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45 ギフトとアレス
しおりを挟む「とりあえず、僕の部屋に行きましょう。あなたのことは絶対に守りますが、なるべく人目に付くのは避けたいのです。」
「わかった。そういえば、アレスはどこにいるの?この船にいるって言ってたけど。」
「いますよ。ただ、今は眠っています。この船が楽園島に着くころには目覚めるはずです。」
そう言って、彼は私の背中を押した。部屋に向かいながら話し続ける。
「え、寝てるの?だったら、あれは冗談だったのかな?私を殺すって言ってたけど・・・」
「そうですか。なら、眠っているうちに処分しておきましょう。」
「え?」
彼はさらっと、アレスを処分すると言った。まさか、本気ではないよね?
「冗談ですよ。一応あれとも長い付き合いで、それなりに情が移っています。そんな簡単に処分は出来ません。・・・まぁ、実際は一年程度の付き合いでしょうが、細かいことはいいでしょう。」
「どういうこと?」
「・・・あなたは、前のあなたの記憶があるのですよね?他のあなたの記憶はありませんか?」
「あるよ。どれくらい前かとかはわからないけど、何人かの私の記憶がある。」
「やはり・・・僕にはまったくそういう記憶はないのですが、おそらく僕はあなたと同じような存在だと思います。」
彼の言葉の意味が理解できず、首を傾げた。私と同じとは?彼も、前の彼がいたりするのだろうか?
ガチャ。
そのとき唐突に、前にある扉から音が聞こえて、その扉が開く。私は、そちらの方を警戒した。
「そんな、馬鹿な。」
ぼそりと彼が後ろで呟いた。
部屋から出てきたのは、黒髪赤目の青年、アレスだった。眠っていたのではないかと驚いて見つめていると、目が合う。
アレスは、にやりと笑ったが、その顔はどこか寂しそうだ。
「ゲームセット・・・だな」
「え?」
驚き立ち尽くす私の前に、彼の背中が現れた。アレスから私をかばうように立つ彼によって、アレスの顔が見えなくなる。
「随分早いお目覚めで。僕の邪魔をするなら、永遠の眠りをお届けしますが、いかがなさいますか?」
「言っただろ?ゲームセット・・・もう、その女を殺すっていうゲームは終わったんだよ。お前と敵対してまで殺したいとは思わねーし。わかったら、どけよ。顔が見えねーだろ。」
「見なくて結構。どうぞ、お部屋にお戻りを。」
「お前らも入れよ。どうせギフトの部屋に行くつもりだったんだろ?」
彼の肩に手を置き、こちらに顔を見せたアレスは、にやりと笑う。
「男の部屋で2人きりとか、いたずらしてくださいって、言ってるもんだぜ?そうじゃないんなら、俺の部屋に来な。」
「いたずら?」
「そうだ。このむっつりに、腰とか胸とか足とか撫でまわされたくなかったら」
「誰がむっつりですか、おかしなことを吹き込まないでください。」
彼がアレスの手をどけて、またアレスと私の間に立って壁になった。
「ま、いいから入れよ。こんなこと今までなかったんだ。お前たちがどんな選択をするにせよ、その時に立ち会えるなんて、結構嬉しいと思ってんだぜ?」
「・・・まぁ、いいでしょう。どうぞ、こちらへ。むさくるしいところですが。」
彼は自然に私をエスコートするが、そんな彼にアレスはツッコむ。
「むさくるしいって、ここ俺の部屋・・・」
アレスの部屋に来たのは、二日ぶりだろうか?懐かしく感じた。渡された缶コーヒーもなつかしい。受け取った缶コーヒーを開けようとしたら、彼に止められた。
「すみません、飲むのならこちらをどうぞ。」
渡されたのはペットボトルの紅茶だった。
「ありがとう・・・でも、なんで?」
「あぁ、それは・・・」
言い淀む彼に、アレスが反応する。
「おい、まさか・・・それにも盛っていたのか?」
「まぁ、その通りです。」
「何がその通りです、だよ。もったいねーだろうが!まさか、ここにある缶全部じゃねーよな!?」
「その通りです。」
「・・・」
なぜか怒るアレスに、淡々と答える彼。
「えーと、何の話?」
「お気になさらず。それより、どうぞお飲みください。喉が渇いたでしょう?」
微笑む彼に、さらに怒鳴るアレス。喉が渇いていた私は、彼の言ったとおりに紅茶を飲むことにした。ほのかな甘みに安堵する。
「ギフト。あのな、毎回毎回俺に盛ってるんじゃねーよ!人体に影響が出たらどうするつもりだ?」
「毎回・・・ですか。それで・・・起きるのが早かったのですね。」
「あぁ?」
「どうやら、人体に影響が出ているようです。良かったですね。」
「よくねーよ!」
「2人も仲がいいんだね。」
「「よく」」
「ありません!」「ねーよ!」
見事にそろった声に、私は笑ってしまった。息がぴったりで、仲の良さが現れている。
「それで。」
一通り笑った後、真剣な声でアレスは聞く。
「どうすんだよ、お前らは。」
「どうするも何も・・・楽園島に戻ります。」
彼の言葉に私もうなずいて答えた。
そんな私たちに、アレスはため息をついた。あきれた様子に、何がいけなかったのかと首をかしげて聞くと、のんきだと、再度ため息をつかれる。
「それが許されると思っているのか?」
「許されないの?」
「問題はないはずですが?」
「馬鹿か・・・2人も馬鹿だったのか。」
額に手を当てて、長い溜息をつかれた。そんなアレスの態度に、彼の顔に青筋が浮かんだ気がした。
「死ぬか、逃げるかだ。」
指を二本たてて、アレスは選択を迫った。
「お前たちに与えられた選択肢は、この2つだけだ。楽園に戻るだと?そんなの、処分されるのが関の山だぜ。」
「処分ですか。」
「そうだ。だいたい、ギフト。お前はその女を俺が連れてきたことに対して怒っていたが、感謝されることはあっても、怒られるようなことはしてねーぞ。」
「どういうこと?」
わからないことだらけだ。繰り返しをしないためには、楽園に戻るという選択肢が良いと思えるが、アレスはそれでは処分されるだけだという。そして、私をこの島に連れてきたのには、それなりの理由があるようだ。
「まずは、なぜ島に連れてきたかだが、それが決定事項だからだ。その女は、ギフトと出会い、楽園島で過ごし、船に乗るギフトを見て、自らも船に乗る。それは変えちゃなんねーだよ。それを変えると、お前たちは不要と判断され、処分される。」
「なんで、そんな処分されなきゃならないの?」
「そういう決まりなんだよ。そして、この島に来て、楽園島に帰ることが許されるのはギフト、お前だけだ。」
「・・・いったい、どういうことですか?私たちに永遠を与える存在の目的は?僕は帰れて、なぜ彼女は帰れないのですか?」
「それで、終わるからだよ。」
「終わる?」
「そうだ。」
「あの、ちょっといい?永遠を与えるっていうのは、私たちが繰り返していることを指すんだよね?」
「はい。あぁ、どのように繰り返しているのかは、詳しいことはわかりませよ。ただ、前のあなたと今のあなたは別人です。死者をよみがえらせることは出来ないので、これだけは、はっきり言えます。」
「そう、別人なんだね、やっぱり。」
「はい。」
「ギフト、詳しいことは俺の口からは言えねーが・・・これだけは言っておく。この繰り返しを終わらせるキーは、ギフトだ。」
「つまりは、僕に何かをして欲しい誰かが、この繰り返しをしているということですね。彼女は、それに巻き込まれていると。」
「そういうことだ。だが、お前にはもう無理だろうな。その何かをすることは出来ないと思うぜ。それで聞くが、お前たちは死にたいか?」
全力で首を振る。ここで曖昧な返答をすれば、アレスは嬉々として銃口を向けてくる気がしたのだ。
「くくっ、そんなに警戒するなよ。なら、お前たちがとるべき選択は一つだ。」
その時、部屋にノックの音が響き渡った。
「誰だ?」
「僕です、アレスさん。上からの通達が来まして・・・入ってもよろしいでしょうか?」
アレスをさん付けすることから、今回船に乗る前に話していた男だとわかったアレスは立ち上がり、扉の前に立つ。
彼は私を背後にかばうようにしながら、部屋の奥の壁際に立った。
「今開ける。」
そう言って、扉を開けるアレス。
「で、なんだ?」
「はい。あぁ、やはりギフトさんもいますね。ちょうどよかった。」
「僕にも何か?」
「あなたに関係することなので。アレスさん、ギフトさんとその後ろの女性ですが。」
私のことを言われて、思わずびくりとした。彼が後ろ手で私の手を握る。
「処分が決まりました。速やかに処理してください。」
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