第二部

後日談「お庭でパーティー」

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 寒い冬が過ぎ去り、まだ寒さは残るものの春の兆しが見える三月。文也とユベール様に協力してもらって、ずっと予定していた身内だけのパーティーを開催した。リゼットちゃん達の予定を聞いて、クレマン様とラナ様の予定も聞いて、参加する人数も確認して、ベルトラン公爵邸の広いお庭をお借りして開くパーティーは、この世界では珍しいかもしれないバーベキューパーティーだ!

「皆さん、集まってくれてありがとうございます。今日は何時もお世話になっている皆様の為に、沢山美味しい料理を用意してもらいました。最後まで楽しんでください」

 身内だけのパーティーなので、挨拶も簡単に済ませる。好きな飲み物が注がれたグラスを片手に、みんなで乾杯する。広いお庭に沢山の長テーブルや丸テーブルを設置して、椅子も用意した。この日の為に、ユベール様は数ヶ月という短い期間でバーベキューに必要なコンロやホットプレートを作ってくれた。安全面や火力もきちんと確認してくれて、文也もすごく驚いていた。

「どんどん焼いていくから沢山食べてくださいね! 野菜にお肉に魚介類! ソースも用意したので好きに使ってください」
「文也! 俺も手伝う! 俺が言い出したことだもん」
「いいのか? お前だって食べたいだろ?」
「後で食べるから大丈夫!」

 今日の俺の格好はドレスではなく、とてもラフな格好だ。白いシャツに黒のズボン。そしてエプロン。バーベキューと言ったらやっぱり炭火焼きだよな! 火起こしは俺と文也、フランソワさん達にも手伝ってもらって、網の上にお肉や野菜、魚介類を次々と置いて焼いていく。ジュッと香ばしい匂いが充満して食欲を唆る。

「はい。どうぞ」
「ありがとうございます! ジャノさん!」
「ジャノさん。ありがとうございます。すみません、急に人数を増やしてしまって」
「大丈夫ですよ。食材は多めに用意していたので! でも、このペースだと全部無くなりそうですね」
「本当に、ごめんなさい。私達が参加すると知ったら、みんな『ずるいです!』と言って無理矢理」
「文也の料理が美味しかったんですね」

 最初はベルトラン公爵家の方達とリゼットちゃん達が参加する予定だったけど、その話を聞いた騎士団の方達が「俺達も参加したい!」と言って聞かなかったらしい。ジルベール様から手紙で急遽人数が増えることになったと知らせを受けていたから、余裕を持って食材を準備できたから問題はないんだけど。

 焼くよりも食べるスピードの方が早いから、どうしても順番待ちになってしまう。フランソワさん達にも手伝ってもらっているけど、みんなの食欲が凄い。パンとご飯も用意しているが、それもあっという間に無くなって急いでシェフ達に用意してもらっている。申し訳ない。本当はフランソワさん達にも美味しいものを食べて楽しんでほしかったのに。この国の人達はお酒好きな人も多いから、テーブルのあちこちに空になった瓶が転がっている。

「フェル。僕が代わるよ。君、ずっと焼いてばかりで食べてないでしょ?」
「俺も代わりますよ。ジャノ、貴方も沢山食べてください」
「え? でも、流石にそれは……」
「殿下にしてもらうのは申し訳ないです」
「身分を気にせずって言ったのは君達だよ。このパーティーは、みんなで楽しむものでしょう?」
「殿下とユベール様の言う通りです。フランソワさん、俺が代わりますよ」
「それなら私は少なくなった食べ物の補充をします!」
「私も空いた瓶やお皿を片付けます!」
「俺が出来た料理をテーブルに運んでやるよ」

 こう言われてしまったら何も言い返せない。申し訳ないと思いつつ、俺達は食材を焼く係を代わってもらった。みんな初めて焼くから俺と文也がどの程度焼くのかを教えると、どんどん上達して俺達も美味しいお肉や野菜、魚介類を堪能した。するとユベール様達ばかりに焼く係をさせる訳にはいかないとステラさんとレイモンさん、更にはクレマン様やラナ様、ジルベール様のご両親も焼くと言って本当に焼いていた。ブレーズさんも手伝ってくれて、本当に身分関係なくパーティーを楽しんでくれて嬉しい気持ちになる。

「フェルナン。食材、全部無くなったぞ?」
「すみません。うちの騎士達が遠慮なく次から次へとバクバクと」
「あぁ。敢えて少なくしてたんだ。みんなまだ満腹じゃないよな?」
「え? はい」
「まだ食べられます」
「お次はこれ! お好み焼きと焼きそばだ!」
「一気に屋台感が増したな。大好きだけど!」

 そう、俺達は敢えて焼くお肉や魚介類を少なめに用意していたのだ。その理由は、バーベキューをある程度楽しんだ後、お好み焼きと焼きそばを楽しんでもらう為! こっちはホットプレートに似た魔導具で調理する。焼きそばは文也が担当し、俺はお好み焼きを担当する。具材はお肉と魚介類以外にもチーズやお餅も用意している。相変わらず何処でお餅を入手したのかは分からない。でも美味しいからいいんだ!

「焼きそば完成したぞー! 食いたい奴は皿を持って並べー」
「お前適当だな? よっと。後はソースを塗って、お好み焼きも完成しました! マヨネーズ、青のり、かつお節はお好みで!」

 調理する前から行列ができていたが、焼きそばもお好み焼きも大好評だった。特にお好み焼きをひっくり返すのが面白そうで「俺もやってみたい!」って言う人が多くて、綺麗にひっくり返せて喜ぶ人、ベチャッとなって落ち込む人など、これもパーティーの醍醐味だよな。お好み焼きと焼きそばも焼く係を変わってもらって、俺と文也も沢山食べさせてもらった。とっても美味しかった!





 これでパーティーで披露する料理は終わりの筈だったんだけど、文也が「さて、やっとこれをお披露目できるな」と言って保冷効果のあるクーラーボックスに似た魔導具から大きなブロック肉を取り出し、ドン! とまな板の上に置いた。そのお肉は一見普通のお肉に見えるが、俺には分かる。これは……

「霜降り和牛じゃねえか!」

 日本でも高級食材として有名な和牛。高すぎて中々手が出せない幻の食材と言っても過言ではないお肉を、此奴は一体何処でどうやって入手したのか。

「正しくは和牛に限りなく近い高級なお肉、だけどな。偶々寄った市場で『売れない』って嘆いていた人がいたから、俺が全部買い取ったんだ。和牛と同じ価格で」
「売れない?」
「あぁ。『脂身ばかりで不味そう』って言われたそうだ」
「し、信じられない。こんな、こんな高級食材を『不味そう』と言えるなんて」
「まあそれも仕方ないのかもな。という訳で、今から和牛のステーキを作りたいと思いまーす! 薄くスライスしてサンドイッチにしても美味いから楽しみにしててくれよ!」
「なんて贅沢な食べ方!」
「ステーキ丼とか?」
「絶対美味しいヤツ!」

 この世界で初めて和牛、正しくは和牛に似たお肉を食べられる喜びにジュルジュルと涎が垂れそうになる。ステーキは勿論、ローストビーフも作るんだって。テンションが高いのは俺だけで、ユベール様達は「え?」という微妙な表情をしていた。やっぱり馴染みのないものなんだろう。

「食の世界に革命を起こしてやるぜ!」
「もう既に起こしてますよ。文也さん」

 文也もテンション高いな? 文也も初めて見たんだろうな。和牛。正しくは和牛に似たお肉。文也は周囲の反応を全く気にせず、切ったお肉を次々と焼いていく。味付けはとってもシンプルで塩と胡椒だけ。お好みで専用のソースで食べてもいいし、おろしポン酢で食べてもいい。俺は全種類食べるけどな!

「焼けたぞ! 遠慮せずにどんどん食え!」
「わあーい! いただきまーす!」

 相変わらずテンションが高いのは俺と文也だけだけど、一口サイズにカットされたステーキを口に入れた瞬間、ジュワッと肉汁が広がって頬が緩む。とっても柔らかくて、これぞ和牛! と異世界で和牛の美味しさを堪能できた俺は感動のあまり泣きそうになった。

「ほら、皆さんも食べてください! 一口食べたら世界が変わりますよ!」
「そうですよ! ほら! ユベール様! 試しに一口!」
「え? ジャ、ジャノ! そんな大胆にむぐ!」

 この美味しさをみんなにも知ってほしくて、俺はユベール様の口にステーキを突っ込んだ。最初は難しい顔をしていたユベール様も、もごもごと口を動かした瞬間、パッと表情が明るくなる。

「ユベール? 大丈夫?」
「ユベール様?」
「おい、しい。な、なんですか!? この柔らかジューシーなお肉は!? 初めて食べました!」
「ようこそ! 和牛の世界へ!」
「お前もお前で変な迷言作るなよ。さあ、これで美味しさは保証されましたよね? どんどん食べてください!」

 ユベール様の反応を見て、リゼットちゃん達も渋々ステーキを受け取ってパクッと口にする。みんな予想通りの反応をして、その後はやっぱりステーキ争奪戦になった。大乱闘にはならなかったけど、我先にとお肉を求めて骨肉の争いが繰り広げられ、俺はそんな賑やかな雰囲気を楽しみながらレタスとステーキをパンに挟んでサンドイッチを作ったり、ご飯にステーキを乗せてステーキ丼を作ったり。ちょっとわさびを乗せて食べるともう最高で、みんな俺の真似をしてその美味しさに驚いていた。

「やべ。やり過ぎたかも」
「クレマン様達、和牛を買い占めるって言ってて怖いんだけど」
「正しくは和牛に限りなく近いお肉な。まあ、色々と面倒だからもう和牛でいいんじゃね?」
「本当に適当だな。お前」

 でも、文也が言った通り、革命は起きてしまったかもしれない。今から値段交渉とか資金援助はどうするかとか経済的な話を始めてるもん。ちょっと気になって文也に聞いてみたら、やっぱりこのお肉もかなり貴重なものらしく、売れないということで自分達が食べる分しか用意していないとか。ダメ元で市場に出して、売れなかったら持って帰って家族で食べる、ということを繰り返していたそうな。文也の話を聞いて、やっぱり和牛は幻の高級食材なんだなと改めて実感した。この世界のお肉も美味しいんだけどね!
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