上 下
55 / 65

55 折った

しおりを挟む


 そなたの力は示された。

 次は、共にある者の力を示せ。

 あっけなくユズフェルトが抜いた聖剣が光りだすとともに、そんな言葉がユズフェルトの頭に直接響いた。
 なんだ?と思う暇もなく、ユズフェルトの意識は奥底へ沈む。

 それから10分後、アムに背負われたユズフェルトは、地上に出ると同時に目を覚ました。目を覚ましてすぐにシーナがいないことに気づいて、躊躇なくペンダントの力を使うが、なぜか使えなかった。

「どうして・・・」
「目が覚めたか。」
「ナガミ、シーナはどうした?」
「置いてきた。」
「・・・」

 ユズフェルトは、アムの背中から降りると、再び地下へと向かおうと走り出した。

 ゴゴゴゴ・・・ガラガラっ。
 だが、そんなユズフェルトの目の前で、地下への階段は天井が落ちてきて通れなくなってしまった。あまりのタイミングの良さに顔をしかめると、頭に声が響いた。

 資格なきものは見捨てよ。

 ギリっ・・・ユズフェルトの歯が、きしんだ音を立てる。
 あまりの怒りで、ユズフェルトは聖剣を地面に突き立て、その刃を回し蹴りで折った。

「・・・は?」
「ちょ、何やってんの!?」
「折れるものなのか。」

 こんなことをしている暇ではないと分かっていたが、それでも怒りを発散させずにはいられなかった。
 シーナを置いて行ったと知った時、すでにユズフェルトの怒りゲージは降り切れていたが、さらに聖剣の嫌がらせのような足止めと言葉で、我慢することができなかった。

「お前、その聖剣・・・聖剣を折ったら、元も子もないだろう。」
「うるさい。」

 そもそも、聖剣を手に入れるために来たのだ。その聖剣を追ってしまっては、本末転倒だと言われても仕方がない。だが、ユズフェルトにはそのような意識は無かった。
 ユズフェルトは、コリンナとの婚約が破棄できればいいのだ。

 もっと言えば、コリンナとの婚約が破棄できなかったとしても、ユズフェルトは逃げ切ればいいと思っている。それを、わざわざ理不尽な交換条件を律義に果たそうとしていたのかというと、気に入らなかったから。
 それと、聖女に聞きたいことがあったからだ。

 だから、別に聖剣を折ったことは、たいしたことがない。逆に、少しでもうっぷんが晴らせたので、聖剣は役目を果たしたのだ。

 役目を果たした聖剣の、柄の方をアーマスの足元に投げ捨てる。アーマスは理解したようにそれを拾って、建物を出た。
 それを見届ける間もなく、ユズフェルトは地面を殴りつけて地面に穴をあけ、そこから地下へと入る。

 道をふさぐゴーレムを魔法で木っ端みじんにし、ふさがれた道の前で地面に穴をあけてさらに地下へと降りる。

「シーナ・・・」

 うっぷんが晴れれば、後は後悔が残るのみ。
 すべて自分のせいだと責めるユズフェルトの声は、快進撃を繰り広げるものとしては弱弱しく頼りない。
 不安のない足取りで、ゴーレムを倒しながら進む。まるで虫でも払うがごとく、あっけなくゴーレムを倒すユズフェルトの手は、震えていた。

 自分のせいだ。

 シーナは死なない。
 だから、すぐに会える。でも、それとこれとは関係ない、この事態を引き起こしたのは、シーナを危険にさらしたのは自分だ。

 謝っても謝り切れない。

 聖剣など、取りに行く必要はなかった。取りに行くにしても、一人で行けばいい話だというのに、全員出来たためにシーナを危険にさらし、一人取り残されるようなことになってしまった。

 謝っても謝り切れない。

「シーナ、シーナっ!」

 パラパラと、天井から落ちる砂。時折床が抜けて、道をふさぐ。全てが埋まる前に、シーナを見つけなければと、ユズフェルトは声を張り上げた。



 大きなゴーレム。とはいっても、神殿で見かけたような大きさではなく、私より少し背が高い程度だ。頭3つ分くらいか?
 どうでもいい。

 そのゴーレムの、明らかに私の頭より大きな拳が、私に向かって振り下ろされた。それを、私は軽々とよける。ゴーレムの拳が地面をえぐっている間に、私はそのゴ-レムを突破し、次のゴーレムの攻撃に備えた。
 水平に振られる拳を、姿勢を低くすることでよけて、スライディングしてこちらに拳を振り下ろそうとしているゴーレムの足の間をくぐる。

 パラ。
 砂が頬にかかった。次に岩が落ちてきて、背後からゴンっという音がした。少し遅ければ、頭に岩がぶつかっていたかもしれない。
 ひやりとした瞬間、ぐきっという嫌な音が耳に届き、痛みが背中を襲う。

「がはっ・・・」

 吹き飛ばされて、壁に激突する。体全体、特に顔と背中が痛い。生暖かい液体が足に垂れる。ドクドクと嫌な音がする。
 痛い、熱い、痛い。

 狭くなった視界に、ゴーレムの大きな拳が迫る光景。これは一度死ぬことになるだろうと、そっと目を瞑った。

 魔の大森林で逃げ回った際に培った経験は、あまりここでは生かしきれなかった。屋内、しかも何もない遺跡では、森の木々を利用して逃げる私には不利だ。
 あと5回くらいかな?

 最下層からここまで、何度か階段を上ったので、もうすぐ地上に出てもいい頃合いだろうと、自分を励ます。
 あと、5回くらい死ぬ頃には、地上にたどり着いているはずだ。

 そうやって励まして、慰めて、私は死を受け入れる。

 ぐしゃり。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

対人恐怖症は異世界でも下を向きがち

こう7
ファンタジー
円堂 康太(えんどう こうた)は、小学生時代のトラウマから対人恐怖症に陥っていた。学校にほとんど行かず、最大移動距離は200m先のコンビニ。 そんな彼は、とある事故をきっかけに神様と出会う。 そして、過保護な神様は異世界フィルロードで生きてもらうために多くの力を与える。 人と極力関わりたくない彼を、老若男女のフラグさん達がじわじわと近づいてくる。 容赦なく迫ってくるフラグさん。 康太は回避するのか、それとも受け入れて前へと進むのか。 なるべく間隔を空けず更新しようと思います! よかったら、読んでください

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。 【あらすじ】 イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。 しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。 ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。 そんな一家はむしろ互いに愛情過多。 あてられた周りだけ食傷気味。 「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」 なんて養女は言う。 今の所、魔法を使った事ないんですけどね。 ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。 僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。 一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。 生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。 でもスローなライフは無理っぽい。 __そんなお話。 ※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。 ※他サイトでも掲載中。 ※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。 ※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。 ※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...