上 下
15 / 32

15 出会い

しおりを挟む


 同じクラスのエン様に挨拶をしてから、自分の席に着いた。そんな私を取り囲むクラスメイトは4人。ゲームでは取り巻きとなっていたが、1週目では仲の良いクラスメイトとして過ごした4人だ。

 ゲームでは影の立ち絵でしかなかった4人にも、もちろん姿かたちはある。



「今日もお美しいミデン様、絵になるようなお2人が並ぶと、今日一日がとても良い日になりますわ。」

 最初に声をかけてきたのは、桃色の髪と瞳を持つエアンヌ。ピンクブロンドの髪などは、小説などで見かけるヒロインの特徴だが、彼女は悪役令嬢の取り巻きだ。可愛らしい顔をしているので、彼女がヒロインでもいいと思うのだが、少しばかり気が強いためか悪役令嬢の取り巻きをしている。



 ちなみに、ヒロインの髪色は赤だ。



「エアンヌ様のおっしゃる通りですわね。できることなら、席替えをしていただきお2人の席が隣同士になれば・・・などと夢見てしまうのです。」

 にこにこと笑みを絶やさない青髪のセリア。その表情が崩れることはほとんどなく、兄並みに表情が読めないと秘かに思っている。

 それにしても、朝からよいしょがひどい。ちょっとエン様に挨拶をしただけでこの言われようなのだ。隣の席などご遠慮願う。



「でも、ミデン様とお話しできなくなってしまうのは嫌ですね。だって、ペンプトン様とミデン様の会話をお邪魔することはできませんし。」

「隣の席になったとしても、ずっと隣の人と話す人なんていないでしょう?もしエン様が隣になったとしても、遠巻きになんてしないでね。寂しいから。」

 私の言葉で嬉しそうにしながらも、また不安そうに「でも」と言い始めたのは、メルパーラ。オレンジの髪という明るい髪色なのだが、性格は反対で何でもマイナスに考えてしまうネガティブな性格だ。



「ミデン様が望むのならば、私達はいつだってミデン様のそばにいます。」

 最後に白い髪のアイモア。おとなしい性格であまり積極に話すほうではないが、別に暗い性格ではない。



 ゲーム開始から1週間。攻略対象者たちとクラスや学年が違うヒロインは、この一週間で兄以外の出会いのイベントを終えるのだが、ここで一つ問題が起きた。



 それは、デュオがいないこと。デュオは目を覚まさず、今も意識不明のままだ。流石にここまで来れば、デュオをゲームに参加させるのは不可能なことに思われて、私の中でデュオの名前は消される。



 それで、なぜデュオがいないと問題なのかという話だが、それは出会いのイベントの一人目がデュオだからだ。

 流れは、ヒロインであるトゥリアは入学初日にハンカチを拾って、そのハンカチの所有者を探すことにした。何人かに話を聞こうとするのだが、なかなか気後れして話しかけられないトゥリアは、何かを探している様子の人を探すことにした。



 そこで、不自然に辺りを見回すデュオと出会う。



「あの、すみません。このハンカチってあなたのですか?」

「ハンカチ?いや、違うが。」

「あ、そうですか。すみません・・・何か探している様子だったので、その、これを探しているのかと思って。」

「あー・・・そのハンカチ、見せてみろよ。」

「え、はい?」

「刺繍がしてあるな・・・あぁ、これはあいつのだ。」

「誰のものかわかったんですか!すごい!あの、どなたなのか教えていただいてもいいですか?」

「別にいいけど・・・うーん、ちょっとここで待ってくれるか?」

「はい、わかりました?」

 もしかして、その人を連れてきてくれるのかな?

 そう思ったが、戻ってきた彼は一人だった。



「待たせたな。」

「いえ。」

「ハンカチの持ち主を呼び出したから、図書室に渡しに行ってもらっていいか?わけあって、俺はついてはいけないから、悪いな。」

「そんなことは!わざわざありがとうございました。えーと・・・私はトゥリア・F・エナトンです。」

「・・・デュオ・F・ペンプトンだ。お前も光魔法の使い手か。」

「はい!・・・ん?ペンプトンって・・・え。」

 ペンプトンはこの王国の名前だ。その名前を名乗るということは相手は王族!?



「た、大変失礼いたしました!その、ペンプトン様!」

「いや・・・その、ペンプトンは2人いるから、デュオでいい。それに、国の名前に様を付けるのも違和感があって言いづらいだろ?」

「はい!実は少しいいにくかったです。デュオ様はお優しいですね、ありがとうございます。では、私はハンカチを返してくるので、失礼します。」

「あぁ。」



 これが、デュオとの出会いイベント。そう、デュオがいなければハンカチの持ち主・・・つまりエン様にたどりつけないのだ。

 別に、乙女ゲームではないのだから、トゥリアが攻略対象者たちと出会っても出会わなくてもどうでもいいのだが、あまりにもゲームから逸脱すると知識が役に立たなくなるだろう。どうしたものか。



 そんなことを考えていると、エン様が私の聞きなれた声の人と話をしているのに気づいた。兄だと思って視線を向ければ、教室の外で2人が話をしているのが見える。

 私に気づいた兄はこちらに笑いかけた後、エン様と別れてこちらに手招きしてきた。



「呼ばれているようなので、少し席を外します。」

「まぁ、あれはエクス様!いってらっしゃいませ、ミデン様。」

 4人に笑顔で見送られて、私は教室の外へと出た。廊下は静かで、どこかへと向かうエン様の足音が響いている。



「お兄様、何かあったのですか?」

「エン様なら、落とし物を取りに行かれた。ミデン、一つ聞きたいのだけど、エン様には毎年刺繍したハンカチを贈っていたよね?」

「はい。先生が婚約者に刺繍したものを贈ると上達が早くなると言っていましたし、エン様も拒まなかったので・・・それが何か?」

「いや・・・それならいいよ。」

「?」

「・・・エン様のハンカチの刺繍が、ずいぶんと個性的だったものだから。」

「え、そんなことはないはずですが・・・」

 ここでいう個性的は、へたくそという意味ではない。変わっているだ。

 刺繍を始めたころ、1週目と違って上手にできた私は、初心者としておかしいと思って、花のツルを多めにやったり、色遣いを変えたりして、上手であることを隠そうとした。でも、それは最初の数年で今は普通に上手な刺繍を施している。

 毎年1枚はハンカチに刺繍をして贈っているので、持ち歩くハンカチは最新のものか古くても2、3年前のものだろう。その頃には普通の刺繍を施していたので、個性的な刺繍ではないはずだ。



「まぁ、たまたまだろうね。たまたまであって欲しい。」

「それは、私もそう思います。いつまでも小さい頃の刺繍が入ったものを持ち歩かれては、私の刺繍の腕が疑われてしまいますからね。」

 婚約者がいる場合、女性が刺繍したハンカチを贈り、男性がそれを持ち歩くのは普通のことだ。なので、もしもそのハンカチの刺繍が個性的なのなら、エン様の婚約者である私の刺繍の腕は個性的な腕前ということになってしまう。



 恥ずかしいのでやめて欲しい、本当に。



 エン様がなぜ昔のハンカチを持っているのかはわからないが、エン様のハンカチが話題に出たということは、エン様が向かった先にはトゥリアがいるのだろう。



 おそらく、何かを探していた兄に、トゥリアが声をかけて・・・といったところだろう。

 デュオの場合は、ゲームではエン様との仲が良くなかったため、テッセラにエン様への呼び出しをお願いしているが、兄や1週目のデュオはエン様との仲が良好なため、自分でエン様を呼びに来たということだ。



 ゲームなら、デュオ、エン様、テッセラ、ミデンと出会いのイベントが続く。今回は兄、エン様で終わるだろう。1週目では、デュオ、エン様で終わっていた。その後に、私がトゥリアに近づいて、テッセラも紹介したのだが、今回その気はない。



 そろそろあのイベントだ。三大イベントの一つ「交友会」が間近に迫っていた。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

悪役令嬢は所詮悪役令嬢

白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」 魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。 リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。 愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。 悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

イジメられっ子は悪役令嬢( ; ; )イジメっ子はヒロイン∑(゚Д゚)じゃあ仕方がないっ!性格が悪くても(⌒▽⌒)

音無砂月
ファンタジー
公爵令嬢として生まれたレイラ・カーティスには前世の記憶がある。 それは自分がとある人物を中心にイジメられていた暗黒時代。 加えて生まれ変わった世界は従妹が好きだった乙女ゲームと同じ世界。 しかも自分は悪役令嬢で前世で私をイジメていた女はヒロインとして生まれ変わっていた。 そりゃないよ、神様。・°°・(>_<)・°°・。 *内容の中に顔文字や絵文字が入っているので苦手な方はご遠慮ください。 尚、その件に関する苦情は一切受け付けませんので予めご了承ください。

エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸
ファンタジー
 普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。  海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。  その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。  もう一度もらった命。  啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。  前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています

虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい

みおな
恋愛
 何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。  死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。  死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。  三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。  四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。  さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。  こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。  こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。  私の怒りに、神様は言いました。 次こそは誰にも虐げられない未来を、とー

転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?

らる鳥
ファンタジー
 病院の一室で死を待つばかりだった僕は、ある日悪魔に出会った。  どうしても死にたくなかった僕に、存在する事に飽いていた彼は、ある提案を持ち掛ける。  本編は完結済みです。  オマケをポツポツ足して行く予定。  オマケの章より下は蛇足ですので、其れでも構わない方のみ読み進めて下さい。  更新は不定期です。  この作品は小説家になろう様にも投稿します。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

処理中です...