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14 ヒール草

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 目覚めのいい朝。
 今日は、ユズフェルトが薬草採取について教えてくれる約束だ。魔物の討伐よりは、私にもできそうなことなので、少しだけ楽しみだ。

 昨日買ってもらった冒険者服に着替えて、私はドレッサーの前に立つ。

「かわいいけど、大丈夫かな・・・」

 私が心配しているのは、膝上丈のスカートだ。スカートで魔物と戦ったり、薬草採集をするのはどうかと思う。絶対、下着が見えてしまうだろう。

「この世界の下着も、前の世界と変わらないから・・・見られると恥ずかしいよね。」

 異世界転移と言えば、中世ヨーロッパと魔法を組み合わせた世界だろう。だが、この世界は、魔法要素のある、大雑把な中世ヨーロッパの世界観だった。

 下着は、半ズボンみたいなのが中世ヨーロッパだと思う。でも、私が買ってもらった下着・・・下着ばかりはお金をもらって一人で買わせてもらったが・・・普通の下着だ。
 はきなれているので、ありがたいけど。

「まー・・・短いスカートもあるから、下着も普通なのは納得かな?ズボンだったら、こんな心配しなくて済んだのに。」

 可愛いけど、恥ずかしいのは嫌だ。でも、買ってもらった物に文句を言うのは、間違っているだろう。
 私は頭を振って、下着が見えるかもという不安を放り投げる。

「今日は採集を教えてもらうのだから、気合を入れないと!やっと私にもできそうな冒険者の仕事なのだから。」

 頬を叩いて、鏡の前で笑う。
 準備は万端だ。私は、自室を出てユズフェルトの部屋へと向かった。



 ユズフェルトともに、冒険者ギルドで薬草採集の依頼があるのを確認してから、東の森へと向かった。
 今回受けた依頼は、無限納品依頼というもので、依頼を受けることを伝えなくても要求物を受付に提出すれば依頼達成となる。需要の高いものを要求しているので、あまりにも膨大な数でない限りは、いくらでも納品できる。

「今回は、ヒール草を採取する。冒険者の、それも初心者が求める、他にも旅をするものも護身用として求める薬草だ。」
「ヒール草・・・」

 名前からして、回復する草だろう。初心者が求めるのは、ポーションより安価だからだと思う。それか、ポーションの材料がヒール草で、調合の練習とポーションそのものを増やすために買うのかもしれない。採取する手間が省けるからだろう。

「この森は、大森林と違って魔物は出ない。だが、稀に凶暴な動物、例えば狼などが出る。今日は俺がいるから、薬草採集に集中していいが、一人で採取する場合は気を付けてくれ。」
「わかった。このあたりにはまだないのよね?なら、もっと奥に行かないと。」
「あぁ。気を付けて。」

 森の中は、行きかう人が多いのだろう。舗装されていないガタガタ道だが、それでも道があって迷うことはなさそうだった。

「この森で採取する薬草は、ヒール草以外にもヒールの実というものがある。ヒールの実はこの時期ではとることができないが、木になる実でその木の下でヒール草がとれる。」
「そうなんだ。草も実も効能は同じなの?」
「ヒールの実の方が効果は高い。けど、季節のものだからな。干して保存がきくようにすることもあるが、それだとヒール草より効能が落ちる。」

 ヒールの実を干したもの、ヒール草、ヒールの実の順番で効能が高くなっていく、つまり回復量が大きくなるのかな?

「そういえば、この世界にはポーション・・・回復薬はあるの?」
「あるよ。ただ、かさばるものだからこの袋に入れてある。必要な時は言ってくれれば渡すから。」
「ありがとう。」

 ユズフェルトの腰に下げたアイテムボックス・・・この場合はアイテム袋か?無限収納っぽくて、本当にうらやましい。無限ではないかもしれないけど、だいぶ容量がありそうだ。

「シーナ。」
「何?」
「なんで通り過ぎる?この木だ。」
「え、この木なの?」
「ヒール草もあるだろう?」

 道沿いにある大きな木。特にこれといった特徴もない木の下には、赤い草が生えていた。太めな茎に、何本かに分かれた細い茎があって、ところどころに葉っぱがついている。

「これがヒール草・・・」
「そうだ。・・・あぁ、そういえばシーナは鑑定をもっていなかったな。あらかじめ特徴を話しておくべきだった・・・悪い。」
「あー・・・そういえば、鑑定能力者だったね、ユズフェルト。だから事前に何の説明もなかったんだ。」

 説明するのも難しいほど、特徴のない草なのかと思った。それだとしたら、私一人が見つけるのは難しいけど。

「これがヒール草だ。見ての通り赤いから、割と見つけやすいだろう?この木になる、ヒールの実も赤だ。この木は・・・特に特徴がないな。」
「うん。周りの木と何が違うのかわからない。」

 鑑定を使えるユズフェルトは、特徴のない木でもすぐにヒールの木と分かったのだろう。だが、私には全くわからない。本当に普通の木だ。幹が赤いこともないし、葉っぱも緑。

 落ちていたみずみずしい葉っぱを拾って観察してみるが、特に特徴らしい特徴は見つけられなかった。

「このあたりの木は、だいたいヒール草だ。道を外れて奥に入れば、ヒール草があるかもしれない。このあたりは採取した後みたいで、ほとんど生えていないからな。」
「そうだね、私ちょっと行ってみるよ。」
「・・・俺も後ろからついて歩くから、心配するな。」
「よろしく。今日は、ヒール草探しに専念するね。」

 私は木の下を見て、赤い葉っぱのヒール草を見つけるたびに採取した。手元がいっぱいになったら、ユズフェルトが袋の中に収納してくれたので、私は再び採取に戻る。

 わかりやすい薬草だから、探すのも簡単だ。だが、これだけ残っているということは、買取価格は安そうだな。

 時々、お金になる薬草をユズフェルトに教えてもらったが、こちらの方は緑色の草でどれも同じように見えてしまって、違いが判らなかった。
 ユズフェルトも特徴という特徴を教えることができず、鑑定に頼り過ぎていたと落ち込んでしまった。

 鑑定のない私は、同じように鑑定のない人に採集の仕方を終えてもらった方がいいかもしれない。



 一通り採集を終えた私は、冒険者ギルドに戻ってきた。行きと帰りで3時間くらいしかたっていないので、移動時間の方が長かったような気がする。

 森も結構広かったし、奥まで行くのに時間がかかった。

 そして、鑑定結果は。

「10草で、3アーツです。38草あったので・・・11アーツでどうでしょうか?」
「大丈夫です。」
「では、こちらが11アーツです。」

 アーツというのはお金の単位だ。10草で3アーツなら、もう2草くらい探しておけばよかったが、1アーツくらいならそう変わらないだろう。
 やはり、買取価格は少なかった。しかし、今回は他の薬草もいくつか採集していて、丁度依頼があったのでそれも納品した。

「2草で、5アーツです。4草あるので、10アーツですね。」
「はい。」
「では、こちらが10アーツです。」

 ヒール草より高い!できればこちらをもっと採取したかったが、私にはこれの見分けがつかなかったし、ユズフェルトもあまり見つけていなかったので珍しいのだろう。

 だから買取価格が高いのよね。

 とりあえず、21アーツを手に入れた。これで・・・串焼き1本は買えるかな?

「初採取はどうだった?」
「私には向いてないかも。あ、あれを調合すればもっと高くなったよね!」
「調合?」
「うん。あれをポーションにすれば・・・草のまま売るより、調合の練習として使った方が有効活用できたかも。」
「調合なんてできるのか?それに、ヒール草なんて調合してどうするんだ?」
「できないけど・・・やってみたいなって。ヒール草で、ポーションができたら、少しでも役に立てるかと思ったのだけど。」
「?」

 不思議そうな顔でこちらを見るユズフェルト。そういえば、ヒール草なんて・・・って言ったよね?もしかして、ポーションの材料ではないのかな?

 よく考えてみれば、調合してポーションができるっていうのは、私の想像だ。

「勝手に、ヒール草で回復薬ができると考えていて・・・もしかして、ヒール草ではポーションできないの?」
「俺も調合はやらないからわからないが・・・ヒール草の効能を考えると、ポーションには使わない気がするぞ?気を強く持つために使う草だからな。」
「え、回復じゃないの?」
「違うが?」

 ヒール草は、動物や魔物と戦うのが怖いという人に、度胸を付ける薬だった。



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