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10 攻撃手段
しおりを挟む自室で、服をベッドに並べる。シャツとロングスカートの色違いが2着ずつ。ワンピースも2着。
神殿の守護者を無事倒したユズフェルトは、今日は私と王都を散策すると言った。昨日の酒場でのことを思い出し、頬が緩む。
「シーナは、王都をあまり知らないだろ?一応ここが俺たちの拠点だし、よく知っておいた方がいい。」
「案内してくれるのはうれしいけど、昨日の今日で大丈夫?私のおもりをしていたら、ユズフェルトは今日も休めないし。」
「そんな風には思っていないけど?俺は普通に、シーナに王都を案内したいし、案内中においしいもの食べて、買い物も済ませたいって。嫌々ではないから安心しろ。それとも、シーナが嫌だったか?」
「むしろ嬉しいよ。いろいろ見て回りたいと思っていたし・・・おいしいレストランもチェックしたかったから。」
「それなら決まりだな!」
楽しみだというかのように微笑みかけられて、私も笑った。
「さて、昨日はこっちの服だったし・・・今日はワンピースにしようかな。」
ユズフェルトに買ってもらったワンピース。2着あるが、どちらもまさかの白・・・お嬢様か!とツッコミを入れたくなるが、自分では絶対買わないような服を着る機会ができたのは少しだけ嬉しい。
自分で買ったとしたら、痛いと感じてしまうが・・・人に買ってもらったのなら、買ってもらって着ないのは悪いからと言い訳が立つ!
こういうの、着てみたかったから、嬉しいな~
鼻歌を口ずさみながら、私は白のワンピースに着替えた。
この部屋には姿見がないので、ドレッサーの鏡の前で一回転をして、おかしくないかを確認した。
「・・・結構いい感じかも?」
流石お店の人が用意してくれたワンピースだ。白のワンピースが似合うのかと不安だったが、変な感じはないしむしろしっくりとくる。
着替えを終えたので、私は自室を出て2階へと降りていき、ユズフェルトの部屋の扉をノックした。
「用意できたよ。」
「わかった。」
本当は1階集合と言われたのだけど、共有スペースで待っていたら他の仲間に絡まれそうだと思って、私の用意が出来たらユズフェルトの部屋まで行くと言ったのだ。
「おはよう、シーナ。」
「おはよう。」
「似合っているよ、そのワンピース。もっと買えばよかった。」
「ありがとう。でも、これで十分だよ。あと欲しいのは・・・冒険者の活動をするときに着る、動きやすい服かな。」
「シーナは動く必要はないが?・・・移動中も俺が運べばいいし。」
「何を言っているの?」
「だめか?」
「・・・一緒にいたら、このペンダントをしている意味ないよね?」
はっとしたような顔をして、ユズフェルトは真面目な顔で頷いた。
「冒険者の服は必須だな。」
「今度は、ユズフェルト御用達の店に連れて行ってよ。」
「・・・かまわないが、デザインはあまり豊富ではないけど・・・いいのか?」
「うん。」
動きやすい服にデザインを求めることはない。
「そういえば、王都を離れることってあるの?ここが拠点なら、この近辺の依頼を受けるよね?だったら、私はハウスで待っていることになるのかな?」
「いや、確かに拠点はここにあるが、王都を離れることもないわけじゃない。それに、昨日は留守番してもらったが、俺はシーナを一人にするつもりはないから・・・仲間を説得して、一緒に任務が受けられるようにする。」
「どうして?ハウスにいても、身代わりができるなら別に、留守番でもいいと思うけど?」
「・・・シーナは王都を散策すると話した時、とてもうれしそうだと感じた。ハウスで一人で過ごすより、俺たちと一緒に外でいろいろな場所に行く方が、いいと思わないか?」
「私のためってこと?」
確かに、異世界に来たのだから、色々なところを見て回りたいとは思った。でも、私は戦力にならないし自分の身を守ることはできない。いざという時は死んでも生き返るから、別に守る必要はないけど、極力ユズフェルトは守ってくれる気がした。
つまり、完全な足手まとい。
迷惑をかけるくらいなら、一人で留守番をしていたほうがいい。
「シーナのためというわけではない。俺が、そのほうが気が楽だから。さて、まずは冒険者の服を買いに行くか。」
「・・・うん。」
ハウスを出て、手をつないで大通りを歩く。
自然と手をつないだけど、本当につないでないとユズフェルトが迷子になるのかという疑問があった。
まぁ、冗談だよね?きっと私が王都を歩きなれていないから、心配してくれたのだろう。
「シーナ、他に何か欲しいものはあるか?」
「特には・・・あ、櫛が欲しいかな。」
「わかった。だったら、髪飾りも買おう。どちらも雑貨屋にあるからな。」
朝起きた時、手櫛で髪を整えたのを思い出していったのだが、余計な気遣いをさせてしまったかもしれない。髪飾りなんて、日用品ではない。
「櫛だけで大丈夫。いつも髪はまとめていないし。」
「いや、何かあった時のために買うから、身に着けて欲しい。」
「何かあった時のため?」
「そう、例えば一人でいるとき、唐突に襲われたとする。そのとき、髪飾りを使って相手を刺し、相手がひるんだ隙に逃げる。」
「・・・」
誰が襲うのか?
だいたい、髪飾りにそんな殺傷能力があるのだろうか?
そんな疑問を持ちながら、冒険者の服を買う前にあった雑貨屋へと足を運ぶ。
ユズフェルトが選ぶ前に、早々に素朴な櫛を選ぶ。これ以上不必要に高価なものを買ってもらうのは、申し訳ないので遠慮したかった。
「それでいいのか?女性の買い物は長いと聞いていたが、シーナは早いな。なら、次は髪飾りを選んでくれ。候補は・・・この3つだ。」
ユズフェルトが選んだ髪飾りは、太い針のような危険物に飾りが付けてあるもので、十分人を傷つけることができそうだった。
「こ、これは・・・自分が怪我をしそうで怖いかな。」
「あぁ、確かにそれはそうだな。なら、これにしよう。」
扱いが怖いので、丁重にお断りをしたら、腕輪を渡された。
銀色の腕輪で、細かい装飾がしてある。この雑貨屋には不釣り合いな、高価の物のような気がした。
「これは、俺が冒険中に見つけた宝箱に入っていた魔道具だ。」
私物だったのか。そういうのは店の外で渡して欲しかった。
店の中で商品を身に着けることに抵抗がある私は、ユズフェルトの私物だとしても腕輪をはめることをためらう。
それを勘違いしたユズフェルトは、優しく笑った。
「シーナを傷つけるような魔道具ではないから、安心してくれ。その魔道具は、触れた相手に軽い麻痺攻撃ができるようになる腕輪だ。それを付けて「パラライズ」と言えば、発動する。」
「そういう心配はしてないよ。ユズフェルトが、私を陥れるようなことなんて、しないと思っているから。ただ、お店で付けるのが嫌だっただけ。」
「そうか。ならさっさと会計を済ませて出よう。」
ユズフェルトの言葉に驚いて、訂正しなければと思って考えもしなかったが、ずいぶんと物騒な腕輪を手に入れてしまった。
パラライズって言えばいいだけって・・・
簡単に相手を攻撃する手段を手に入れてしまった。
まぁ、麻痺ならまだいいか。毒だと気が引けるけど、麻痺なら命にはかかわらないだろうし。
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