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106 一緒に寝よう

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 クリュエル城から魔王城に移動し、仲間と共に宿へと移動した。
 ウォーム王国へ移動するつもりでいたが、それをプティが止めたのだ。帰るのにもいろいろ準備が必要だと言っていた。私もすぐにウォームへ行きたかったわけでもないため、最近泊っている宿に移動した。

 魔王戦で負傷したリテとマルトーだが、エロンの魔法のおかげで、もうすでに傷は癒えていた。それでも疲労が出て宿に着くと同時に部屋にこもってしまった。

 プティも、帰るための準備で忙しいと引きこもってしまい、やることがなかった私たちは、食事に出かけることにした。
 メンバーは、私、アルク、ルト、エロンの4人。あと、いつの間にかオブルがいて、5人で机を囲っていた。

「とりあえず、乾杯といくか?」
 アルクがグラスを持ち上げるのを見て、それぞれ私もグラスを持ち上げた。

「サオリ、頼むぜ。」
「え、何を?」
「何をって・・・何か一言俺たちにくれよ。それで、乾杯って言って、グラスを触れ合わせるんだ。向こうでもあっただろ?」
 向こうとは、私がいた世界の話だろう。確かに乾杯はあったが、友達同士でやることはなかった。

「あぁ・・・アルクやってよ。」
「ここはサオリがやるべきだわ。私たちがまとまっているのは、あなたがいてからこそなのだから。」
「エロン・・・まぁ、このメンバーならいいか。」
 こういうのは緊張するから好きではない。でも、顔を合わせてみれば、みんな仲間でそこまで緊張は・・・やっぱりする。ちょっと汗ばんできたが、一言でいいと自分に言い聞かせ、一番伝えたいことを言った。

「ありがとう。乾杯!」
「簡潔すぎだって。ま、気持ちは伝わった!乾杯!」
「「「乾杯」」」
 笑顔でグラスを触れ合わせる仲間たち。
 本当に、終わった。死ななくて済んだ。それが実感できて、目頭が熱くなった。

「よく、頑張ったな。」
 アルクが手を伸ばして私の頭を優しくなでた。

「サオリ、今日は一緒に寝ましょう?」
 アルクの間にエロンが入り込んで、私の腕に胸を押し付けた。いや、別に押し付けるつもりはないと思うけど、こっちは気になって仕方がない。

「サオリ様!ぼ、僕と一緒に寝ましょう!・・・っ!」
 反対側からルトが私の腕に絡まって、私の顔に頭を向け、私の頬に耳を当てる。ふわふわとした、それでいてちょっと固い耳。くすぐったいし、にやけてしまう。
 一緒に寝たら、触らせてくれるって意味だよね?それなら・・・

「だ、駄目だ!ルト、お前は自重しろ!」
「俺は、いつでもお前のそばにいる。任務だからな。もっとそばで守ってやってもいいぞ?」
 なぜか、唐突にオブルがそんなことを言って、私の首筋をなでた。くすぐったい。

「お前が危険だ!こうなったら、俺も一緒に・・・」
「いや、駄目だって、アルク。」
「なんで俺の時は、速攻断るんだよ!」
「面白いから。ふふっ!」
 いいな、こういうの。ずっと、こんな優しい世界を望んでいた。
 私が笑えば、みんなも笑う。笑われたアルクすら、複雑そうな顔をした後、優しく笑うのだ。温かい気持ちで満たされる。

 ずっと、続いて欲しい。
 狂気なんて、いらないから。この暖かい世界が欲しい。



 そう、狂ったドMとか、私には必要ないのだ。
 冷たいまなざしを降り注げば、私の足元で跪いていたゼールは息を荒くした。だから、そういうのはいらないと言っている。

 ゼールの屋敷に仕方なく、義務的に来てみればゼールがいつも通り歓迎してくれた。食事会のほっこり気分もどこかへ行ってしまった。

「今日もお一人なんですね!少しは、私の信用も回復したということでしょうか?」
「魔王と戦った後だから、みんなには休んでもらおうと思っただけ。私も、もう帰るよ。顔は見せたし、いいでしょ?」
「駄目です!サオリさん、今日は私と一緒に語り合いましょう、朝まで。はぁはぁ。」
「・・・気持ち悪い。」
 なぜかわからないが、一緒に寝ようというのは、ブームなのだろうか?仲間たちにも言われたが、その時はうれしさと恥ずかしさがあるだけだった。でも、ゼールに言われると気持ち悪さしかない。

「ありがとうございます!」
「ご褒美になってしまった・・・」
 ため息をついて、ソファに腰を掛けて頭を抱えた。
 ゼールには感謝をしているし、別に嫌いではない。ただ、ちょっと生理的に受け付けないというか、私まで変な道に引きずり込まれそうで怖いというか、気持ち悪いのだ。
 うん、気持ち悪い。それでいいか。

 ゼールに対しての気持ちを整理した私に、ゼールはソファの後ろから抱き着いてきた。って、何を!?

「ぜ、ゼール!?」
「もう、会えないかと思いました・・・よかった。」
「・・・ごめん。」
 心配してくれたのだ。それが分かって、2重の意味で謝った。心配させて、気持ち悪いとか思ってごめん。

 それから、しばらくゼールに抱きしめられているうちに、うつらうつらとしてきて、私も疲れていたのだと気づいた。

「眠ってください。何もしませんから。」
「・・・信用・・・できない。」
「なら、何かさせていただきましょう。期待には応えないと。」
「いらない・・・」
 危ないなと思って、私は移動魔法使い、宿の自分の部屋のベッドの上に移動した。

 温かい・・・もう、だめ。

 そこで、私の意識が途切れた。次に目を覚ました時、聞こえてきたのは悲鳴だった。



「サオリ様!この、クソ野郎が!こんなとこまで付いてきたか!」
「ん・・・ルト?」
「ふふっ、なんのことやら。私はただ、サオリさんにお持ち帰りされただけですよ。」
 暖かい何かを抱きしめていた私だったが、そこから聞こえた声に寝ぼけた思考が吹き飛んだ。

「な、なっ!なんで、ゼール!?」
「おはようございます、サオリさん。」
 暖かい何かはゼールで、私のベッドの上でゼールは起き上がった。上はシャツ一枚で、いつもしっかりとした服装をしている彼にしては珍しい格好だ。

「サオリ!何があった!」
「サオリさん!」
 扉の前で固まるルトをよけて、アルクとリテが血相を変えて部屋に入り、ルトと同じように固まった。



 どうやら、昨日の夜にゼールと一緒に移動してしまった私は、それに気づかず眠ってしまったようだ。ゼールはとりあえず上着を脱いで、添い寝をしていたそうだ。するなっ!

 ゼールを移動魔法で送り返し、とりあえずみんなに謝った。騒ぎになったからね。

「痛いところはないか、サオリ?」
「サオリ様、気持ち悪いとかは?あんなおぞましいものと床を共にしたのです、さぞ不快だったでしょう。」
「体に違和感はありませんか?あれば・・・あの商人を剣の錆に致しましょう。」
「サオリは、ゼールさんがタイプなの?それなら応援するけど・・・そうじゃないなら、今日から一緒に寝ましょうね?忍び込んだお馬鹿さんのものは、みんなちょん切ってあげますから。」
「安心しろ、何もなかった。ずっと見ていたからな。」
「「「なら、追い出せ!」」」
「無能な護衛ですね。」
 オブルの一言で、非難がオブルに向かった。
 それにしても、ゼールは皆に嫌われているようだ。少しだけ同情した。



 ちょっとした騒動はあったが、穏やかな日々を過ごした私たちは、魔王を倒した後三日お世話になった町を出発した。

 これからまっすぐウォームの王都を目指すことになった。
 移動魔法を使えば一瞬だが、なぜかそれはプティが許さず、行きと同じで馬車の旅をすることになる。
 このメンバーで旅をするのも、これで最後だろう。

 プティは王女で、王女が旅に出ることはめったにないし、あったとしてもこのメンバーだけで行くということはない。王女らしく、多くの騎士と侍女を連れての旅だろう。

 他のメンバーは案外一緒に旅ができそうだ。マルトーは依頼すればいいだろうし、他の人は声をかければ一緒に来てくれそうな気がする。
 実際聞いてみると、もちろん付いて行くと、食い気味に答えられた。置いていかないで欲しいと懇願され、なぜそんなことを思うのか不思議だったが、思えば一人で行動したり、ゼールを伴って行動することが多かった。つまり、仲間を置いていろいろやっていたのだ。置いて行かれると思うのは仕方がない。

 穏やかに旅を続け、私は完全に忘れていた。いや、見ないようにしていたのだ。

 自分の問題は解決していない。狂気は胸に宿ったままだ。
 そのことを思い出すのは、もうすぐクリュエル王国を出るというときだった。


「あれ、プティは?」
 最初に気づいたのは私だった。
 休憩のために馬車を止めて、それぞれ自由に過ごしていたのだが、いつも本を読んだりして、みんなの視界に映る場所にいるプティが見当たらなかった。

「トイ・・・花摘みじゃねーか?」
「おかしいですね。いつもプティさんは誰かしら声をかけてから行きますが・・・誰か聞いていますか?」
 エロンの問いに、みんな首を横に振った。
 離れたところで剣を振っていたリテとマルトーにも聞いたが、知らないという。

「嫌な予感がするな、とりあえず手分けして探すぞ!」
 2人一組になって、周囲を探し回った。すると、草の陰にプティの杖が落ちているのを発見した。プティが杖を落としてそのままのわけがない。それに、ここまで探してプティが見つからないということは、そういうことだ。

 プティは、何者かに連れ去らわれた。


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