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42 苦戦
しおりを挟むワイバーンの群れに突っ込んだユズフェルトは、自身に襲い掛かるワイバーンを一太刀で斬り落とし、ドラゴンらしき魔物へと接近する。
魔物は、そんなユズフェルトに向かって、ブレスを放った。正面からそれを受けるユズフェルトから目が離せない。
「呆けているなっ!来るぞ!」
「泣き叫ばれるよりましだよ。邪魔にならないよう、頭を低くして動かないように。」
ナガミに叱責され、アーマスに指示された私だったが、ユズフェルトから目が離せずただ立っていることしかできない。
そんな私たちの元へ、ワイバーンが迫った。それを、ナガミが魔法で退けるが、全くダメージはないようで、すぐに私たちに迫る。
「ナガミ、もう一度!」
「わかっている!」
ナガミは、魔法で火の矢を出して、ワイバーンに向かって撃った。ナガミの攻撃は、ワイバーンの頭部に直撃し、ワイバーンはひるむ。
しかし、ひるんだワイバーンの左右から、別のワイバーンがこちらへと迫った。それを、アーマスが炎爆弾を投げて牽制する。
「くそ、一体でも厄介なのに!」
「おい、後ろ!」
「わかってる!」
アーマスは背後に迫っていたワイバーンの攻撃をかわし、両手に炎爆弾を持ち構えた。
ナガミは連続して矢を放ち、近づく何体ものワイバーンを牽制する。
アムは、いつの間にか消えていた。
ワイバーンは聖女たちの方にも迫っているため、聖女たちの加勢は期待できない。ここにいるのは、何もできない私と、ナガミ、アーマスだ。ユズフェルトはドラゴンのような魔物の相手をしているので、こちらまでは気が回せないだろう。
私は、ワイバーンに襲われたとしても大丈夫。死ぬことはない。
しかし、ナガミとアーマスは・・・彼らは、死んだらそのままだ。
ユズフェルトも・・・もしも、あの魔物に後れを取るようなことがあれば、私を身代わりにするだろう。でも、身代わりになったとして、私と位置を変えたとしても、目と鼻の先にあの魔物はいる。逃げ切れないだろう。
その時は、どうすればいいのか?
ユズフェルトだけは、ユズフェルトの命だけは、守らなくては。私は、そういう約束で、今までの生活を保障されている。
今こそ、恩を返すとき・・・
「馬鹿!頭を下げろ!」
「え、うわっ!」
ナガミが私に覆いかぶさってきた。そのあと、強い風が吹く。
どうやら、ワイバーンが高度を落として飛行し、爪で私を狙っていたようだ。それを、ナガミが助けてくれたのだろう。
「このままでいろ、馬鹿者が!」
「頭を上げるな!」
「ぐはっ!?」
顔を上げて立ち上がろうとするナガミの頭を、アーマスが地面に埋める。風が強く吹いて、ワイバーンが通ったことが分かった。
どうやら、ナガミが抜けたことによって均衡が崩れ、ワイバーンを押さえつけられなくなったのだろう。どう考えても、私のせいだ。
「くそっ・・・」
「もう、諦めたほうがよさそうだね。」
「死ぬ気か!」
「いいや、逃げる。」
そう言って、アーマスは私をナガミごと抱きしめて、地面を力強く叩いた。
その時、固い地面が柔らくなって、身体が地面に沈んだ。
土魔法のようだ。おそらく、神殿の時と同じように土に潜るつもりだろう。私は息を止めて、その時を待った。
だが、土に潜り切る前に、身体が宙に浮いて、固い地面に体がたたきつけられて転がる。
「かはっ・・・」
「くそ。アーマス!お前たちだけで逃げろ!私が注意をひきつける!」
「わかった。」
先ほどはワイバーンに邪魔をされたようで、今度は邪魔をされないよう、ナガミが囮になってくれるようだ。私とアーマスは離れた距離にいた。ナガミは私のすぐ近くにいたが、魔法を放ちながら離れていく。逆にアーマスは私の方へと駆けてくる。
駄目だ、止めないと。ナガミは、ここで囮になる気・・・死ぬ気だ。ナガミは、死んだら終わりなのに。
「な、ナガミ・・・」
「黙れ。お前たちがいると、足手まといだ。私一人だったなら、逃げることはできる。」
そう言って、ナガミはどんどん離れていって、私の周囲に人がいなくなった。アーマスは駆け寄ってきているが、思ったよりも遠い距離にいたようだ。
私は、起き上がってユズフェルトの方へと目を向けた。
ユズフェルトは、何かを魔物の口の中に放り込んでいるところだった。
一体何を?
その時、私とユズフェルトの間に、一体のワイバーンが現れて、私に大きな口を開けた。
「え・・・」
「くそっ!」
「シーナちゃん!」
ワイバーンの口。私など、一飲みできそうな、大きな口。流石に、食べられてしまったら・・・
死ぬのかな?
ドクドクドクと、心臓が嫌な音を立てる。息が辛い。
生暖かい空気に包まれる。あぁ、食べられてしまう。このままだと食べられてしまう、逃げないと。そう思うのに、身体は動かない。
「あ・・・」
次の瞬間、大きな口を閉じた魔物が、すぐ目の前にいた。
口を開けていたはずのワイバーンの口が閉じている。いや、これはワイバーン?
そう思ったとき、私の体は落下した。
あれ、地面がない?
体がこわばって、思わず目を閉じた。
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