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52 聖剣利益

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 やってきた、聖剣都市。
 ぼろぼろになった竜車をアーマスが修理へ出しに行き、私達は聖剣が刺さっているという、地下への入口へと向かった。

 聖剣・・・薄暗い森に降る一筋の光の先にある、神々しい剣。神秘的な森の風景を浮かべて、少し楽しみになった私だったが現実を知ることになった。

「入場の受付はこちらです。」

 聖剣は、町中にあった。

 さらに、石造りの建物の横で受付を行っているという状況が、聖剣の神聖をさげる。どこの学園祭だと突っ込みたくなる。
 もっと人里離れた場所に、ひっそりとたたずむ聖剣・・・みたいなのを想像していた。森で無かったとしても、人里離れた場所であってほしかった。いや、街中でもこのさい、いい!なんだろう、この残念感は。この残念感をどうにかして欲しい。

 私ががっくりと肩を落としている間に、ユズフェルトは受付の前へと行く。後ろにナガミとアムも金魚のフンのようについて行く。
 アーマスがいないときは、ユズフェルトが交渉役だ。ま、交渉というより、今回はただ受付するだけのようだけど。

「国の要請できたのだが・・・」
「あ~わかりました。では、今挑戦している方が帰ってきたら、すぐに挑戦していただく・・・ということでいいですか?」
「あぁ。ここで待たせてもらっても?」
「別にいいですけど、今挑戦している方がいつ戻ってくるかはわかりませんよ?どれだけ地下にいられるかは、人それぞれですから。」
「どういうことだ?」
「知らないのですか?では、待っている間に説明しましょう。」

 そういえば、聖剣が地面に刺さっていることしか知らない。いや、ユズフェルトたちが知っていればいいかなと思って、だって私が聖剣抜くわけではないし。
 ということで、真剣に聞くユズフェルトたちから意識を外して、私は石造りの建物を観察した。

 実は、こういう古い建物は好きだ。前回はゴーレムが襲ってくると聞いていたし、龍の宿木とも打ち解けていなかったので、ゆっくり見る余裕がなかった。
 まぁ、龍の宿木とは、そこまで打ち解けていないけど・・・今はなんだかんだで余裕がある。この世界に来て、数か月たつしね。

 前に見た古代遺跡の神殿よりは簡素な造りだが、色味などは神殿と同じだ。出入り口にツタを模した装飾が施してある程度で、後は特に凹凸のない壁。
 中を覗いてみれば、何もない小部屋の奥に、階段が見えた。

 あれが地下への階段だろう。
 階段をよく見ようと身を乗り出した私の背後から、呑気な声が聞こえた。

「よかった、間に合った~」
「アーマス・・・」
「さっきぶり、シーナちゃん。中はちょっと薄暗いけど、大丈夫?」
「うん。私、薄暗い方が安心するし、こういう雰囲気は好きだよ。地下には何があるのだろう?」
「何もないよ、聖剣以外ね。」

 昔の人たちが住んでいた痕跡などを、薄暗い中見て回る・・・というものを想像していた私のわくわくあっけなく消されてしまった。

「ここって、何のために作られたのだろう?」
「聖剣の選別のためでしょ?シーナちゃんは、受付の人の説明を聞いていないの?」
「あー・・・私が挑戦するわけじゃないし。」
「挑戦してみれば?そしたら、ナガミやアムの当たりも少しは優しくなるかもよ?」
「・・・別にいいよ。確かに、聖剣を手に入れれば、龍の宿木に目に見えて貢献したってことになると思うけど・・・」

 聖剣を手に入れたら、私はどうなるのだろうか?
 聖女のおまけとして召喚された私。何も力の無いとされる私が、不死で・・・聖剣まで使えるようになってしまったら・・・面倒なことしか起こらない気がする。

 ずっと考えていたことがある。

 私を殺そうとしたのは誰なのだろうかって。
 もちろん、私を殺したのはあの男だ。はっきりと覚えている・・・護衛としてつけられたあの男が、私を殺したことを。

 でも、そういうことではない。
 手を下したのはあの男だが、もしかしたらその背後に誰かいたのではないかと思う。

 たとえば・・・

―何も持たないあなたが、聖女と・・・候補でも名乗るべきではありません。その肩には重すぎる称号でしょう。

そう言った少女は、自身を聖女だと言い切った。そして、関係のない私を危険にさらせないと言って、生活費と護衛を用意するように国に頼んだ。

本当に、あれは私を危険から遠ざけるためだったのか?そもそも、あの城にいる方が安全だったのではないか?

城を出て、私は何度死んだのだろう?明らかに、城を出ない方が安全だったと、今なら言える。
 聖女は、私が邪魔だったのだろうか?それとも、聖女は本当に私のことを案じて・・・それが裏目に出て、私を邪魔に思う第三者に利用された?よくわからない。
 でも、あの男が私の護衛に選ばれたのは、ただの偶然だとは思えなかった。

 金に困っている男に、金を持たせて護衛の任を任せるか?私だったら任せない。

「シーナちゃん?」
「え?」
「もう入れるみたいだよ、行こう。」
「うん。」
「まぁ、ユズフェルトが駄目だったら、聖剣を抜くの試してみてよ。ユズフェルトに世話になっているんだから、それくらいいでしょ?わかってると思うけど、ユズフェルトは本気でコリンナとの婚約が嫌だからさ。」
「そう、だね。・・・わかった。」
「頼んだよ。」

 難しいことを考えるのはやめよう。今大事なのは、聖剣を手に入れて、ユズフェルトとコリンナの婚約を解消することだ。

 間違いなくユズフェルトは聖剣を引き抜くと思うけど、駄目だったら私も挑戦しよう。
 大丈夫、何があってもユズフェルトが守ってくれるから。

 それに、私は死なない。
 たとえ、また誰かが私の命を奪おうとしたとしても、私は生き返る。だから、何問題はない。私は怯える必要などない。


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