40 / 65
40 繋がり
しおりを挟む魔の大森林にそびえたつ大きな山。その向こう側には、人ならざる者たちの世界が広がっている。
どこか陰鬱とした、黒を基調とした建物が並ぶ中で、ひときわ大きな屋敷と呼べる建物がある。そこは、さらに日の光を遮るように濃い霧が立ち込めていて、全容は明らかにはならない。しかし、霧が薄まったところから見える外観は手の込んでいる装飾が施されていて、有力者の所有物であることは明らかだ。
そこの住人であるエディゴルドは、久方ぶりに屋根裏部屋へと足を運び、首をかしげていた。
エディゴルドにとって屋根裏部屋とは、自身の作品を保管する場所で、今までに作り出してきた作品を部屋の隅々に並べ置いていた。
しかし、部屋いっぱいにあったはずの作品が、部屋を半分閉める程度しか置かれていない。明らかに、その数を減らしていたのだ。
「どういうことじゃ?」
鋭い牙を持つ口からこぼれた声は、しわがれた老人の声だ。しかし、その声に弱さはなく、長い時を生きてきた者独特の、深みのある声だった。
エディゴルドの鋭い金の目がさらに細められて、開け放れた窓からわずかに見える大きな山に向けられる。
この山を越えた先に、人間の世界がある。おそらく、エディゴルドの作品はそこへ飛び去ったのだろうと、結論づける。そういうことになる可能性があることを、エディゴルドは知っていた。
だから、窓を開けていたのだ。
ガタン。
その考えを肯定するように、作品の一つが音を立てて動き出した。ガシャン、ゴトン。ギギギ・・・機械的な動き、ぎごちなさが残る動きをした作品は、すべての関節部分の動きを確認した後、多少滑らかな動きをするようになった。
このような動きは最初だけだ。もうしばらくすれば、まるで生き物のような動きが可能になる。そう、人間が見れば、ワイバーンだと叫ぶくらいの生物らしい動きを。
誰も、エディゴルドの作品を見て、作り物だと思うことはないだろう。
彼は、生物らしさにこだわった。外見はもちろん、動きまでもこだわって・・・最後には、中身にまでこだわった。
そう、例え倒されて解体されても、生き物だったものだと、死体だと思わせるような造りを、内部にまで施した。
そうまでして生き物にこだわったのは、なぜだったか・・・当然叶わなかった思いなど、忘れてしまうに限る。
エディゴルドは、叶わないと思ったときに、作品を作るのをやめた。そして、今まで目標にしていた、夢を忘れるように努めた。
友人と、種族を超えた友人と、共に行きたいという願いは、夢は、友人が死んだことで、叶わなくなってしまったのだから。
感傷に浸りそうになる頭をゆっくりと振って、部屋をもう一度見渡した。やはり、作品は減っている。減り過ぎている。
「人間の世界で、一体何が起きたのじゃ?わしの作品一体でも、人間にとっては脅威だというのに、軽く30は超えている・・・」
もしかしたら、人間の国を亡ぼすことができるほどの作品が、行ってしまった。だが、なぜそのような事態になるのか、エディゴルドには不思議で仕方がなかった。
作品は、壊されたら次の作品が動き出す。そういう仕組みだった。
つまり、これだけの作品を倒した人間がいるはずだ。
「・・・人間・・・いや、人間種の中に、それほどの猛者がいるか・・・確かめねばならぬな。」
少しだけ、そのような存在がいることに胸が高鳴り、久しぶりに口角が上がったエディゴルドの口から、ゴロゴロと猫がご機嫌を示すのと同じようにのどを鳴らした、
開け放たれた窓に近づいて、身軽に窓から飛び降りる。地面にぶつかる前に翼を広げ、飛びだった。
「どうせなら、作品と共に行くとしよう。おいで、我が下等種たちよ・・・」
エディゴルドの魔力をのせた言葉に反応し、ぎこちない動きで作品が動き出した。彼は、作品を待たずにさっさと山を越えるように飛ぶ。
作品たちはすぐに追いつくからだ。
作品を倒せるものは、それなりに強いものだ。もしかしたら、自分自身も倒されるかもしれない。
それは、普通恐怖となることだろう。しかし、エディゴルドはますます機嫌よくのどを鳴らして、速度を上げた。
あっという間に山を越えて、魔の大森林の向こう側、王都、人間が住む世界を目に収めた。
「変わらない。変わらないのは、つまらないことだ。しかし、懐かしくもある。王都、人間が多く集まる町だったな。あそこに、いるのか・・・いや、それはない。」
魔力を放ち、王都の様子を探ったが、そこにいるのはただの人間、人間種の者たちだけだった。この者たちでは、作品に蹂躙されるだけだ。
なら、どこに?
飛びながら、目を瞑る。わずかな、本当にわずかな、糸のようなつながりを見つけて、目を開けた。その目は、懐かしさで潤んでいる。
「まだ、お前とのつながりがあるのだな。いや、持っている者は、全く関係ない人間種かもしれないが・・・それでも、まだあの品が残っていたとは。」
その繋がりは、友人に贈った品に付けたつながりの糸で、まさか友人が亡くなって100年以上経ってもその品があり、つながりが残っていたことに驚いた。
繋がりは、魔力によるもの。それは、意識しなければ簡単に切れてしまうようなものなのに、おそらく忘れたようで忘れていなかったのだろう、残っていたのだ。ずっと意識していた証拠だと、笑う。
たとえ、友人の命を失ったとしても、つながりだけは失いたくなかったようだ。
そんなつながりを頼りに、まっすぐにエディゴルドは向かった。おそらく、作品たちを倒したであろう者の元へ。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
幻想美男子蒐集鑑~夢幻月華の書~
紗吽猫
ファンタジー
ーー さぁ、世界を繋ぐ旅を綴ろう ーー
自称美男子愛好家の主人公オルメカと共に旅する好青年のソロモン。旅の目的はオルメカコレクションー夢幻月下の書に美男子達との召喚契約をすること。美男子の噂を聞きつけてはどんな街でも、時には異世界だって旅して回っている。でもどうやらこの旅、ただの逆ハーレムな旅とはいかないようでー…?
美男子を見付けることのみに特化した心眼を持つ自称美男子愛好家は出逢う美男子達を取り巻く事件を解決し、無事に魔導書を完成させることは出来るのか…!?
時に出逢い、時に闘い、時に事件を解決し…
旅の中で出逢う様々な美男子と取り巻く仲間達との複数世界を旅する物語。
※この作品はエブリスタでも連載中です。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
けだものだもの~虎になった男の異世界酔夢譚~
ちょろぎ
ファンタジー
神の悪戯か悪魔の慈悲か――
アラフォー×1社畜のサラリーマン、何故か虎男として異世界に転移?する。
何の説明も助けもないまま、手探りで人里へ向かえば、言葉は通じず石を投げられ騎兵にまで追われる有様。
試行錯誤と幾ばくかの幸運の末になんとか人里に迎えられた虎男が、無駄に高い身体能力と、現代日本の無駄知識で、他人を巻き込んだり巻き込まれたりしながら、地盤を作って異世界で生きていく、日常描写多めのそんな物語。
第13章が終了しました。
申し訳ありませんが、第14話を区切りに長期(予定数か月)の休載に入ります。
再開の暁にはまたよろしくお願いいたします。
この作品は小説家になろうさんでも掲載しています。
同名のコミック、HP、曲がありますが、それらとは一切関係はありません。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
対人恐怖症は異世界でも下を向きがち
こう7
ファンタジー
円堂 康太(えんどう こうた)は、小学生時代のトラウマから対人恐怖症に陥っていた。学校にほとんど行かず、最大移動距離は200m先のコンビニ。
そんな彼は、とある事故をきっかけに神様と出会う。
そして、過保護な神様は異世界フィルロードで生きてもらうために多くの力を与える。
人と極力関わりたくない彼を、老若男女のフラグさん達がじわじわと近づいてくる。
容赦なく迫ってくるフラグさん。
康太は回避するのか、それとも受け入れて前へと進むのか。
なるべく間隔を空けず更新しようと思います!
よかったら、読んでください
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる