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30 アイテム袋

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 王都を出て半日。ここまでくればいいだろうと、魔の大森林を出て主要道を歩くことになった。魔の大森林は思った以上に広大だった。

 そんな魔の大森林に背中を向けて数十分で着いた主要道は、馬車が通れる広さの整備された道で、人もまばらにいた。格好から見ると旅人だろう、みんな大荷物を抱えている。

 アイテム袋を持っている人は、私が見た限りいない。旅をするのに便利なものなので、持っている人がいないということは、かなり希少なアイテムなのだろう。ユズフェルトはもらったと言っていたけど、あげた人は太っ腹だ。

「旅人が珍しいのか?」
「荷物が多いと思って。私たちは、ユズフェルトとアムのおかげで楽ができてよかったよ。あんな大荷物で移動できる自信がないから。」
「だろうな。」

 そういえば、アムは荷物持ちだから大荷物を抱えているけど、魔の大森林で置いて行かれずに走り抜いた。力もあるけど、かなりの体力を持っているようだ。
 ちらりとアムを見れば、全く息が乱れていない。魔の大森林の中では走っていたけど、ここまで来るのには歩いてきた。その間に回復したのだろうか?
 それにしたってすごい。

 ユズフェルトとアーマスも全く息が上がっている様子はない。流石、自力で生き埋めから脱出できる実力がある者たちだ。

 反対に、ナガミは息が上がっていて苦しそうだ。まぁ、これが普通だと思う。

「ユズフェルト、休憩しなくて大丈夫?私は抱えられていただけだからそこまで疲れてないけど、みんなは走っていたし・・・」
「・・・そうだな。ちょうど休憩している商人たちもいるようだし、あそこで一緒に休憩をしよう。」

 抱えられていただけとは言ったけど、私もかなり疲れていたので助かる。まぁ、口には出せないけどね?



 商人たちが休んでいたのは、道から少し外れた場所の土が露出している場所だ。主要道の周りは草原なので、ここ一体土が露出しているところを見ると、主要道を利用する人の休憩場所として長く使われてきたことが分かる。

 ユズフェルトは両手で抱える程度の石を見つけて、それを木陰に運んで置き、その上にマントをたたんでクッションのようにして置いた。

「シーナ、座って。日にあたりすぎると疲れるから。」
「あ、私のためだったの・・・ありがとう。」
「俺は自分の石があるから。」

 そう言って、アイテム袋から腰を掛けるのにちょうどいい大きさの石を取り出した。流石にそれは驚く。
 アイテム袋に石・・・それも座る用の石とは・・・

「普通に、椅子を入れておけばいいのに。」
「こんなところで椅子を出して座ると違和感があってな・・・次からはシーナの椅子を用意しよう・・・あ、食堂の椅子があった、出そうか?」
「この石で十分だから、ありがとう。」

 確かに、このような場所で椅子に腰かけているのはだいぶ違和感がある。ベンチならまだしも、食堂の椅子って・・・ないな。

「その石が気に入ったのなら、シーナ用の椅子にしようか。」
「そんなことはどうでもいい。私の椅子を出せ。」
「それが人にものを頼む態度か、ナガミ?はぁ。」

 眉間にしわを寄せるナガミにため息をついて、ユズフェルトは2人・・・いや、3人掛けのソファを出した。
 それにナガミが腰を掛けて、満足そうに口の端を上げた。

「な、すごい違和感だろ?」
「うん。視線が痛い。」

 耳元で言われた言葉に小さな声で返して、周囲をうかがう。やはり、注目されている。
 ここにいるのは私達だけではない。馬車は3台止まっているし、人は10人以上いる。旅人らしき人もいるし、冒険者もいるが・・・一番多いのは商人だ。

 アイテム袋は希少みたいだし、テンプレだとこれから商人に声をかけられて、アイテム袋を譲って欲しいと言われるだろう。

 でも、ソファを出すのは毎回のことのようだし、商人に声をかけられるのだとしたら、煩わしいのでここでソファを出したりしないだろう。
 出したということは、特に声をかけられることはないのだろうか?

 煩わしくてもソファの上でくつろぎたいだけかもしれないけど。

 どうやら後者だったようで、商人が声をかけてきた。それを見た冒険者らしき人も。私だって欲しいと思ったのだ、他の人だってそれは欲しがって当然だろう。

 ユズフェルトは私をアーマスに任せて、一人離れて彼らの話を聞いていた。そっけなく断っても、何度もお願いされているらしく、可哀そうだと思った。

「おい、小娘。」
「シーナちゃんだろう、ナガミ。」
「うるさい。」

 私を小娘呼ばわりして、アーマスに注意されるナガミ。一体何かと、私はナガミに視線を向けた。

「お前、少しは役に立つな。休憩を提案したことは、褒めてやる。」
「それは・・・どうも。」
「フン。全く、体力馬鹿ばかりで困る。」

 体力馬鹿・・・魔の大森林を無事走り抜けたナガミも、私にとっては体力馬鹿ではあるが、他のメンバーはそれ以上だ。今まで苦労していたのかもしれない。

 ナガミは、見るからにプライドが高そうだ。自分から休憩しようと言えるかどうか・・・意地を張って無理をしそうだと私は思った。

「みんなすごいよね。私、持久走とか苦手で・・・まぁ、得意だったとしても、あの魔の大森林を最後まで駆け抜けることは無理だったと思うけど。」
「・・・冒険者だからな。お前は、もう少し努力をするべきだとは思うが、さすがにあれは求めない。責任をもって、ユズフェルトが抱えるのが正解だ。」
「ありがとう。」
「フン。」
「素直じゃないね、ナガミは。それにしても、よく食べるよね、アム。」

 アーマスは苦笑いして、食事をするアムを見た。
 先ほどから会話に参加しないアムは、無口だから会話に参加しないのではなく、ひたすら食料を口の中に入れているので、話す余裕がないのだ。

「自分の荷物の半分以上が食べ物とは、面倒な体質だな。」
「アムにもアイテム袋があればいいのにね。」
「そんな希少な物アムが持っていれば、すぐに殺されて奪われるだろう。」
「・・・怖い世界。」
「そんな希少なアイテム袋を、よく譲ったよねナガミ。」
「え、ユズフェルトにアイテム袋をあげたのって、ナガミなの!?」
「あぁ、そうだ。・・・話は終わりだ。俺は疲れたから寝る。」

 面倒そうにそう言って、ナガミはソファに寝転がって、足を組み、目を閉じた。
 太っ腹の人って・・・ナガミだったのか。あまりイメージできないけど、なんであげたのだろうか?
聞いても、話すつもりはなさそうだけど。


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