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5 ハウス
しおりを挟む冒険者ギルドを出て10分ほど。賑やかな通りを過ぎて、静かな大通りに出た。冒険者ギルドがあった通りは土を固めた道だったが、静かな大通りは石畳になっていて、城を出た時も通った覚えがあった。
並んだ丈夫そうなレンガの建物の一つに、ユズフェルトは迷いなく進んで扉を開ける。
「コリンナ御用達だから間違いないと思うから、ここにしよう。」
「ここは・・・服屋?」
「あぁ。好きなのを選んでくれ。」
これでやっと、血に汚れてずっと着たままだった服からおさらばできる。早く新しい服を着たい。
ささっと店内に入って、並ぶ商品を見回したが・・・想像していた服とは異なっていて驚いた。どれも余所行きの服装というか、気合入っていますね、という格好だった。
どう見ても冒険者の着る服ではない。
いや、冒険者がおしゃれをするなというわけではなくて、冒険するのにロングスカートでは危険だと思うし、レースも武器に引っかかったりして危険だろう、という話だ。
「本当に、ここはコリンナ御用達なの?冒険者用の服があるようには見えないけど。」
コリンナはどのような服装をしていただろうか?たしかロングコート・・・ローブというものだろうか?それを着ていたので、中の服装の印象が薄かった。
「・・・おそらく、コリンナはオーダーメイドで作っているのだと思う。貴族はそういうものらしいし。」
「貴族?」
「あぁ。厳密にいうと王族だが、大差ないだろ?」
「大ありだけど!?」
王族と貴族では大違いだ。貴族の間だけでも爵位によって差があるというのに、何を言って・・・とは思ったが、別に私も貴族の何たるかなどは知らない。
特にこの世界の貴族なんて、玉座のまで会ったくらいだし・・・そういえば王族にも会ったな。あれ、前世よりも貴族のことは知っているかもしれない?
いやいや、会っただけでそこまで言うことはできないだろう。
「オーダーメイドって、もちろん数時間でできるものではないよね?」
「それはそうだろうな。とりあえず、今日はハウスや町を歩くときに着る服を買えばいい。どれでも好きなものを選べ。」
「それでは、遠慮なく。」
早くまともな服が来たかった私は、服が並ぶ場所へ足早に近づいて、見て回った。
手に取ってみることはせず、ただじっくりと見る。元居た世界で、外国では店員に許可を得ないと品物に触れてはいけないというのを聞いたことがある。この世界での買い物の仕方などわからないので、安易な行動は控えた。
そういえば、店員さんは声をかけてこないのかな、そう思って視線を送ると店員さんが近づいてきた。
「こちらは上下セットになっています。数セットあれば、服に悩まずに済むと好評の品です。」
「そうなのですね。この中で、流行に関係なく着れそうなものってありますか?」
流行を追いたいわけではないが、遅れているというのも嫌なので、そういうのが関係ない服がよかった。
「それでしたら、こちらとこちらはいかがでしょうか?お客様の御髪にも合う色合いです。」
私の髪の色に合うって、黒なら何でも合うと思うけど・・・
とりあえず出された服を見れば、可愛らしいシャツとロングスカートの組み合わせで、色が違うだけだった。ピンクのシャツに黄色いロングスカート・・・可愛らしい。白のシャツに紺のロングスカート・・・こちらの方が手に取りやすい。
「それでは、こちらを・・・」
「両方買おう。」
「え?」
手に取りやすい方をと言おうとしたら、後ろからユズフェルトが口をはさんだ。
「何着か必要なはずだ。あとはワンピースと、寝間着、コートも2着ずつ買う。」
「かしこまりました。」
「多くない?」
「少ないくらいだろ?コリンナなんて、服のためだけに部屋を一つ使っている。」
「うわー。」
そういう人、本当にいるのだなと少し引いた。まぁ、王族なのだから、舞踏会の度にドレスや靴なんかを買っているのだろう。
確か、一度も同じ服を着ない、靴を履かないというお姫様の話を聞いたことがある。でも、そんなことしたら部屋がいくつあっても足りないな。
「でも、パジャマ・・・寝間着は一着でいいと思うけど?」
「気分によって、その日の寝間着を決めるって・・・コリンナが。でも、流石に普通の人は違うだろうなと思って、2着にした。」
「女性の情報は全部コリンナ情報なのね。」
「俺たちのパーティー唯一の女性だからな。これからはそこにシーナも加わるけど・・・コリンナは同性にはきついらしいから、なるべく俺か・・・俺の隣にいることをお勧めする。」
「それは、ユズフェルトしか歓迎してくれていないってことだよね?ま、さっきの態度を見ていればわかるけど。」
「・・・能力が一流の者ばかりだから、シーナは浮いてしまうだろう。すまないな。」
ユズフェルトは、最高ランクSの冒険者だ。その中も同等なのは当たり前だし、その中に新人が入ることの違和感、拒否感は理解できる。拒絶されるだけならばマシだが、コリンナの様子を見ると何か仕掛けられそうな気がする。
面倒だ。
服を買いそろえて、いよいよユズフェルトたちのハウスへと案内された。
ハウスは、石畳の通りにあって、豪邸と呼べる大きさと装飾が施された、白を基調とした建物だ。屋根は、濃い青で白の壁は汚れ一つなく清潔感がある。
「ようこそ、俺たち「龍の宿木」へ。新しい仲間を、俺は歓迎する。」
「龍の宿木?」
「パーティー名だ。最初付けられたとき・・・これは、ナガミが付けたんだが・・・まだFランクだった時にこんな大層な名前を付けられて、すげー恥ずかしかった。」
確かに、駆け出しで「龍」を入れるとか、先輩に鼻で笑われそうだ。実際何度かからかわれたことがあるらしく、そのたびにユズフェルトは笑ってごまかしていたらしい。
「だけど、ナガミの奴は本気で怒っていたな。あいつ、実はかなり年上でさ・・・笑ってきた先輩なんかナガミの3分の1くらいしか生きてないような人で・・・実力はあったし、ナガミだけは年上だしで、かなり怒っていた。」
ナガミは、やはり人間ではないようだ。それに長生きで、実際もうかなりの年齢のようだが、私には20代にしか見えなかった。
冒険者の先輩がいくつかは知らないが、例えば20としても、ナガミは60歳ということになる。
「・・・キレる老人。」
「シーナ・・・それは、ナガミの前で絶対に言うな。確かにナガミは怒りやすいが、それを指摘してはいけない。特に、歳のせいにはするな。」
「そんな真顔で言うってことは・・・ユズフェルトは口が滑って、ナガミに言ったことがあるの?」
「ないが、いつも思っている。」
「随分と面白い話をしているな。」
びくりっと、ユズフェルトの体が動いた。背後から掛けられた声に、ユズフェルトはそっと振り返って、悲鳴をかすかに漏らした。
もちろん、声をかけてきたのは話に出てきたナガミだ。
黒い服を着た、長い金髪の美しい男は、どこまでも冷たい青い瞳でユズフェルトを見下ろした。
「お前は、私が認めるほどの力を持っているのに、時々、度々、馬鹿に見える。」
きっと、度々思っているのだろうな。
完全に傍観者になって、2人のやり取りを見届けることにした。
どうやら、ナガミはまだ29で、キレる老人ではないと主張している。確認はしようがないが、ユズフェルトは人をからかうことが好きなようなので、ナガミの言葉は本当かもしれない。しかし、あえて私の中では「自称29」にしておこう。
なんというか、物言いが老人ぽいから。
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