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第二部

古代魔導具とロイヤル・ゼロ4

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 折角ドレスと宝飾品を身に付けたのだから、午後は本格的にダンスの練習をしてみよう、という話になった。昨日までは空き部屋をレッスン部屋として使わせてもらっていたけど、今日は実際にパーティーで使われるホールでの練習だ。楽団の人達にもそう伝えて、俺はリリーちゃんを纏ったままユベール様とダンスの練習を始めた、のだが……

「あれ?」

 音楽が響き始めた瞬間、手足が勝手に動いた。全身が引き締まったような感覚がする。何時もはぎこちない動きになってしまうのに、ユベール様に支えてもらってばかりだったのに、今日はユベール様の動きに合わせて勝手に身体が動く。ステップも、ターンも、曲とのタイミングも、全て完璧で頭の天辺から足の爪先まで洗練された動きができていた。一曲踊り終わった直後、ホール内は大きな歓声と盛大な拍手に包まれた。ハッとして周囲を見ると、ベルトラン公爵家に仕える多くの執事さんやメイドさん達が見学していた。え? 何時の間に!?

「す、すごいじゃないですか! ジャノ! 今のダンスは全てが完璧でした! 何時の間にこんなに上達したんですか!?」
「え? いや、あの……これは、俺の実力じゃなくて、多分リリーちゃんの力だと思います」

 ユベール様の頭上に文字が浮かび上がった。俺の思っていた通り、さっきのはリリーちゃんの力だった。貴族としての立ち振る舞いは勿論、ダンスや演奏も完璧にできるらしい。ロイヤル・ゼロを身に付けるだけで、どんなプロにもなれるって訳だ。凄いな。リリーちゃん。流石は古代魔導具ロイヤル・ゼロ。

「素晴らしいです! ジャノ様! 姿勢も挨拶も食事マナーも、全て完璧ですわ!」
「……リリーちゃんのお陰です」

 ダンスの練習の後、気になって食事マナーなども練習してみたけど、予想通り全て完璧にできてしまった。ステラさんは俺をべた褒めするけど、これはリリーちゃんの実力であって俺の実力じゃない。

「彼女がいれば、誕生日パーティーは大成功間違いなしですね! ジャノ!」
「…………」

 確かに、リリーちゃんの力を使えば誕生日パーティーで恥をかかなくて済むし、他の貴族達にも負けないくらいの立ち振る舞いはできる。練習だってしなくていい。だけど……

「ジャノ?」
「ユベール様。俺、練習は続けたいです」
「え?」
「リリーちゃんの力は本当に凄いです。正直、全て任せたいと思うくらい。でも、俺だけリリーちゃんの力を借りて楽するのは嫌なんです。他の方達は幼い頃から厳しい教育を受けて貴族としての立ち振る舞いや礼儀作法を覚えたんですよね? それは、その人が努力に努力を重ねて得た大切な財産です。俺だけズルをする訳にはいきません。だから、ギリギリまで練習を続けさせてください。リリーちゃんの力を借りた方が楽だし、失敗しないし、完璧な動きができるのは事実です。でも、俺は自分の実力だけでユベール様の隣に立ちたい。ダメ、ですか?」

 リリーちゃんの力を借りずに実力のみで頑張ってみたい。だって、リリーちゃんの力を借りてしまったら、周囲の貴族達はきっとこう思うに違いない。「お前だけ楽してズルい」と。「特別な力を借りて私達を騙していたのか」と。そう思われるのは嫌だし、俺もリリーちゃんの力は極力使いたくない。

「ジャノ」
「ジャノ様……」
「でも、身体で覚えるのはいいことだと思うので、練習の最初と最後だけリリーちゃんの力をお借りしたいなって。そうすればダンスも立ち振る舞いも上達すると思うので。あくまでお手本として、ですけど。リリーちゃん、お願いしてもいい?」

 空中に「勿論です! ご主人様! ご主人様の為ならこのリリー、どんな願いでも叶えてみせます!」と文字が浮かび上がった。その文字がちょっと乱れていたし後に続く文字はぐちゃぐちゃになっていて全く読めない。これは、感動しているのか?

「リリーが、ジャノを選んだ理由が分かった気がします」
「ジャノ様だから、リリー様は目覚めたのでしょうね」

 ユベール様とステラさんにもお願いしたら、二人は快く了承してくれた。今後も練習は続けてもいい。練習の最初と最後だけリリーちゃんにお手本の動きをしてもらう。これなら一ヶ月くらいでも形にはなる筈だ。でも、本番で俺が失敗した時はフォローしてほしいとリリーちゃんにお願いした。即了承してくれた。うん。心強い。リリーちゃんのお陰で、なんとかなる気がしてきた!
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