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27 去る者は追わず
しおりを挟む魔の大森林。広大な木の密集地に、ワイバーンが落ちていく。
ひときわ高い木の上から、ワイバーンが落ちた場所を見下ろして、息をついた。
「怖かったのか?」
「それはまぁ・・・あんなに大きな魔物がすぐ近くにいるって、恐怖以外の何物でもないよね?」
「そうなのか?」
不思議そうに首をかしげるユズフェルトを見上げて、私は苦笑した。
強すぎるゆえに、普通の感性をもっていないのだろうと納得する。大きな魔物が怖いと思うのは、自分に危険が及ぶということを理解しているからだ。だから、そんな危険などどうということはないユズフェルトには、怖いと思うことがないのだろう。
それにしても、今回で3度目だ。ワイバーンを見るのは。
「ワイバーンって、こんなに出没するものなの?」
「ここ最近のことだ。以前はめったに姿を見せるものではなかったが、よくこの魔の大森林に現れるようになった。ここで倒さなければ、王都へと向かうであろうな。」
「それって、大変なことだよね?」
「あぁ。だから、定期的にここでワイバーンを狩ることにしている。他に依頼を請け負うものがいればいいが、ほとんどいない。そんな依頼を受けるのは、たまたま王都に来た高ランク冒険者パーティーが、大金欲しさにするくらいだからな。」
「ふーん。」
めったに姿を見せなかったワイバーンを、何度も倒したユズフェルトって・・・まぁ、最近はよく出没するというから、何かあるわけではないだろうけど。
「素材を回収する。降りるよ。」
「うん。」
ユズフェルトに抱き上げてもらって、下へと降りる。下に降りるときの浮遊感がすごく嫌で、思わずユズフェルトの服を握ってしまった。慣れないよね。
素材を回収するユズフェルトをぼんやりと見つめていると、その視線を感じ取ったのかユズフェルトが振り返ってきた。
「・・・そうだ、シーナ。王都を出ようと思うのだが、どうだ?」
「え・・・王都を拠点にしているのでしょう?どうして王都を出ることになったの?」
「今朝の騒ぎを見ただろう?コリンナをこのまま龍の宿木のメンバーにしておくことは、無理だと思った。コリンナは王族だし、王都を出ることになればついてくることはないだろう。だからだ。」
確かに、好意を抱いているユズフェルトに怒鳴りつけたコリンナを見れば、限界なのだろうと想像がつく。でもそれは彼女の問題だ。彼女が龍の宿木から抜ければいいだけの話なのに、なぜ龍の宿木が王都に出るという話になるのだろうか?
「コリンナは、おそらくメンバーから抜けたいとは言いださないだろうから、このままコリンナを龍の宿木に置くことになる。そうなると、全体的に危険が及ぶことになるだろう。」
「どういうこと?」
「コリンナが、俺やシーナに対していい感情を持っていないことは明らかだし、他のものとも壁を作っている。そんなものがチームにいると、連携をとるのが難しくなる。」
「連携・・・そっか、一緒に戦ったりするものね。」
「・・・まぁな。」
変な間があった気がするが、それを問い詰めるよりも先にユズフェルトが口を開く。
「それでどうだ?王都を出ることに反対か?」
「別に。私は王都にこだわりはないし、他のメンバーがいいというなら、それでいいと思うよ。それに、特に龍の宿木で貢献しているわけでもないし、私が決めることでもないでしょ?」
「何を言っているのだ?龍の宿木の中で一番貢献しているのは、シーナだ。俺が全力で任務に当たれるのも、すべてシーナがいてくれるおかげで、そんな俺が活躍しているのだからシーナの貢献が一番高い。」
「ははは・・・」
代わりに死んでくれる私がいるから、ユズフェルトは安心して戦えるらしい。しかし、そんなことは知らない他のメンバーからしたら、かなり気に障る話だ。
「でも、アムだって荷物持ちを頑張っているし、アーマスやナガミも強いのでしょう?ユズフェルトのサポートはみんなしていることだと思うけど?」
「・・・お前までそんなことを言うのか。」
はぁ、と大きなため息をついて、ユズフェルトは近くの大きな石の上に腰を下ろした。
「アム・・・か。なぁ、シーナ。これを見ても、俺が荷物持ちを必要としているように見えるか?」
「収納?」
ユズフェルトがマントをめくってみせたのは、腰に付けた袋だ。買い物に行って買ったものを入れたり、今みたいに倒した魔物の死体を収納するのに使っている。
確かに、これがあれば荷物持ちはいらないだろう。
「納得したようだな?アムが大食いなのは知っているだろう?そのせいで、自分の食い扶持を稼ぐのに苦労していて、本当に死にそうになっていたから龍の宿木に入ることを許した。」
「そうだったんだ・・・自分の食費も稼げないほど食料が必要なんて、大変だね。」
「同意する。あとは、アーマスとナガミか。アーマスは・・・俺が雇った暗殺者だが、シーナがいる今ほとんど必要ない。まぁ、一人は誰か残って欲しいとは思っているから、一番残しておきたい人物ではあるけどな。」
「暗殺者!?」
あの、白い服を着た、目立つ男が!?
暗殺者と言えば、目立たない黒い服というイメージが強かった。あとは、暗器を使うような。身のこなしは軽かったが、それは冒険者だからだと思っていた。
「ちょっと待って。暗殺者を雇う!?誰かを殺すつもりなの!?」
「そういうつもりはない。あと、ナガミだったか。」
「いや、流さないでよ!なんで暗殺者を雇ったの!?」
「随分食いつきがいいな。アーマスに気があるのか?」
「暗殺者を雇ったと聞いて、気にならない方がおかしいでしょ!それで、なんで暗殺者なんか雇ったの?」
「守ってもらうためだ。暗殺者は罠や毒に詳しいからな。何かあった時は手を貸してもらおうと思って、雇っている。」
そういうことか。確かに、そういうことなら、暗殺者を雇ってもいいような気がする。まぁ、いいも悪いも、別に私が口を出すことではないが。
「それから、ナガミ。これはナガミに限らないが・・・俺より弱いから、足手まといにしかならない。だから・・・いつ抜けてもらってもかまわないというのが、本音だ。」
「・・・」
なぜだろう?
自分が不要だと言われたわけではないのに、なぜか足手まといという言葉が胸をえぐった。
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