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35 セカンドギフト

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 金髪青目。王子様のようだと称えられる僕の周りには、いつも人がいた。勉強・運動・コミュニケーション能力。どれをとっても素晴らしい僕に、人が群がるのは当然のこと。

 でも、僕の秘密を周りは誰も知らない。

 その秘密が公になったのは、小学校の高学年の時、母が死んだときのことだ。死んだと言っても殺されたのだが。

 毒殺された母だが、病死とされ、必要最低限の葬儀が執り行われた。

 川の近くにある、薄汚れたボロ小屋。そこが僕らの家で、もちろんそこで行われる葬儀。クラスメイトの代表として、2人が葬儀に参加した。

「お前、貧乏だったんだな。」
 今まで向けられたことない、見下した目。僕は下を向いた。

「嘘つき!王子なんて嘘じゃないっ!」
 怒りをぶつけられて、僕は下を向いたまま笑った。

 あぁ、お前たちも僕の顔しか見ていなかったんだな。



 そこから始まったいじめを、当然のことのように受け入れる。誰も期待していなかった。しょせん、クラスメイトなんてこんなものだろうと。

 貧乏だとか、詐欺師だとか。

 言われても悲しくはなかった。ただ、許すつもりもない。



 学校が終わり帰宅すると、すぐに本を片手に外へ出た。家の近くにある草むらに行き、花や草を眺める。
 ここら辺では見かけない花に草。それが何かなんて、調べる者はいないだろう。いたら大変だ。
 僕は手に持っていた本を開いた。もう、その本の内容は暗記していたが、念のため本を見比べながら、花や草を採集していく。

「十分な量だね。」
 笑って、立ち上がる。まだやることはたくさんある。家に戻ろう。

 家に戻った僕は、すり鉢やコップなんかを並べた。まだ外は明るいが、家の中は暗い。ランプに火をつけて、机に置く。
 数日前に採集して乾燥させた草を、すり鉢に入れてすりつぶす。

 ごりごりごり。

 無表情に、無感動に。ただ、すべきことをするだけ。

 ごりごりごり。

 あの口もあの目もあの手も、許さない。誰一人として逃がすつもりはない。僕の顔だけを見た罪は重い。貧乏と知って、手のひらを反すような態度をした者たちは、全員僕の顔しか見ていなかったということだ。この現状を傍観する奴らも、同罪だ。

 ごりごりごり。

 苦しんで、絶望して、終われ。
 そうやって呪うように草をすりつぶす僕の耳に、声が届く。

「ねぇ、いる?」
「!」
 無邪気な声。彼女が来たことがわかり、僕の胸が高鳴る。

「いないの?」
「いるよっ!」
 手に持っていた棒を机の上に置き、僕は立ち上がって窓に近づいた。

「おかえり、学校はどうだった?」
「ただいま・・・って、ここは私の家じゃないよー。学校はね、サッカーが楽しかったよ!ボールを蹴っても、思うような方向にボールが行ってくれなかったけど、それでも楽しかったよ!」
 そういえば、今日は体育の授業があった。僕の体操服は汚れて使えなかったので、僕は参加できなかったけど・・・

「そう。きっと、何度もやっていれば、思うようにボールが動かせるようになると思うよ。そしたら、もっと楽しいだろうね。」
「なら練習する!」
「頑張って。そうだ、ここで練習しなよ。僕は見ていることしかできないけど、アドバイスくらいしてあげるよ。」

 なんてことはない、普通の会話。それでも、僕にとっては救いだ。

 君だけは許してあげる。君まで終わってしまったら、僕は悲しくなるから。



 数日後

 全ての準備が整い。ついに決行した。それは、成功だった。

 教室に入ると、いくつものうめき声が聞こえ、血のにおいが鼻についた。うずくまり、血を吐き、涙を流し、うめき声をあげるクラスメイト達。

 僕は口元に笑みを浮かべた。

「僕の顔しか見なかった罪だ。母さんと同じように、全員死ね。」


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