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32 トラップ
しおりを挟むカサカサと音をたてて、道なき道を進む。私は、山の中の木と木の間を歩いている。足場は悪いし、急な坂だが、整えられた道にはトラップが仕掛けられている気がして、怖かったのだ。だが、迷う危険もあるので、道を横目に進んでいく。
怖くて震える。殺人鬼に見つかってしまったらとか、トラップに引っかかってしまったらとか考えてしまう。そして、慎重になりすぎていらない気まで使い、それが余計な疲れを生む。
早く彼に会いたい。
それは、純粋に助かりたいからでもある。彼と会えれば、この状況から抜け出せる。そもそも、私はなぜこんなところに来てしまったのか。後悔がにじみ出る。
最初は、彼が楽園に行ってしまうと思い、追いかけたくなった。彼と離れたくなかったのだ。でも、アレスの話を聞く限り、彼も楽園島の関係者だろう。船に乗ったのは、本当の楽園に行くためではなかった。
―僕が帰るまでここにいてください。あなたがどこかへ行ってしまう気がして、心配です。だから、鍵をかけました。内側からは開きません。
「監禁されたときは、恐ろしかったけど・・・あなたが正解だったね。」
彼の置手紙を思い出し、私はさらに後悔した。なぜ、彼を信じてあげなかったのか。今まで彼が間違っていることなんてなかったのに。彼は優しくて、信じるに値する人なのに。
私、馬鹿だ。あの地下で、彼を待っていればよかった。
「きゃっ!?」
考え事をしていたせいで足元がおろそかになっていた。木の根に足を引っかけて転ぶ。
痛い。
体が熱くなる。目の端に涙も浮かんだ。
「ほんと、何やってんだろう・・・」
一人で勘違いして、命の危険がある場所まで来てしまった。自分で楽園島を出たのに、その楽園島に戻るために彼のもとへ行く。滑稽だ。
でも、そんなことは言ってられない。
ここに来てしまったのなら、ここを出るしかないのだ。それに、何も収穫がなかったわけではない。
アレスに聞いた楽園のことや、もらった写真のことを思い出す。全部、彼に会って確認したいと思う。私は、無関心すぎた。
いや、聞くのが怖かったのだ。
楽園のおかしなところはいくつかあった。そして、私のおかしなことも。すべて目をそらしていたのは、私だ。
落ち込む私の耳に、ジャリっと土を踏む音が聞こえた。慌てて顔をあげてしまったと思う。うつ伏せだったので、ここは動かない方が死体らしくて良かっただろう。だが、今回その必要はなかった。
舗装された道を歩く一人の男。服はあっちこっち泥だらけで、破れていたりもしていた。顔も青白く、人のことは言えないが、何があったのだろうかと思える表情だ。
おそらく、あれは殺人鬼ではない。私と同じ境遇の人だろう。
助けを求める?一緒に生き残る?
そんな考えがよぎった。でも、私は動かず首を横に振った。
2人より1人。見知らぬ赤の他人よりも、自分を信じるべきだ。確かに男に助けを借りられたらどんなにいいかと思う。夜眠るときは、交代で見張りをたてることもできるし、道を進むときは警戒する範囲を分担すれば負担が減る。
でも、危険はある。2人の方が見つかりやすいだろうし、こちらがおとりに使われたりしたら大変だ。別に重いものを運んだりするわけではない。身軽に先に進むのだ、男の力は必要ない。
私は、そのまま男が通り過ぎるのを待った。
男はのろのろと、たまに後ろを振り返ったりして先に進む。その顔は怯えているようだった。そんな男が急に立ち止まって、足元を見た。私も男の足元に注目した。
パシュっと、変な音がしたかと思うと、男は急に倒れた。
「え・・・」
思わず声を上げた。口を手で覆い、辺りを見回すが誰もいない。
あれは何?何が起きたの?
確かめるべきか。それともそのまま通り過ぎるべきか。考える時間は短かった。私は男を横目に進んだ。
彼はきっと、トラップに引っかかったのだ。おそらく、あの男は足元に張ってあったワイヤーを足で切ってしまった。それによって、罠は発動した。
それがわかったのは、なぜだろうか。
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