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13 初めての討伐
しおりを挟むワイバーン討伐を終えて、それをギルドに報告後、私達は屋台の食べ物を買ってハウスへと戻った。
屋台の食べ物は、すぐに食べられる食べ歩き用のものばかりだったが、中にはスープなどもあって、座って食べたほうがよさそうなものまである。
それらを買って、温かいうちに食べられるようにと足早に戻る。
ハウスに入って、共有スペースの1階にある食堂へと足を向けたところで、名前を呼ばれたユズフェルトが足を止めた。
「ユズフェルト様!」
「・・・コリンナ。」
2階から、階段をおりて満面の笑みをユズフェルトに向けたのは、コリンナだ。立ち止まるユズフェルトに向かって歩くコリンナは、一度だけ冷ややかな視線を私に向けたが、特に何も言わずにユズフェルトに向かって高い声で話し始めた。
「私、ずっと待っていたのです。ユズフェルト様、今夜は私と夕食を共にしませんか?私の友人から、おいしいワインを出す店を聞きましたの。ぜひ、ユズフェルト様と行きたいと思って。」
「悪いが、今日はもう夕食を買ってきてしまった。また今度にしよう。」
「それなら、アムに食べさせればよろしいではないですか。」
「言い方が悪かった。今日はシーナと食べることになっているから、遠慮して欲しい。どうしても今日行きたいというのなら、アムを誘ったらどうだ?」
「そうですか、それは残念です。」
コリンナは、とても残念そうに言って肩を落とした。ユズフェルトに背を向けて来た道を戻る彼女は、私の横を通るときにものすごい形相で私を睨みつけて歩き去った。
恨まれていそう。
「シーナ、行くぞ。早く食べないと冷める。」
「そうだね。」
食堂にはアムがいて、私達と同じように屋台で買った食事を、次々と平らげていた。水を飲むかのように、するりとアムの中に消えていく食べもの。
アムは、パーティーの荷物持ちとしての役割を持っているらしく、だいたい大荷物を抱えている。軽々と荷物を持つ彼は、かなりの筋力の持ち主だと想像できるが、実際は細マッチョという感じの、実用的な筋肉とは違う、見せる筋肉なので、あれだけの大荷物が持てるのは不思議だった。
それにしても、よく食べる。串焼きの串は、すでに数えるのが面倒になるほどの数捨ててあって、机の上にはこれまた数えるのが面倒なほど手を付けていない串焼きがある。
「驚いたか?アムにとって、あれが普通の食事だ。」
「よくあれだけ食べられるね。食べる量もすごいけど、口に入れるスピードも速いのね。」
串焼きを一気に3本分口に入れて、咀嚼を3回ほどしたらまた同じように口に入れている。あれで味が分かるのかと疑問に思う。
これなら、大食い選手権にも早食い選手権にも出ることができそうだ。この世界にそんなものがあるかはわからないが。
「速さは意図的に早くしているらしい。食べる量が多すぎて、時間がとられるからな。あいつは本当に苦労しているよ。」
「確かに、あの量を食べるとなると、手早くしないとかなりの時間がかかるね。私があの量を食べられたとして、普通に食べても一時間以上かかりそう。」
「だよな。コリンナは、どれだけ食べても太らないのはうらやましいって言っていたけど、デメリットが多すぎるよな。」
「食事を用意するのも大変だよね。」
高ランク冒険者だからこそ、できる生活なのだろう。もしも小さい村の住人だとしたら、どれだけ働いたとしても食費が賄えないだろうし、それだけの食糧が村にあるとも思えない。
もしかしたら、そうした理由で冒険者になったのかもしれない。
「そういえば、ユズフェルトはどうして冒険者になったの?」
「俺か?」
「うん。だって、死にたくないなら、冒険者なんて仕事しなければいいのにって思って。」
「まぁ、そう思うよな。俺が冒険者になったのは、成り行きだ。」
「成り行き?友達に誘われてとか、そういう感じってこと?そういえば、パーティー名はナガミが付けたのだっけ?ナガミに誘われたの?」
「パーティーは、確かにナガミに誘われたな。俺が冒険者になった後にナガミとは出会った。まぁ、その話はまた今度な。俺が冒険者になった理由は、ナガミと出会う前・・・俺がまだ故郷に住んでいた時の話だ。」
この国の端、最南端にユズフェルトの故郷はある。常に温かい気候で、年中作物が実っている豊かな村。魔物が寄り付くこともなく、とても平和な村だった。
しかし、そんな完璧な村は、今や存在しない。それはたった一つの事件、ユズフェルトが冒険者となるきっかけとなった事件のせいだった。
カシャーン。
響いた音は、代々村が守ってきた壺がわれた音だった。
「ご、ごめんなさい!手が滑ってしまって!」
何度も頭を下げて謝ったのは、ユズフェルトの幼馴染の女性。彼女は、村長の娘だった。
そこは村長の家で、割れた壺は村長が代々守り受け継いでいる大切な壺だ。毎日綺麗な花を入れている壺に、村長の娘はいつものように花を飾ろうとしただけだった。
「仕方がない。形あるものはいつか壊れるものさ。」
「でも、大切な物なのに。」
「本当に守らねばならないものは、形あるものではない。村を思い、良くしようとする心が大切なのだ。お前がそれを持ち続けるのなら、それでよい。」
「・・・はい。絶対、その心を持ち続けることを、誓います!」
村長の娘がそういったことで、その場は収まった。
それだけで済む問題ではないことを、誰も気づいていなかったからだ。
その壺には、言い伝えがあった。
もしも、村を不当に奪われるようなことがあれば、何を犠牲にしても村を奪われたくなければ、この壺を割れ。
そんな言い伝えがあることは、誰もが知っていた。だが、その言い伝えを真に受けている者は誰もおらず、壺を割ればどうなるのかは言い伝えられていなかったため、誰も気にしなかったのだ。
そして、事件は起こった。
いつものように畑仕事に精を出していた若者が、一息ついて顔を上げた。その視線の先、高い山の向こう側に黒い点があった。
なんだろう?不思議に思った若者は目を凝らした。しかし、いたって普通の視力の若者には、ただの点にしか見えない。だが、それが徐々に大きくなっていくのはわかった。
何かが、こちらに向かってきている?
そうと気づいた若者は、背中にひんやりとしたものを感じて、急いで村長宅に駆けだした。
そのことが村に広がったころには、それはすぐそばまで来ていて、大きな翼をはばたかせてこちらに向かっている姿がはっきりと見えた。
「ど、ドラゴンだ!?」
「いや、あれは・・・ワイバーン・・・」
「な、なんだって!?なんで魔物が村に向かってくるんだ!それも、ワイバーンなんて。」
それは、村長の娘が壺を割ったせいだった。
村長の家に代々伝わっていた壺は魔道具で、割ると近くのワイバーンを呼び寄せるというものだったのだ。
「おそらく、村を奪われるくらいなら、村を滅ぼす。そういう決意があったのだろうと思う。その壺を残した村長は。」
「それは・・・迷惑なことだよね?」
「・・・俺は、迷惑だと思った。だが、賛同する・・・同じ意見の者もいたよ。俺には理解できないけど。話の続きは・・・まぁ、わかるだろ?俺がワイバーンを倒した。」
「本当に、初討伐ワイバーンだったのね。」
「あぁ。これがきっかけで、冒険者になることになった。」
「・・・そうだったのね。」
納得して話を終えて、すでに食事も終わっていたので、ユズフェルトに就寝の挨拶をして自室に戻った。
「・・・あれ?」
一人になって、ユズフェルトの話を思い返してみて気づく。
結局、どうして冒険者になったのか聞いていなかった。
ワイバーンを倒したから冒険者になった。それは理由にはならない。
「結局、ワイバーンを倒して、それがなぜ冒険者になることと繋がるのか、わからない。」
ワイバーンを倒したら、冒険者にならなければならないという法律でもあるのだろうか?
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