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 魔の大森林にそびえたつ大きな山。その向こう側には、人ならざる者たちの世界が広がっている。
 どこか陰鬱とした、黒を基調とした建物が並ぶ中で、ひときわ大きな屋敷と呼べる建物がある。そこは、さらに日の光を遮るように濃い霧が立ち込めていて、全容は明らかにはならない。しかし、霧が薄まったところから見える外観は手の込んでいる装飾が施されていて、有力者の所有物であることは明らかだ。

 そこの住人であるエディゴルドは、久方ぶりに屋根裏部屋へと足を運び、首をかしげていた。
 エディゴルドにとって屋根裏部屋とは、自身の作品を保管する場所で、今までに作り出してきた作品を部屋の隅々に並べ置いていた。
 しかし、部屋いっぱいにあったはずの作品が、部屋を半分閉める程度しか置かれていない。明らかに、その数を減らしていたのだ。

「どういうことじゃ?」

 鋭い牙を持つ口からこぼれた声は、しわがれた老人の声だ。しかし、その声に弱さはなく、長い時を生きてきた者独特の、深みのある声だった。

 エディゴルドの鋭い金の目がさらに細められて、開け放れた窓からわずかに見える大きな山に向けられる。
 この山を越えた先に、人間の世界がある。おそらく、エディゴルドの作品はそこへ飛び去ったのだろうと、結論づける。そういうことになる可能性があることを、エディゴルドは知っていた。

 だから、窓を開けていたのだ。

 ガタン。

 その考えを肯定するように、作品の一つが音を立てて動き出した。ガシャン、ゴトン。ギギギ・・・機械的な動き、ぎごちなさが残る動きをした作品は、すべての関節部分の動きを確認した後、多少滑らかな動きをするようになった。
 このような動きは最初だけだ。もうしばらくすれば、まるで生き物のような動きが可能になる。そう、人間が見れば、ワイバーンだと叫ぶくらいの生物らしい動きを。

 誰も、エディゴルドの作品を見て、作り物だと思うことはないだろう。
 彼は、生物らしさにこだわった。外見はもちろん、動きまでもこだわって・・・最後には、中身にまでこだわった。
 そう、例え倒されて解体されても、生き物だったものだと、死体だと思わせるような造りを、内部にまで施した。

 そうまでして生き物にこだわったのは、なぜだったか・・・当然叶わなかった思いなど、忘れてしまうに限る。
 エディゴルドは、叶わないと思ったときに、作品を作るのをやめた。そして、今まで目標にしていた、夢を忘れるように努めた。

 友人と、種族を超えた友人と、共に行きたいという願いは、夢は、友人が死んだことで、叶わなくなってしまったのだから。

 感傷に浸りそうになる頭をゆっくりと振って、部屋をもう一度見渡した。やはり、作品は減っている。減り過ぎている。

「人間の世界で、一体何が起きたのじゃ?わしの作品一体でも、人間にとっては脅威だというのに、軽く30は超えている・・・」

 もしかしたら、人間の国を亡ぼすことができるほどの作品が、行ってしまった。だが、なぜそのような事態になるのか、エディゴルドには不思議で仕方がなかった。

 作品は、壊されたら次の作品が動き出す。そういう仕組みだった。
 つまり、これだけの作品を倒した人間がいるはずだ。

「・・・人間・・・いや、人間種の中に、それほどの猛者がいるか・・・確かめねばならぬな。」

 少しだけ、そのような存在がいることに胸が高鳴り、久しぶりに口角が上がったエディゴルドの口から、ゴロゴロと猫がご機嫌を示すのと同じようにのどを鳴らした、

 開け放たれた窓に近づいて、身軽に窓から飛び降りる。地面にぶつかる前に翼を広げ、飛びだった。

「どうせなら、作品と共に行くとしよう。おいで、我が下等種たちよ・・・」

 エディゴルドの魔力をのせた言葉に反応し、ぎこちない動きで作品が動き出した。彼は、作品を待たずにさっさと山を越えるように飛ぶ。
 作品たちはすぐに追いつくからだ。

 作品を倒せるものは、それなりに強いものだ。もしかしたら、自分自身も倒されるかもしれない。
 それは、普通恐怖となることだろう。しかし、エディゴルドはますます機嫌よくのどを鳴らして、速度を上げた。

 あっという間に山を越えて、魔の大森林の向こう側、王都、人間が住む世界を目に収めた。

「変わらない。変わらないのは、つまらないことだ。しかし、懐かしくもある。王都、人間が多く集まる町だったな。あそこに、いるのか・・・いや、それはない。」

 魔力を放ち、王都の様子を探ったが、そこにいるのはただの人間、人間種の者たちだけだった。この者たちでは、作品に蹂躙されるだけだ。

 なら、どこに?

 飛びながら、目を瞑る。わずかな、本当にわずかな、糸のようなつながりを見つけて、目を開けた。その目は、懐かしさで潤んでいる。

「まだ、お前とのつながりがあるのだな。いや、持っている者は、全く関係ない人間種かもしれないが・・・それでも、まだあの品が残っていたとは。」

 その繋がりは、友人に贈った品に付けたつながりの糸で、まさか友人が亡くなって100年以上経ってもその品があり、つながりが残っていたことに驚いた。
 繋がりは、魔力によるもの。それは、意識しなければ簡単に切れてしまうようなものなのに、おそらく忘れたようで忘れていなかったのだろう、残っていたのだ。ずっと意識していた証拠だと、笑う。

 たとえ、友人の命を失ったとしても、つながりだけは失いたくなかったようだ。

 そんなつながりを頼りに、まっすぐにエディゴルドは向かった。おそらく、作品たちを倒したであろう者の元へ。



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