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30 魔法が解けるとき
しおりを挟む兄がデュオを殺した?なんで?
「わからないの?お兄さんは言っていたと思うけどな・・・君が頑張ったから、君を帰せる方法が分かったって。」
「私が頑張ったから・・・頑張ったから・・・!?」
そうだ、確かに兄は言っていた。だから、兄は殺したの?
「まぁ、別に僕はお兄さんさえいればいいから、君たちの邪魔をするつもりはないよ。君の大切な人を殺すことで、君を帰そうとするっていうのは止めはしないからさ。」
「・・・兄さえ・・・兄さえ?」
「そう。お兄さんの代わりに君を連れてきたから、お兄さんがいれば君を帰しても僕はいいわけ。あ、解けちゃったね魔法。」
「・・・え、エクスは、どうなるの?」
そうだ、エクスはどうなるのか?エクスが話していた大切な人の中に、私を待っている人の中に、私が帰る元の世界にエクスは出てこなかった。
それを疑問に思ったはずなのに、思った直後にその疑問はどこかへ行ってしまった。
魔法をかけられた?
「もちろん、お兄さんには、ここにいてもらう。そのためにさらったんだからね?それにしても、行動が早いね。もうトゥリアもいないことだし・・・あとはクライマックスってところかな?」
「・・・それって、まさか・・・殺したの?」
ヒロインは、もういないのか?そういえば、あの階段から突き落とした後からヒロインを見ていない。少し接しただけだが、あのヒロインの性格からして文句の一つも言ってこないのはおかしい。ということは、すでに死んでいる?
「君が階段でトゥリアを突き落とした後、お兄さんがもう一回突き落としてね・・・暗示もかけていたからぽっくりと、ね?あ、でも安心していいよ、あの迷い人は君と同じく転生しただけだから。」
エクスが、私と同じようにトゥリアを突き落として殺した?
そうだ、忘れていたけど、エクスはとんでもない人物だったのだ。ヒロインが腹黒と言っても言い返せないくらい、ゲームではとんでもない人物だった。
ご存じの通り、ゲームでは実の妹のミデンを嫌っていたエクス。笑顔で接しているせいでミデンは最後まで気づかなかったが、ミデンを不幸にするために裏でミデンに成りすまして嫌がらせなどを行っていた。いや、もうあれは犯罪だ。
ミデンが贈るプレゼントには、必ず毒を仕込み、相手がミデンに対して殺意を持つようにし、ミデンの名前で暗殺者を雇って、デュオに暗殺者を送ったりしていた。
ミデンはわがままで勉強嫌いのどうしようもない悪役令嬢だが、半分の笑えない悪役っぷりはエクスの差し金と言っても過言がない。
こんな大切なことを忘れるなんて・・・いや、忘れたかったのだ。
忘れたままでいたかった。
だって、私の最愛がそんな危険人物なんて、何の冗談だろうか?
ゲームを買ったとき、私が攻略したかったのは、パッケージに描かれた緑の髪と金の瞳の青年、エクスだった。しかし、彼の姿は影も形もなくて、何度も何度もバッドエンドを見て、彼を攻略できないことを知った。
それで、私は他の攻略対象者を攻略し、やっと彼の顔を見ることができた。
話を進めるたびに惹かれていき、気になるが好きに変わって・・・知った。この世界で一番の危険人物であるということを。それでも好きは変わらない。
1週目の時、ミデンに転生したと知った時、私は2つの意味で絶望した。一つは、死ぬ運命にある悪役令嬢であること。2つ目は、エクスの実の妹であること。
どうあがいても、好きでも好意を持たれても、彼とは結ばれないのだ。
だから、エクスを男性ではなく兄と見ることにした。そうすればいつか、兄として好きでいられるかと思ったのに・・・
「まぁ、ちょうどよかったんじゃない?」
「何の話ですか?」
頭がエクスで埋まっていると、目の間に放置していた生徒会長が意地の悪い笑みを浮かべて、いつも隠れている金の瞳が私をとらえる。
「自分勝手な月姫は、帰れないでしょ?なら、お兄さんが帰れる状況じゃなくてよかったよね、って話。」
「・・・・・・」
ぐさりと、胸を貫かれたような痛み。そうだ・・・そうだ。
私は、帰る資格なんてない。あの優しい世界に帰る資格なんてない。
みんな守ろうとしてくれるけど、みんな私を守れなかった・・・でも、だからと言ってその思いが消えるわけではない。
エン、デュオ、テッセラ、兄、トゥリア・・・私が死んだあの日、みんな私を救いたいと思い、しかし救えなかった。でもそれはみんなが無力だったから?
本当は気づいている。
みんなが私を救えなかったのは、私のせいだって。
これは、ヒロインと攻略対象者の幸せのために殺される運命を定められた悪役令嬢が、復習をする物語。乙女ゲームからデスゲームへ。最後は殺戮ゲームとする物語。
って、ごまかしているだけなんだ。
だって、私は何にも話していなかった。あの日馬車に乗れば死ぬことを、誰にも話していなかった。わかっていれば、みんなきっと助けてくれた。
悪いのは、みんなじゃない。何も言わなかった、私だ。
みんながあの場で私を力づくでも助けなかったのは、追放と聞いていたからだ。あの場でなくて助けられるから、その場は口で擁護するしかしなかった。
でも、死ぬと分かっていれば、力づくでも助けてくれただろう。
死んだから被害者ぶっているが、あの日の被害者は私じゃない。私は話さなかったからの自業自得で、被害者はみんな。
助けられたのに、助けなかったせいで取り返しのつかないことになった。優しいみんなに心の傷を与えてしまった・・・
最低だ。心の傷を与えて、ごまかすために恨んで殺して・・・エクスが帰れないことを喜んでいる。
ひどい、最低。そう罵ることで、罪から、自分の醜さから逃れようとする。あぁ、ミデン・プロートン、私は本当にミデン・プロートンだ。
悪役令嬢という役割は、私の本質にぴったりとはまっていた。
「可哀そうな月姫。君にはもう、この世界にしか居場所がないんだよ。」
「・・・可哀そうなのは、エクスだよ。」
「君がそう思うのなら、そうなのだろうね。・・・さぁ、クライマックスだよ。君が選んだ結末を、大切な人に披露する舞台が整った。」
パチンと生徒会長が指を鳴らせば、吉日がやってきた。
着ているドレスは、私が1週目に着ていた、死んだ日のドレス。
目の前には、私に魔法をかけ続けたエクスがいた。
「ミデン、お待たせ。準備が整ったよ。」
寂しそうに笑うエクスを見て、私は申し訳ないという気持ちでいっぱいになった。だって、私を帰そうとしてやってきたことが無駄になるのだ。
「・・・エクス、ごめんね。私がかけた魔法は、エクスがかけた魔法と一緒に解けちゃったみたい。」
目の前の最愛を、兄と見るためにかけた私の魔法。そして、兄がかけた、私が兄と帰れないのではないかという疑問を隠した魔法。全てが解けた。
だからもう、私は帰るつもりがない。
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