英雄冒険者のお荷物は、切り札です

製作する黒猫

文字の大きさ
上 下
54 / 65

54 勘違い

しおりを挟む

 決まったようだな。
 そう呟いて、ナガミは正面を見据える。アムは、ユズフェルトを抱え直して、この部屋を出る準備を整えた。

 彼らがこの部屋から飛び出せば、数体のゴーレムは彼らを追うだろうが、残りは私が相手をしなければならない。相手・・・とはいっても、私には逃げることと殺されることしかできないだろうが。

準備が整った。そう感じたのだが、一人だけ準備を整えていないものがいる。

「そんなこと、できるわけがないって、わからないの!?」

 今、まさに龍の宿木の決定権を握っていると思われるアーマスが、叫んだ。
 私は、意味が分からず首をかしげる。

「アーマス、いったい何を言っている?この女を置いて行く、今の状況の最適解だろう?それができないとは、どういうことだ?」
「・・・時間が無い。すぐに地上へ出るべきだ。」

 パラパラと天井から小石が降ってくる中、アムの言う通り時間が無いことはわかり切っているのに、まだ動かない。
 それは、アーマスが私を置いていけないと言ったから。そして、脱出するにはアーマスの力が必要なので、即座に私を置いて行く決断をした2人も動けないでいた。

 なぜ、アーマスがこのようなことを言うのか、理解ができない。確かに、彼はナガミやアムに比べて私に対しての接し方が優しかったが、まさか情がわいたということではないだろう。彼の優しさが偽物だということは、彼の冷たい目を見ればわかっていた。
 それが、なぜ?

「2人共、ユズフェルトに何と言うつもりだい?ここでシーナちゃんを残したら、俺たちはユズフェルトに殺されるよ?」
「・・・考えすぎだ。」
「そうかな?俺はそうは思わないから、シーナちゃんを置いて行くつもりはない。」

 ずいぶんな買い被り?勘違いもいいところだ。
 私が死んだらユズフェルトに殺されるだなんて、まさかそんなことあるわけがない。確かに、ユズフェルトにとって私は命を守るのに必要な身代わりだ。しかし、身代わりが死んだとして、仲間を責めるだろうか?
 たとえば、私を殺したのだとしたら、それは責めるだろうし、勢い余って殺すなどということは考えられる。

 しかし、今回はユズフェルトや自身の命を守るために、私を見捨てるだけなのだ。命を守ってもらったことに感謝はしても、私を見殺しにしたことで恨まれることはないだろう。

「たとえ、そうだとしても・・・アーマス、状況を見ろ。今のメンバーで、全員が助かるのか?私はゴーレムを排除しながら地上へ上がることは可能だが、その人間の女を背負っていくことは不可能だ。体力がないからな。」
「僕も、2人を背負って地上までは・・・走れないな。」
「アーマスには先陣を切ってもらうか、後ろの守りに徹してもらう。そんなこと、人を抱えながらできることではないだろう?ただでさえ、ユズフェルトを背負っているアムを守りながら進むのだ。無理に決まっている。」
「それは・・・そうだけど。」

 ナガミには、私を背負って行く体力がない。
 アムは、もうすでにユズフェルトがいるので手一杯だ。
 アーマスは、体力はあるが、ナガミのように魔法でゴーレムを倒し続ける魔力はないので、体術になってくる。そうなると私を背負っているのは難しい。

 無理だ。私でもわかること。
 私は、戦う力もないし、彼らのスピードに合わせて走ることもできない。一緒に地上に行くことはできないのだ。

 わかっているはずなのに、それでもアーマスは動かない。
 このままでは、全滅してしまう。

 ユズフェルトが、死んでしまう。

 背筋がゾクリとした。

「アーマス、いいから、行って。」
「・・・できない。」
「生きてあなたたちの前に、また現れればいいでしょ?それくらい私ならできるから、早く行って!」
「できるはずがない。そんな力があるなら、俺たちと一緒に逃げられるはずだ。俺たちと行けないってことは、そんな力ないってことだよ。」
「馬鹿にしないで!」

 目を吊り上げて、大声を張り上げる。
 私は怒っていた。先ほどから、アーマスの勘違いがひどいのだ。ユズフェルトが私をどう思っているだとか、私がどういうことができるのかだとか、全くわかっていない。

 いや、そんなことはどうでもいい。とにかく、早く地上へ向かってほしかった。
 パラパラと天井から降る物が、砂から小石、今は度々こぶし大の石まで降ってくる。もう時間が無いのだ。
 このままでは、本当にみんな死んでしまう。・・・私以外。

「なんで、私がユズフェルトと一緒にいると思う!?私は、ユズフェルトに頼まれたの!もしも、ユズフェルトが死にそうになった時、必ず助けて欲しいって・・・だから、生活の面倒を普段見てもらっているの!ここでユズフェルトを死なせたら、私がいる意味がない!」

 私は、アーマスの肩を思いっきりつかんで、突き飛ばした。
 アーマスは倒れることなく、少しバランスを崩した程度だったが、驚いた顔をする。ここまで私が抵抗するとは思わなかったのかもしれない。

「生きていればいいでしょ!?なら、生きて、またあなたの前に現れるから、行って!」
「そんなこと、できるわけ」
「やってみれば、わかるよ。できないなんて、あなたが私を知らないから言えることだよ。ユズフェルトが、何の力もない人を側に置くと思う?置かないでしょう?」

 私は、堂々と、腰に手を当てて、アーマスを見据える。

「魔の大森林で生き抜いた実力、思い知らせてあげるよ。」
「・・・やっぱり。」

 ぼそりとアーマスが呟いたが、その続きはナガミにさえぎられて聞けなかった。

「人間の女がこう言っているのだ、行くぞアーマス。じゃ・・・いや、またな・・・シーナ。」
「うん。ユズフェルトをお願い。」
「言われなくても。」

 ナガミに引っ張られるアーマスと目が合った。
 冷たい赤の瞳は、納得したとでもいうように落ち着いていて、もう私を置いていけないなどとは思っていないようだ。
 最初から、ユズフェルトに怒られるのが嫌という理由だったので、私を置いて行くことに関してはそれ以外抵抗がないのだろう。
 何も不思議なことではない。龍の宿木は、結局ユズフェルトのためにあるようなもの。お互いに仲間意識や情というものはないのだ。

 ユズフェルトとナガミ。
 ユズフェルトとアム。
 ユズフェルトとアーマス。

 そういう関係なのだ。ユズフェルトがいるから、龍の宿木にいる。お互いは、ユズフェルトの関係者程度の情しか持っていない。

 この旅では、よくそれが分かった。

 まぁ、ナガミとアーマスは、少しだけ仲がいいように見えたけどね。


 ナガミが風魔法で、連続してゴーレムを崩す。先へ続く道が開け、アーマスはこちらを一度も見ずに部屋を出た。それにアムが続いて、最後にナガミが私を一瞥してから、部屋を出た。

 ドスンドスン。
 彼らを追いかけるゴーレムの足音が響き渡った。

 そして、ナガミが崩した、ゴーレムだった岩が、私の目の前で再びゴーレムの形へと戻る。
 もう、みんなの背中は見えない。たった一人の部屋で、私は冷や汗を流しながらもそんなゴーレムと対峙する姿勢を見せた。
 痛いから、死にたくないなぁ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

彼の愛が重い 重すぎる

keikocchi
ファンタジー
次期王妃になりたくない私は 策をねる

フローズン・シャドウホールの狂気

バナナチップボーイ
ファンタジー
札幌game勝手に振興会のYouTubeの企画「昔小説家になりたかったオッサンが今さらChatGptを利用して面白い小説を書けるかどうか試してみることにした。」において書き上げた小説になります。 世代的にオッサンなので古めかしく重い感じのファンタジー作品となっております。同世代や濃厚なファンタジーが好きな人にはいいかもしれません。 内容:冒険者アリアが仲間二人と共にフローズンシャドウホールというダンジョンの探索を行うという内容です。その場所に秘められた謎とは果たしてなんなのか?? それは作者にも分からない。なぜならば、これはChatGptを駆使して書かれた作品だから。何が飛び出すのかは分からない。最後までご覧あれ。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

処理中です...