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29 聖女の仕事

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 旅と言えば馬車。そう思っていたが、私達は普通に徒歩で王都を出た。
 徒歩という時点で、私は旅に耐えられるのかという不安があったが、そんなわがままは言っていられない。耐えるしかないのだ。

 ユズフェルトの横を歩く。すると、ユズフェルトを追い越したナガミが、ユズフェルトを睨みつけて話し出した。

「まさか、このまま徒歩で行く気ではないだろうな?コリンナが追いかけてきたら、すぐに追いつかれるぞ?」
「コリンナが追いかけてくると思うか?行動力はあるが、王女に変わりはないし、勝手に王都を抜け出すような真似はしないだろう。」
「甘い・・・私たちが初めてコリンナにあった時のことを思い出せ、城を抜けて魔の大森林にいて、大蛇に襲われていたのだぞ?」

 魔の大森林は、すぐ横にある。王都を出ないというコリンナも、魔の大森林に入っているだろうし、ここまでは追いかけてくることが予想できる。

「確かに、油断は禁物だな。」
「お待たせ!」

 ユズフェルトが考え込んでいると、魔の大森林からアーマスが飛び出してきた。彼が追いついてきたということは、冒険者ギルドへの挨拶は済ませたのだろう。
 もう少し足止めをされて、時間がかかると思っていたが、彼一人だったせいか早く追いついたようだ。

「アーマス、追われているのか?」
「いや、俺は追われていないよ?ただ、魔の大森林に入ったほうが人目につかずに速く移動できるから・・・てことでユズフェルト、魔の大森林を通っていこう。」
「そうだな。」
「え、道の方が歩きやすくていいと思うけど・・・」
「ハウスを出た時から追跡されているから、そいつを巻くために魔の大森林に入ろうかと思っているのだ。」
「追われていたの!?」
「あぁ。」
「気づかなかったのか?危機察知能力くらいは身に着けておいてもらわないと困るぞ。」

 飽きれきった様にナガミがため息をついて私をなじり、その矛先が後ろを歩くアムにまで向いた。

「お前もだ。荷物持ちくらいしか能がないのでは、足手まといにしかならない。せめてもう一つくらいは、何かチームの役に立て。」
「・・・」
「ナガミ、それくらいにしろ。人には向き不向きはあるし、荷物を持ってもらっているのにそのような言い方はどうかと思う。お前、荷物をもって旅なんてできないだろう?」
「・・・守ってもらっているのだから、荷物持ちくらい当然だ。荷物を持ってもらう代わりに、俺はチームの脅威を排除している。」
「あのさぁ、早く森に入らない?僕が森から出てきたところを見られたし、森に入るってことを気取られているかも・・・距離を詰められる前に入ろう。」

 頷いたユズフェルトが、私に許可を取って私を抱き上げた。

「口を閉じていて、舌を噛んだら痛いから。」
「わかった。」

 きゅっと口を閉じた私を見て、ユズフェルトは微笑んだ。なぜだろうか、むず痒い気持ちになる。
 一泊置いて、ユズフェルトは森の中へと飛び込み、ものすごいスピードで走りだした。





 その頃王城では、龍の宿木が王都を出たことが伝えられて、騒ぎになっていた。
 龍の宿木は、王都で最も活躍するパーティーで、定期的に王都に向かってくるワイバーンの討伐、定期的に魔の大森林に現れる脅威的な力を持つ魔物の主の討伐、唐突に現れた遺跡、神殿での守護者討伐まで請け負い解決してくれる稀有なパーティーだった。

 他の高ランク冒険者はいるが、定期的に現れるワイバーンの討伐を毎回請け負ってくれるとは限らないし、魔物の主にしても同じだ。
 実力もそうだが、数少ない高ランク冒険者が交代で任務に当たったとしても、消耗が激しく難色を示すような依頼。それらを請け負ってくれていたパーティーが出て行ってしまったのだ。

 これからどうなるのか、という不安が城内を包む。
 そんな空気を、言葉一つで変えた者がいた。

「ご安心を。私がすべて解決しましょう。そのために呼ばれたのですから。」
「聖女様・・・」

 立ち上がって微笑みを浮かべたのは、シーナと一緒に召喚された黒髪黒目の少女。彼女が召喚されたのは、王都の抱える様々な問題を解決してもらうためだ。
 聖女の言葉に、城内の空気は緊張が解けたものとなって、明るくなる。

「私が早急に解くべき謎は、王都に向かう魔の大森林のワイバーン。魔の大森林の主の出現。とりあえずはこの2つですね。しかし、まだこちらの世界に来て日が浅いので、謎を解くまでしばらく時間を頂きたいです。」
「それはもちろん、こちらとしてもその程度の時間を稼ぎたいとは思っています。しかし、龍の宿木が王都を出たのでしまいましたので、当初の予定より時間は少なくなってしまいました。」

 肩を落とす宰相に、聖女派そっとため息をついた。

「なぜ、その・・・龍の宿木という冒険者チームは王都を去ってしまったのでしょうか?当初の予定と言いますが、龍の宿木に要請を出してはいなかったのですか?」
「・・・その通りでございます。国は、龍の宿木に頼りきりという現状を憂い・・・危機感をもって、聖女様を召喚させていただきました。しかし・・・まさか、彼らが王都を出るとは・・・彼らが出て行ったのは、やはり負担が大きかったのでしょう。」
「それはどうかわからないぞ。」
「殿下・・・」

 王子は聖女に軽く挨拶をして、昨日第二王女が城に戻ってきたことを話した。

「確かに、負担が大きかったのかもしれない。しかし、龍の宿木が王都を出るきっかけを作ったのは、コリンナだろう。」
「コリンナ様が・・・」
「なぜ、王女様は城へ戻ってきたのですか?彼らが王都を出ることを決めたからであったのなら、王女様のせいではないでしょう。」
「新しく龍の宿木に入った冒険者の身辺調査を、側近に依頼するために帰ってきたようだ。」
「新しく入った冒険者?それで、調査の結果は?」
「・・・確証はないが・・・」

 はっきりものをいう王子には珍しく、言いにくそうに、聖女の髪と目の色を確認してから、覚悟を決めたように話した。

「おそらく、聖女様と共に来た・・・女性だと。黒の髪と瞳という情報しか入って来ていないし、召喚の儀式に立ち会った、彼女を見た者が確認したわけではないので・・・はっきりとは言えない。」
「そんな・・・待ってください、彼女は護衛と共にいるはずです。まさか、調査したものは護衛の顔も知らないのでしょうぁ?」
「いや。護衛の姿はなかったようだ。」
「・・・」
「最初に話した通り、聖女様たちの色は珍しく、なかなかお目にかかれるものでもない。なので、おそらく・・・理由はわからないが、護衛とは別行動をして彼女自身は龍の宿木のメンバーとしているのだと思う。」
「・・・わかりました。」

 聖女は、龍の宿木を追いかけたい衝動にかられたが、いったんその問題はわきに置いて、先ほど自分が言った早急に解決するべき謎を解くことにした。


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