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第二部
大切な人には正直に1
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長い一日が終わり、部屋に戻ると俺はステラさんとレイモンさんに「ユベール様と二人きりにしてほしい」とお願いした。どうしても二人だけで話したいことがあると言ったら、二人は「扉の前で待機しているから何かあれば声をかけてください」と伝えて俺達に一礼した。二人が退室し、部屋には俺とユベール様だけ。話すと長くなると思い、俺はお茶の用意をしてからソファに腰掛けた。
「ユベール様。どうぞ。カモミールティーです。ミルクとハチミツも用意しているので、よかったら」
「ありがとうございます。ジャノ。いい香りですね」
「温かい飲み物ってなんだかほっとしますよね」
「はい。とても、安心する香りと味です」
優雅にカモミールティーを楽しむユベール様の姿に見惚れつつ、ミルクとハチミツを入れてよく混ぜてから俺もカップを持ち上げる。一口飲むと優しい味が口の中に広がって一気に全身の力が抜ける。もう一口飲んでカップをソーサーにそっと置き、俺はユベール様を見据え本題に入った。
「昨日も言ったんですけど、ユベール様に話したいことがあるんです」
「ジャノの祖国について、ですか?」
「はい。俺が前に住んでいた国は、日本という国でした」
「ニホン?」
首を傾げるユベール様に、俺は簡単に前の世界と生まれた国について説明した。魔法が存在しないこと。みんな魔法の存在は知っているが、それはアニメ、漫画、小説、ゲームなどの中で登場人物達が使っているから知っていること。魔法ではなく科学技術が発展していること。この世界ではまだ開発されていない便利な道具もあったこと。
「俺には日本で過ごしていた時の記憶と、この世界で生きてきた記憶があるんです。前世の記憶と今世の記憶、二つの記憶を持っていて、だから名前が二つあるんです。金森裕人は前世の名前です」
「前世とは?」
「……信じられないかもしれませんが、俺は一度命を落とし、この世界に転生しました。前の世界では『異世界転生』と呼ばれています。これも物語の中だけの話だと思っていたんですが、ユベール様が襲われそうになっていた時に前世の記憶を思い出して……」
「命を落としたんですか!? ジャノが!? 大丈夫なんですか!? 痛みや後遺症は!?」
「お、落ち着いてください! ユベール様! 確かに俺は一度死にましたが、今はジャノとして生きています! ほら! ちゃんと触れられるでしょう? 体温だって……」
「す、すみません。ジャノが命を落としたというから、気が動転して」
「いえ。いいんです。俺もユベール様の魔力が暴発しそうになったって聞いて、同じ反応をしてしまいましたから」
ユベール様の手を両手で包むように握ると彼は落ち着きを取り戻した。非現実的な話だけど、ユベール様は俺の話を信じてくれているようだ。
「ジャノ。フェルナンも、そうなんですか?」
「……はい。俺が時々『文也』って呼んでいたのは、そっちの方が呼び慣れた名前だったからなんです。ユベール様達が『初めて見る料理だ』と言っていた料理は全て、彼奴が前世でよく作っていた料理なんです」
「なるほど。ひょっとして、ニホンという国は拘りが強い人が多いのではありませんか?」
「全員がそうではないんですけど、職人さん達の技術は世界に通用するくらい凄いです」
「なるほど。フランソワ達が彼の料理に惚れ込む理由が分かった気がします」
「あはは。まあ、国民性もあるのかなあ、と」
ユベール様が興味津々に日本について聞いてきたので、俺は答えられる範囲で答えていった。昔は身分制度があったが今はないこと、人々の人権が法律で守られていること、義務教育があり学校で様々な教科を学ぶことなど、一通り説明するとユベール様は満足してくれた。
「ありがとうございます。ジャノ」
「こちらこそ、ありがとうございます。ユベール様は、俺を信じてくれるんですね」
「信じるしかないでしょう? ジャノとフェルナンは、俺達とは何かが違うとずっと思っていましたから。貴方の話を聞いて腑に落ちました」
頬に手を添えられてそっと撫でられる。ユベール様の大きくて綺麗な手が心地よくて目を細めてしまう。彼の大きな手に自分の手を重ねて俺はもう一度「信じてくれて、ありがとうございます」とユベール様にお礼を言った。
ずっと秘密にしていたことをユベール様に話せて肩の荷が下りた気がした。カモミールティーを二人で楽しんだ後、俺はソファから立ち上がり「ちょっと待っていてください」とユベール様に告げる。俺が書いた小説を収納している棚の扉を開け、綺麗に包装された小さな箱を取り出す。棚の扉を閉め、俺は小さな箱を持って再びソファへ戻り、ユベール様にその箱を差し出した。
「ユベール様。お誕生日、おめでとうございます」
「これは、プレゼント、ですか?」
「はい。俺からユベール様への、誕生日プレゼントです」
「ジャノ!」
「うわ!」
ユベール様が急に立ち上がり、俺をぎゅうぎゅうと抱きしめる。強い力で抱きしめられてちょっと苦しいけど、ユベール様の体温を感じられて安心してしまう。
「すみません。ジャノ。嬉しくて、つい」
「気にしないでください。ユベール様。誕生日プレゼント、受け取ってくれますか?」
「勿論です。今開けても?」
「はい」
俺から誕生日プレゼントを受け取ったユベール様はゆっくりと青いリボンをほどき、藍色の包装紙を綺麗に外してテーブルに置く。小さな箱を開けて中を確認したユベール様はそこから視線を外さずじっと見つめている。
「しおり、ですか?」
「押し花のしおりです。小説を読む時とか、ノートの確認をする時に便利かなと思って」
文也のアドバイスを受けて、俺はジョエルちゃんに押し花としおりの作り方を教えてもらった。ユベール様の瞳の色を意識して寒色系のビオラを押し花にしてしおりを作ったのだ。押し花の配置とか色の組み合わせはリゼットちゃんとジョエルちゃんにアドバイスをもらい、納得できる仕上がりになったと思う。ユベール様の誕生日プレゼントに作ったしおりは三種類。本当はもう少し作りたかったけど、時間が足りなかった。
「これを、ジャノが作ったんですか?」
「リゼットちゃんとジョエルちゃんにも手伝ってもらいながら」
「ありがとうございます。ジャノ。とても、とても嬉しいです。家宝にします!」
「え?」
「ジャノが初めて俺の為に作ってくれたこの世界にたった一つしかない貴重なしおりです! 何重にも防護魔法と防水魔法をかけて、何時でも眺められるように額縁に入れて飾らなければ!」
「いや、使ってください! このしおりはユベール様に使ってほしくて作ったんですから!」
「使うなんて勿体ない! 持ち歩いて何処かに落としてしまっては大変です! 盗まれる可能性だってあるのに!」
「盗まれる?」
盗む人なんていないと思うが、ユベール様は真剣に防犯対策を考えている。あぁ、何時ものユベール様に戻ってしまった。いや、作っている時も「ユベール様なら使わずに額縁に入れて飾りそう」ってリゼットちゃん達と話していたけど、本当にそうするとは思わな……するよな。ユベール様だもん。
「あぁ。どの角度から見ても美しい。ありがとうございます! ジャノ!」
「あ、はい」
三枚のしおりを両手で掲げて、ユベール様は頬を赤く染めうっとりと眺め続けている。「ジャノの手作り」と何度も呟いて少し怖いが、とても喜んでくれたのでよかったのかもしれない。ユベール様と一緒に生きるって決めたけど、時々暴走するユベール様を見ると「この人を選んで大丈夫かな?」とちょっぴり不安になる。そんな姿も含めてユベール様のことを好きになったのだから、きっと大丈夫だろう。大丈夫だと、思いたい。大丈夫、だよな?
「今日のことは『『俺が敬愛する純白の大天使様:part429』にしっかり記さなければ!」
「…………」
やっぱり不安だ。ユベール様、日記の数増えていませんか? 気のせい?
「ユベール様。どうぞ。カモミールティーです。ミルクとハチミツも用意しているので、よかったら」
「ありがとうございます。ジャノ。いい香りですね」
「温かい飲み物ってなんだかほっとしますよね」
「はい。とても、安心する香りと味です」
優雅にカモミールティーを楽しむユベール様の姿に見惚れつつ、ミルクとハチミツを入れてよく混ぜてから俺もカップを持ち上げる。一口飲むと優しい味が口の中に広がって一気に全身の力が抜ける。もう一口飲んでカップをソーサーにそっと置き、俺はユベール様を見据え本題に入った。
「昨日も言ったんですけど、ユベール様に話したいことがあるんです」
「ジャノの祖国について、ですか?」
「はい。俺が前に住んでいた国は、日本という国でした」
「ニホン?」
首を傾げるユベール様に、俺は簡単に前の世界と生まれた国について説明した。魔法が存在しないこと。みんな魔法の存在は知っているが、それはアニメ、漫画、小説、ゲームなどの中で登場人物達が使っているから知っていること。魔法ではなく科学技術が発展していること。この世界ではまだ開発されていない便利な道具もあったこと。
「俺には日本で過ごしていた時の記憶と、この世界で生きてきた記憶があるんです。前世の記憶と今世の記憶、二つの記憶を持っていて、だから名前が二つあるんです。金森裕人は前世の名前です」
「前世とは?」
「……信じられないかもしれませんが、俺は一度命を落とし、この世界に転生しました。前の世界では『異世界転生』と呼ばれています。これも物語の中だけの話だと思っていたんですが、ユベール様が襲われそうになっていた時に前世の記憶を思い出して……」
「命を落としたんですか!? ジャノが!? 大丈夫なんですか!? 痛みや後遺症は!?」
「お、落ち着いてください! ユベール様! 確かに俺は一度死にましたが、今はジャノとして生きています! ほら! ちゃんと触れられるでしょう? 体温だって……」
「す、すみません。ジャノが命を落としたというから、気が動転して」
「いえ。いいんです。俺もユベール様の魔力が暴発しそうになったって聞いて、同じ反応をしてしまいましたから」
ユベール様の手を両手で包むように握ると彼は落ち着きを取り戻した。非現実的な話だけど、ユベール様は俺の話を信じてくれているようだ。
「ジャノ。フェルナンも、そうなんですか?」
「……はい。俺が時々『文也』って呼んでいたのは、そっちの方が呼び慣れた名前だったからなんです。ユベール様達が『初めて見る料理だ』と言っていた料理は全て、彼奴が前世でよく作っていた料理なんです」
「なるほど。ひょっとして、ニホンという国は拘りが強い人が多いのではありませんか?」
「全員がそうではないんですけど、職人さん達の技術は世界に通用するくらい凄いです」
「なるほど。フランソワ達が彼の料理に惚れ込む理由が分かった気がします」
「あはは。まあ、国民性もあるのかなあ、と」
ユベール様が興味津々に日本について聞いてきたので、俺は答えられる範囲で答えていった。昔は身分制度があったが今はないこと、人々の人権が法律で守られていること、義務教育があり学校で様々な教科を学ぶことなど、一通り説明するとユベール様は満足してくれた。
「ありがとうございます。ジャノ」
「こちらこそ、ありがとうございます。ユベール様は、俺を信じてくれるんですね」
「信じるしかないでしょう? ジャノとフェルナンは、俺達とは何かが違うとずっと思っていましたから。貴方の話を聞いて腑に落ちました」
頬に手を添えられてそっと撫でられる。ユベール様の大きくて綺麗な手が心地よくて目を細めてしまう。彼の大きな手に自分の手を重ねて俺はもう一度「信じてくれて、ありがとうございます」とユベール様にお礼を言った。
ずっと秘密にしていたことをユベール様に話せて肩の荷が下りた気がした。カモミールティーを二人で楽しんだ後、俺はソファから立ち上がり「ちょっと待っていてください」とユベール様に告げる。俺が書いた小説を収納している棚の扉を開け、綺麗に包装された小さな箱を取り出す。棚の扉を閉め、俺は小さな箱を持って再びソファへ戻り、ユベール様にその箱を差し出した。
「ユベール様。お誕生日、おめでとうございます」
「これは、プレゼント、ですか?」
「はい。俺からユベール様への、誕生日プレゼントです」
「ジャノ!」
「うわ!」
ユベール様が急に立ち上がり、俺をぎゅうぎゅうと抱きしめる。強い力で抱きしめられてちょっと苦しいけど、ユベール様の体温を感じられて安心してしまう。
「すみません。ジャノ。嬉しくて、つい」
「気にしないでください。ユベール様。誕生日プレゼント、受け取ってくれますか?」
「勿論です。今開けても?」
「はい」
俺から誕生日プレゼントを受け取ったユベール様はゆっくりと青いリボンをほどき、藍色の包装紙を綺麗に外してテーブルに置く。小さな箱を開けて中を確認したユベール様はそこから視線を外さずじっと見つめている。
「しおり、ですか?」
「押し花のしおりです。小説を読む時とか、ノートの確認をする時に便利かなと思って」
文也のアドバイスを受けて、俺はジョエルちゃんに押し花としおりの作り方を教えてもらった。ユベール様の瞳の色を意識して寒色系のビオラを押し花にしてしおりを作ったのだ。押し花の配置とか色の組み合わせはリゼットちゃんとジョエルちゃんにアドバイスをもらい、納得できる仕上がりになったと思う。ユベール様の誕生日プレゼントに作ったしおりは三種類。本当はもう少し作りたかったけど、時間が足りなかった。
「これを、ジャノが作ったんですか?」
「リゼットちゃんとジョエルちゃんにも手伝ってもらいながら」
「ありがとうございます。ジャノ。とても、とても嬉しいです。家宝にします!」
「え?」
「ジャノが初めて俺の為に作ってくれたこの世界にたった一つしかない貴重なしおりです! 何重にも防護魔法と防水魔法をかけて、何時でも眺められるように額縁に入れて飾らなければ!」
「いや、使ってください! このしおりはユベール様に使ってほしくて作ったんですから!」
「使うなんて勿体ない! 持ち歩いて何処かに落としてしまっては大変です! 盗まれる可能性だってあるのに!」
「盗まれる?」
盗む人なんていないと思うが、ユベール様は真剣に防犯対策を考えている。あぁ、何時ものユベール様に戻ってしまった。いや、作っている時も「ユベール様なら使わずに額縁に入れて飾りそう」ってリゼットちゃん達と話していたけど、本当にそうするとは思わな……するよな。ユベール様だもん。
「あぁ。どの角度から見ても美しい。ありがとうございます! ジャノ!」
「あ、はい」
三枚のしおりを両手で掲げて、ユベール様は頬を赤く染めうっとりと眺め続けている。「ジャノの手作り」と何度も呟いて少し怖いが、とても喜んでくれたのでよかったのかもしれない。ユベール様と一緒に生きるって決めたけど、時々暴走するユベール様を見ると「この人を選んで大丈夫かな?」とちょっぴり不安になる。そんな姿も含めてユベール様のことを好きになったのだから、きっと大丈夫だろう。大丈夫だと、思いたい。大丈夫、だよな?
「今日のことは『『俺が敬愛する純白の大天使様:part429』にしっかり記さなければ!」
「…………」
やっぱり不安だ。ユベール様、日記の数増えていませんか? 気のせい?
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