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第二部

古代魔導具とロイヤル・ゼロ1

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 ユベール様と両想いになり、ウエディングドレスを着せられ、ユベール様にお姫様抱っこされて公爵邸を一周して、俺はすっごく恥ずかしかった。その日から公爵邸の雰囲気が祝福ムードで、出される料理は必ず一品ハートの形になっていて、みんなから「若奥様」って呼ばれて、ユベール様と一緒にいると「おめでとうございます!」と感動されて、居心地が悪い。

 平穏な日常に戻ったような、そうでもないような。リゼットちゃんとジルベール様の婚約パーティーが無事に終わり、次はユベール様の誕生日パーティー。ユベール様の命の恩人だからと、俺もこのパーティーには出席しなければならない。ユベール様の誕生日パーティーともなれば、当然規模は大きく、多くの貴族や商人達がベルトラン公爵邸にやって来る。だから食事マナーや礼儀作法、ダンスなど、必要最低限の教養は身に付けておいて損はないとステラさんに提案され、俺は毎日礼儀作法の勉強やダンスの練習を続けている。

「あ」
「おっと。大丈夫ですか? ジャノ」
「すみません。また同じところで失敗して」
「少し休憩しますか?」
「いえ。上達したいので、もう少し頑張ってみます」

 俺が「もう一度、最初からお願いします」と伝えると、ゆったりとした音楽が部屋の中に響き渡る。ダンスの練習をするなら本番と同じ条件でした方が上達すると言って、ユベール様が楽団に依頼したのだ。俺が身に付けているドレスも社交界用の華やかなデザインのもので、ユベール様も青地に銀糸の刺繍が入った貴族の衣装に身を包んでいる。

「では、もう一度」
「はい」

 音楽に合わせて教えてもらった通り足を動かす。ユベール様がリードしてくれるので、なんとか一曲踊り切ることができたけど、俺の動きはやっぱりぎこちない。ダンスを習い始めてまだ日が浅いのだから当然だ。これから約一ヶ月で本当に上達するのだろうか。ぅう、不安だ。

「凄いです! ジャノ! 一曲踊れたじゃないですか!」
「はい。なんとか。でも、もっと練習しないとダメですね」
「今日はこれで終わりにしましょう。練習のしすぎは体によくありませんから」
「はい」

 ユベール様の言う通りだ。体調のことも考えて練習しないと、パーティー当日になって「足を怪我して踊れません」となったら今迄の練習が台無しになる。もう少し練習したい気持ちもあるが、ユベール様に止められたので今日はこれで練習を終えることにする。何時もダンスの練習に付き合ってくれている楽団の方々に深々と頭を下げて「今日もダンスの練習に付き合っていただき、ありがとうございました」とお礼の言葉を述べる。まだまだ未熟で、足を引っ張ってばかりで本当に申し訳ない。もっと練習して、演奏が途切れないよう上達したい。楽団の方々には今後も協力してほしい。そのことを伝えると、ユベール様に抱きしめられた。何故?

「ジャノ。貴方は本当に……」
「な、なんですか?」
「いいえ。なんでもないです。今後もご協力お願いします」
「も、勿論です! ジャノ様の為なら、いくらでも協力します!」
「ありがとうございます」

 楽団の方達が帰る時、何時も清々しい顔をしているんだよなあ。なんでだろう? 疑問に思ってユベール様に質問したけど「ジャノ、これ以上他の人を虜にしないで」と返された。答えになっていません。ユベール様。





 礼儀作法や食事マナーはステラさんが全て教えてくれた。姿勢や歩き方、挨拶の仕方にナイフとフォークの使い方。覚えることが多くて最初は「無理かも」と思ったけど、一つずつ丁寧に教えてくれたので俺も一通りは覚えることができた。基本的なことが分かれば後は練習あるのみ、ということで今は実践も兼ねて練習している。ステラさんから「少しずつ上達しているので自信を持ってください」と褒められた。これからも頑張ろう。

「お店が開けそうですね」
「全てジャノの為に用意したんです! 俺の誕生日パーティーで着るドレスですからね! ジャノはどれを着たいですか!?」
「シンプルなものがいいです」
「俺の誕生日なんですよ!? ジャノにはもっと華やかなドレスを着てもらいたいです!」
「華やか……」

 広い部屋の両隣に並ぶドレスの数々。二段になっていて、上の段に吊るされているドレスは専用の梯子を使って取り出すそうだ。部屋の入り口から奥の壁までびっしりと埋め尽くすドレス達。部屋の中央には大きなガラスケースが設置されていて、美しい輝きを放つ多くの宝飾品が保管されている。こちらも部屋の入り口から奥の壁まであり、三つの大きなガラスケースに分けられていた。ユベール様、この部屋にあるものだけで総額いくらかかったの? 全部ロイヤルでしょ? ネックレス一つが約一億から二億だとすると……うん。考えたくない。

 貴族としての立ち振る舞いを覚えている時「誕生日パーティーで着るドレスと宝飾品も今の内に選んでおきましょう」とユベール様に提案され、俺はドレスと宝飾品が保管されている部屋に案内された。部屋の中を初めて見た俺は当然絶句。ユベール様は次から次へとドレスを手に取り「これなんてどうでしょう!?」と俺に見せてくる。とおっても華やかなドレスを……

 今まで俺が着ていたのはシンプルなデザインのワンピースドレスで動きやすいものばかりだった。けれど、誕生日パーティーに着るものとなれば、やはり他の貴族達の衣装よりも目立つものでなければダメで、お姫様が着るようなふんわりと広がりのあるドレスばかり勧められる。花をモチーフにしたものもあれば、それどうやって縫ってるの? と思うふわふわひらひらしたものもある。「ユベール様が主役のパーティーだから、俺は目立たなくてもいいんじゃないかなあ」と伝えたら「ジャノは俺の婚約者なんですよ! 俺と同じ主役なんです!」と怒られてしまった。まだ恋人じゃなかったっけ? 俺、婚約者になるとは言っていないような……

「ジャノに一番似合うドレスを選ばなければ!」
「ユベール様と同じ男性用の衣装じゃダメなんでしょうか」
「ドレス一択です! それ以外は認めません!」
「あ、はい」

 やっぱり、ドレスしか着させてもらえないんですね。知ってたけど。両端に吊るされているドレス達を眺めながら、俺は部屋の奥へ奥へ向かう。見ている内に全て同じデザインに思えてきて、少し休憩しようと足を止めた時、ふと奥の壁に扉があることに気付く。一人通れるくらいの、小さいけれど重厚な木製の扉だ。一度気になりだすとそれしか考えられず、俺はユベール様に聞いてしまった。

「あの、ユベール様。この扉って……」
「ジャノ。この扉が気になるんですか?」
「はい。何があるのかなって」
「この部屋には、ベルトラン公爵家に代々伝わる古代魔導具が保管されています」
「古代魔導具?」
「遥か昔に作られた謎に包まれた魔導具。誰が、何の為に、何を目的として作ったのか。それすらも分からない。分かっているのは、ドレスの形をしていること、この古代魔導具には自分の意思があること。それと、ロイヤル・ゼロと連動しているかもしれない、ということだけです」
「ロイヤル・ゼロ?」
「ロイヤルの頂点に君臨する宝石のことです。古代魔導具とロイヤル・ゼロを所持しているのは、王家のミシェル家とベルトラン公爵家のみ。とても貴重なものなので、厳重に保管されているんです。しかし、今はただの白いワンピースにしか見えず、最も美しいとされているロイヤル・ゼロの輝きも失われています。誰も、真の姿を見たことがありません」
「そんな貴重なものが、この扉の向こうに?」
「はい」

 古代魔導具とロイヤル・ゼロ。古代って付くだけでどうしてこんなにワクワクするのだろう。しかも、ロイヤル・ゼロという宝石と連動しているとか、自分の意思があるとか。気になる。すっごく気になる。でも、この二つってかなり貴重なものだよな? 俺が「見たい」と言っても見せてもらえないか。うん。

「見てみますか?」
「え!? いいんですか!?」
「ジャノが見たいなら。ですが、先程も言いましたが、古代魔導具もロイヤル・ゼロも本来の輝きを失っています。今はただの白いワンピースと石膏で作られたアクセサリーにしか見えません。それでも、見たいですか?」
「見たいです! 絶対に触らないと約束するので、見せてください!」
「分かりました。レイモン。鍵を」
「かしこまりました」

 レイモンさんが扉の鍵を開け、ユベール様が俺を部屋の中に案内する。古代魔導具とロイヤル・ゼロをこの目で見れる貴重な体験だ。ドキドキワクワクしながら、俺は古代魔導具とロイヤルゼロが保管されている場所へ、ゆっくりと足を踏み入れた。
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