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しおりを挟む今夜は野宿となった。何度か経験したが、朝起きたら寝床に虫が入っていたら・・・などと考えてしまい、よく眠れないので野宿は苦手だった。だけど、そんな野宿にもいいところはあり、一つは綺麗な星を堪能できることだ。
澄んだ空気と電気のない暗い世界は、星をより一層綺麗に見せてくれる。これこそ、異世界の醍醐味の一つだろう。
そして、宿に泊まっていると、それぞれの部屋に分かれたり、逆に大部屋になってしまったりで、2人きりで話すということが難しくなる。流石に、同じ部屋に男女2人がいるのは問題だし、部屋に押し掛けたり押しかけられたりなどはない。
なので、野宿は2人きりで話すのに適していた。
そんな野宿のこの日、私はユズフェルト共に、仲間から少し離れたところで星を眺めている。
「俺が、生まれ育った村を離れたのは、村にあった呪いのアイテムが発動したことがきっかけだった。」
「呪いのアイテムって、ドラゴンの口に放り込んでいた?」
私は、ユズフェルトがドラゴンの口に何かを放りこむのを見たし、ユズフェルト自身ドラゴンの口に呪いのアイテムを放りこんだと言っていたのを思い出す。
「そうだ。あれは、割れた壺のかけらを集めたものだ。割れるまでは、ただの壺だったというのに、村長の娘が割ったらワイバーンを呼び寄せる呪いのアイテムに変わった。迷惑な話だ。」
「・・・それって、ユズフェルトがよくワイバーンと遭遇するのは、その壺のせいだったってこと?」
「あぁ。とりあえず、俺はワイバーンを倒す力があるから、その割れた壺を持って村を出て、呪いを無効化する方法を探そうと思ったのだ。」
「一人で?」
「・・・一人の方が、危険は少ない。守りながら戦うことがいかに危険か、龍の宿木にいることでよくわかった・・・あぁ、シーナのことではないよ。」
「・・・ならなんで、龍の宿木にユズフェルトはいるの?」
「成り行きだな。まぁ、ここまで一緒に旅をしてきたのだし、今更別行動をとろうとも思わない。面倒なことがなければの話だがな。」
「面倒なこと、はは。」
コリンナは、面倒になったから置いてきたのだろう。いちいち突っかかったりしなければよかったのに。乙女心は複雑なのだろうけど。
「終わったな。」
ユズフェルトは両手を高く上げて、そのままの格好で草むらに寝転がった。
もう、彼が旅をする理由はなくなったのだろう。呪いのアイテムは無事手放し、当初の目的は果たしたのだから。
「ユズフェルトは、故郷に戻るの?」
「なんでだ?」
「なんでって・・・もう、呪いのアイテムが無くなったから?」
「そうか・・・そういう考えもあるな。村に帰る・・・なんて、考えてこともなかった。」
「帰りたくないの?」
「・・・どうだろうな。村は変わってしまったから・・・いや、村は変わっていないか。俺が変わっただけで。」
風が吹いて、月が雲に隠されあたりが暗くなった。
「どうやら俺は、英雄らしい。村でワイバーンを倒した時、村のみんなは俺を英雄だと称えた。命がけで村を守った英雄だと。」
どうやら、呪いのアイテムが発動して、最初に呼び寄せたワイバーンをユズフェルトは倒したようだ。旅をして強くなったのではなく、旅をする前からワイバーンを倒せる強かったようだ。
「村の危機を救ったのだから、英雄と呼ばれてもおかしくないと思うけど?」
「そうだな。でも、俺は引っ掛かったのだ。命を懸けて村を守った・・・英雄。命を懸けてなんてないのに、そう言われたのだ。それがどうにも引っ掛かった。」
「普通は、ワイバーンと戦うのは命がけなのでしょう?」
「でも、俺は命なんてかけていない。ワイバーンを見て、倒せそうだと思ったから倒しただけだ。死ぬかもしれないと思っていたら、俺は全力で逃げていただろう。」
全力で逃げるユズフェルト・・・コリンナから逃げるとき以外でそんな風に逃げる彼を想像できない。
「村に限った話ではないがな・・・最初に言われたせいか、村での出来事が一番記憶に残っている。口々に礼と褒めたたえる村人たちに、俺は否定できなかった。俺は、命を懸けてなんていない・・・そんな勇気ある行動なんてできないって・・・」
「どうしてユズフェルトは、命を懸けてということにこだわるの?流してしまえばいいのに。ユズフェルトが村を救ったのは本当のことだし、ユズフェルトが命を懸けていたかどうかなんて、些細な問題ではないの?」
「俺は、命を懸けることなんてできない。できないことをできると思われるのが、とても苦しく感じたのだ。もしもこの先、俺が本当に命を懸けなければ勝てないような相手と出会ったとして、戦うように周りに望まれたとしたら・・・俺は逃げ出す。きっと、その時周りは裏切り者だと罵るだろう。」
「確かに、そうかもね。」
英雄と呼ばれるのが、ユズフェルトは嫌なのだろう。
褒めたたえるその言葉の裏側には、自分たちを守って欲しいという打算が少なからずあるだろうし、守ってもらえなかったときは褒めたその口でユズフェルトを罵倒する。
そんな情景が、簡単に想像できてしまった。
「なら、これからユズフェルトはどうするの?」
「そうだな・・・俺が、気楽に暮らせるような場所でも探そうかな。誰も俺を英雄と呼ばない場所で、安全が保障されていれば、なおいいな。いっそ、人がいない場所に・・・いや、病気になった時医者にかかるから、医者は必須だな。」
「なら、しばらく旅を続けるのね?」
「あぁ。」
「見つかるといいね、ユズフェルトの理想の場所。」
「そうだな。・・・もしも、そのような場所が見つかったら・・・シーナは、何処かへ行ってしまうか?」
「え?」
「・・・冒険者でなくなった俺の側に・・・シーナはいてくれるか?」
「ユズフェルト、冒険者をやめるの?」
「そのつもりだ。危険な仕事はもうこりごりだからな。」
「ふーん・・・それは、私も同感だけど・・・冒険者でなくなったユズフェルトは、私を必要としてくれるの?」
命の危険がある冒険者だから、身代わりに死ぬ私が必要なのだと思う。もしも、冒険者で無くなったら、命の危険などめったにないだろう。そうしたら、私は必要なくなってしまう。
そしたら、どうやって生活しよう・・・
「冒険者でなくなったとしても、シーナは必要だ。命の危険は、いつどこにあるかわからないからな。」
「そっか。確かにそれはそうだよねー・・・もちろん付いて行くよ、ユズフェルト。」
「頼んだ。」
生活の心配をしなくていいようだと分かり、私は胸をなでおろした。
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