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17 思い出せない
しおりを挟む2度あることは3度ある。そんな言葉があったことを、私は思い出した。
「また守護者が現れたらしい。明日俺たちは神殿に行くから、シーナにはまた関係がありそうな文字を書いて渡すよ。」
「ありがとう。それにしても、これで3回目だよね。今度は、しっかりとどめを刺したか確認した方がいいと思うよ?」
「あぁ、そうしよう。」
冒険者として今までやってきたユズフェルトには、必要のない言葉だとは思ったけど一応思ったことは言った。倒しても倒しても現れる敵なんて、ゲームではないのだからと思う。きっと、とどめをさせていないのだろう。
ゴーレムは、ゴーレムの体のどこかにある魔石を破壊すると倒せる。その魔石が再利用可能なのかはわからないが、魔石に修復能力があるのかもしれない。
破壊してから持ち帰れば、もう現れなくなるかもしれない。
ユズフェルトはしっかり確認すると言っていたので、またゴーレムが現れた時に魔石を持ち帰ってはどうかと提案してみよう。
ユズフェルトたちが出発した後、ハウスで一人紙と向き合っていた。ユズフェルトが私のために書いて行った単語は3つ。もっと多くても大丈夫だと思うが、無理のない範囲でやったほうがいいと言われて、楽々覚えることができそうな3つの言葉を残していった。
「危険が、これ。危険、危険、危険。覚えておかないと、一人で依頼を受けた時どんな危険があるかわからないからね。」
ユズフェルトが私のために書く言葉は、当り前だが覚えていないと不便なものばかりだ。危険な目に合ったり、だまされたりしないようにと言う心遣いだろうが。
「剣士とか、魔法使いとか・・・もっとファンタジーなのを覚えたい。はぁ。」
日本語とも英語とも違う、くねくねした文字。英語の筆記体は近いかもしれないが、筆記体の英語はほぼ読めないのでわからない。
とにかく、文字は覚えるのは大変だ。
「危険・・・ちょっと長すぎだよね。一体なん文字ある・・・どっからどこまでが一文字なのかな?」
危険という文字と向き合って、眉間に深いしわを刻んでいると、外が騒がしくなっていることに気づいて、顔を上げた。
誰かを呼ぶような・・・いや、家を訪ねているような声だ。
「龍の宿木、誰かいないか!龍の宿木!」
「・・・え、家?」
どうやら、たずねられているのはここ、龍の宿木のハウスだ。
どうしようか。ハウスには今私しかいない。だが、私が出たところで、訪問者の満足がいくわけがない。
居留守・・・いや、用件だけでも聞いて、ユズフェルトが帰ってきたら伝えよう。
私は、急いで1階に降りて、鍵のかかっていた扉を開けた。
外で立っていたのは、冒険者風の男。
「遅いぞ!」
「え、はぁ。」
いきなり怒鳴られるとは思っていなかったので、何と答えればいいのか迷って曖昧に返事をする。
男は、私を押しのけてハウスの中へと入っていく。え?
「あの、ちょっと!」
「扉を閉めろ。内密な話だ。」
「そんな話をされても困るから、出て行ってください!話があるなら、ユズフェルトがいるときに出直してきてください。」
「・・・」
男は大股で近づいてきて、乱暴に扉を閉めた。
あまりにも大きな音がなって、心臓がどくどくと嫌な鼓動の打ち方をする。
「人目があると困るんだよ、お前を攫うからな。」
「は?」
乱暴に扉を閉めた腕が、今度は私の首を絞めた。何が何だかわからない、私はとにかく男から離れるために暴れる。
「くっ!放・・・して!」
「面倒だ、暴れるな。」
いくら暴れても、男の腕は全く緩まない。力量差は明らかで、暴れることに意味はないように感じた。いや、面倒だということは、男の邪魔にはなっているということだ。少しでも邪魔をして、時間を稼ごう。
でも、息が苦しい。
まさか、このまま殺す気だろうか?殺されて、このままハウスに放置されるのなら、特に問題はない。死んでも生き返る私なら、生き返るだけだ。
しかし、死体を移動させられたり、気を失わされて何処かへ連れていかれるのはまずい。帰り道が分からないし、ユズフェルトに迷惑がかかる。
何か・・・
何かないだろうかと、視線を動かして、私はそれが自分の腕についているのを見つけた。
ユズフェルトがくれた魔道具。確か、相手を麻痺状態にすると言っていた。
「っ!」
「暴れるなって、言っているだろーが!」
首を絞める腕の力が強まった。早く、腕輪を使わないと!
「・・・っ!」
確か、一言でよかった。それを言えば、触れている相手を麻痺状態にできると。そう、一言!
一言だけなのに!
息が苦しい。どちらにしろその一言は言えなかっただろうが、もしもこれが首を絞められた状態でなかったとしても・・・そう、言えなかった。
どちらにしても言えないのだ。その一言を忘れてしまったから。
「・・・」
視界が暗闇になる。
どんな言葉だったか・・・カタカナだったことは覚えているのに。歯を食いしばるほど悔しかった。自分の物覚えの悪さ、不器用さが嫌だ。
文字の勉強をしているなら、魔道具の発動の仕方を勉強すればよかった・・・
私は、意識を失った。
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