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68 俺の能力

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 死神が見えた気がした。

「サオリ様!」
 俺の前で倒れたサオリを、ルトが駆け寄って抱き起した。

「死ぬかと思った・・・」
 たった数秒前、俺の心臓にめがけて剣が突き刺さろうとしていた。いや、剣は鞘に収まっているから、そんなことはないだろうが。
 ルトが声をかけるサオリに意識は無いようで、サオリは目をつぶったまま動かない。

 鑑定

 俺の目に、サオリの名前や肩書、使用魔法が映りこむ。
 先ほどと変わりがないか確かめると、記憶封印レベルが下がっていた。少し思い出したのだろう。レベルが上がっていなくてよかったと、胸をなでおろして俺はサオリを抱きかかえた。

「サオリ様・・・」
「気を失っているだけだ。馬車に寝かせよう。どうせもうすぐ出発だしな。」
「・・・また、記憶を失っていたら・・・」
 それはないだろう。サオリが記憶を失うと、記憶封印レベルが上がっていた。下がったということは、逆に思い出したのだろうと思うが、このことは話せない。

「きっと大丈夫だ。それよりも、サオリに剣を持たせるのは危険だと分かったな。これまで以上にサオリに気を配って、サオリが剣を取ることがないようにしよう。」
「・・・そうですね。僕、先に馬車に行って、準備をしてきます。どうか、サオリ様をよろしくお願いします。」
「わかった。」
 走り去っていくルトを見送って、俺もゆっくり歩きだした。

 それにしても、どれくらい思い出したのだろうか?
 最初に出会ったとき、記憶封印レベルは700台で、その後600台になった。今回は、792レベルになって、今は789レベルだ。うん、さっぱりわかんねーな。
 わかるのは、クリュエル城の時より覚えていないだろうってことだ。つまり、俺たちの出会いは完全に封印されたままだ。

 ちなみに、この記憶封印レベルは、記憶喪失者という肩書をさらに鑑定すると出てくる。こうやって、鑑定を重ねて使うことで、この能力は真価を発揮する。たった一回使っただけでは、名前、肩書、使用魔法しかわからない。それでもわからないよりはいいと思うだろうが、使用魔法はともかく、肩書などは取得条件になぞが多く、誤認しやすい。

 たとえば、盗賊。これは、本物の盗賊が持つことが多いが、別に一般人が持っていないというわけではない。しかも、盗賊の中には持っていない者もいる。
 盗賊の仲間と同じように、人を襲って物や命を奪っても盗賊の肩書がつかない者もいる。そういう者は、肩書がない者が多く、そのような体質なのかもしれない。
 一般人の場合は、逆に肩書を取りやすい体質で、ちょっとしたことで肩書を取得するのだろう。こういう人は、3つくらい肩書を持っていたりする。

 このように、肩書の名称だけでは、その人について知ることはできないし、詳細を調べなければ、その肩書がどのように効果を発揮するのかはわからない。

 ちなみに、俺の鑑定は名前、肩書、使用魔法が分かるが、別の鑑定持ちが同じだとは限らない。これの他に種族が見える者もいる。

 それが、召喚されたわけではなく、どこからともなく現れた勇者の鑑定能力で、以前はこの世界唯一といわれた能力だ。

 鑑定能力は、人だけでなく物にも使用することができ、この世界にない異世界の能力。

 人の能力を見ることは、マジックアイテムや能力でできるが、それでできるのはメイン能力を見たり、いくつかの能力を見る程度。鑑定のように、名前や肩書を同時に見ることはできないし、対象を人と物の両方できるものはいない。確認されていないだけかもしれないが。

 だから、俺はこの能力を隠し、勘が鋭いと言い訳をしていた。
 面倒ごとはごめんだからな。

 そういいつつ、俺は勇者討伐隊なんて面倒ごとに足を突っ込んでしまったが後悔はしていない。


 馬車が見えて、俺たちの方へリテとエロンが駆け寄ってきた。ルトも馬車から顔を出して、こちらの様子をうかがっている。

「アルク、サオリさんは?」
「気絶しているだけだ。」
「一応、私が魔法で癒します。」
「いいえ、僕がやりましょう。エロンさんは何かあった時のために、魔力を温存していてください。」
「申し訳ありませんが、これだけは譲れません。」
「僕も譲れませんね。本当に癒すだけという保証もありませんし。」
 険悪な空気になる2人に、俺はいらだった声を出した。

「どっちも邪魔だ。邪魔をするならどっかに行け。」
 俺は2人を避けて、馬車へと向かう。

「待ってください!今回のことはアルクの責任でしょう!」
「だから何だ?」
「僕が介抱します。あなたは別の場所で、頭を冷やしてきてください。」
「リテさん、何を・・・」
 睨むリテに、困惑するエロン。俺は、怒鳴りたい気持ちを抑えて、無言で馬車の中に入り、ルトに任せて馬車を出た。

「リテ、お前おかしいぞ?」
「おかしいのはあなたです。サオリさんに剣を持たせるなんて・・・あんなに戦っているのを嫌がっていたんです、あんな目にあったんです。なぜ、そのような鬼の所業をできるのですか?」
「サオリが望んだからだ。」
「サオリさんが望むわけないでしょう。なぜわからないのですか。戦えない自分を悪く思って、無理をしているんですよ。」
 痛ましそうに顔を伏せたかと思ったら、次の瞬間には俺を睨みつけるリテを俺も睨み返した。

「もう、こんなことはしないでください。」
「・・・それは、サオリが決めることだ。俺やお前が決めることじゃない。」
 話は終わりだと、俺は馬車の中へと戻り、ルトと共にサオリを介抱した。


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