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22 外から

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 いない。あいつがいない。

 港。歌姫の歌声が響き渡る。そんなのはどうでもいい。あいつはどこだ?なぜあいつがここにいない?

「あの、どうかいたしましたか?アレスさん・・・」
 アレスと呼ばれた黒髪赤目の男は、舌打ちをする。

「出航までどれぐらいだ?」
「あと1時間くらいですね。楽園島の一大イベントですから、オープニングが長いですよね。」
 俺相手によくこれほど話せると、アレスは感心して隣の男に目を向けた。すると、男はアレスの方を見ておらず、前方を見て口を開いた。

「あ、ギフトさんが来ましたよ。」
 ギフト。金髪蒼目の男だ。いつもより遅い到着のギフトを怪しみ、アレスは声をかける。

「なんだお前、いつもの女はどうした?」
「職場に連れてくるわけがないでしょう。あなたたちも、無駄話などしていないで早く乗りなさい。」
「遅れてきたやつが何を言ってやがる。・・・だいたい、前に職場にいたよな、お前の女。」
「・・・そんなこともありましたね。ですが、2度とそのような失敗は致しませんよ。それでは、僕は先に乗りますから。」
「・・・」
 ギフトの背を見送りながら、アレスは頭が痛くなる思いだった。

 まさかと思うが、あの女をここに来れないようにしたのか?眠り薬でも使ったのかもしれない。

 そんなことをしたらどうなるか、わからないのか。失敗作だと、処分されるぞ。

「あらすじを捻じ曲げるんじゃねぇよ。」
「どうかしましたか?アレスさん。」
「お前、まだいたのか。・・・てか、さん付けとかいらねーよ。これはただのコードネームだ。さん付けなんて初めて聞いたぞ。」
「・・・ですが、僕らより立場が上ですので、呼び捨ても変かと。」
「それなら好きに呼べ。」
 アレスは投げやりに答えると、どうすべきか考えた。

 このままだと、ギフトは処分される可能性が高い。それにあの女も。それはおしいな。とりあえず、あの女を見つけて船に乗せるか。あらすじ通りにな。

 まずは、あの女の家に行くか。

「お前、ギフトの女は知っているか?」
「いいえ。あぁ、顔だけは知っていますよ。」
「そうか。なら、お前はここに立って、港にいるやつらの顔を見ていろ。そして、もしその女がいたら俺に連絡してくれ。」
「・・・わかりました。」
 余計なことは聞かないのだな。急いでいるので好都合だが。

 アレスは、指示を出し終わると走り出した。時間がないからだ。1時間で彼女を見つけ、船に乗せなければならない。

「ま、仕事前の準備運動だな。つっても、今日は仕事はねーけど。」



 彼女の家にたどり着いたアレスは、迷わず寝室まで行くが、そこには誰もいなかった。
「ここじゃないのか。あいつの・・・ギフトの持ち家って結構あったよな。そういえば、今回のあいつは、船に乗る時間が遅かった。なぜだ?」

 あの女と一緒にいたからか?

「・・・ずっと、なるべく多くの時間を共有したいとか言っていたな。なら、港に近い家か。・・・見当はついた。」
 寝室の窓から飛び降りて、綺麗に着地をするとまた走りだした。



 アレスの知る、ギフトの持ち家の中でも一番港に近い家。迷わず入ったアレスだが、片っ端から開けた扉の先に女はいなかった。

「・・・見つけたら眠っているだろうから、とりあえず運べばいいかと思っていたが。まさか隠されているとは思わなかった。」

 アレスは動きを止めて、考えた。すぐに思いつく場所にいないと言うことは、ギフトが女を隠した可能性が高い

 ギフトはなぜ女を隠したか?女を船に乗せたくないだけなら、眠り薬を飲ませればいいだけの話だ。3時間も眠らせておけば、女は船に乗れない。

 女を隠したということは、誰かが女を船に乗せると考えたからか?それは、正解だが。

「あの女を見つけたとして、船に乗せたら・・・殺されるな、俺が。」

「だが、乗せなければ、2人が処分される可能性がある。別にそれでもいいが。」
 珍しく頭を働かせる自分にアレスは苦笑する。

「悩むより、行動だな。」
 アレスは立ち上がる。あることを思い出したアレスは、床を蹴った。

「地下があるとか言っていたな。隠そうとして、余計に目立っているぜ。」
 見つけた扉を開けて、アレスは地下へと降りて行った。


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