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67 アルクの能力

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 町を出て、馬車でクリュエル城を目指す。
 今日は野宿の予定ということで、若干緊張していた。初めての野宿。少しだけ楽しみだが、怖さもある。ちゃんと寝られるか心配だ。

 御者は、アルクが務めて、ルトも御者台にいる。
 馬車の中では、プティの隣に座らせてもらって、黙り込むみんなを見かねたマルトーが提供する話題を聞いていた。

「おらには、女にだらしない相棒がいてな。そいつのせいで、依頼主に契約を切られることが多くて、本当に参った。中でも、ズルストーの貴族から受けた依頼の時は大変だった。」
「ズルストー?」
「東方の国ね。あっちは、魔物の被害が少なくて、盗賊の被害のほうが多いくらいなのよ。」
「その通りだ。受けた依頼は護衛依頼でな。貴族の娘を嫁ぎ先まで護衛する任務だったんだが・・・相棒がその娘に手を出してな。」
 貴族の娘が出てきた時点で、その流れは予想できた。女にだらしないと最初に言っていたしね。

「珍しく相棒も本気になっちまって、2人で駆け落ちするとか言い出してな。俺は好きにしろと言って、財布を投げつけてあいつらと別れた。まったくとんでもないことをしてくれたもんだ。おかげで俺は、ズルストーを出て、危険なウォームに来る羽目になった。」
「安全なズルストーから来て、ここで一旗揚げるなんてたいしたものね。」
「まぁな。でも、上には上がいる・・・この旅でそれを思い知ったからな。おらも命は惜しい・・・旅が終わればズルストーに戻るつもりだ。」
「・・・そう。」
 ちょうど話が終わった時、馬車が止まった。

「そろそろ休憩にしよう。」
「わかったわ。いい頃合いだし、ここで昼食もとりましょうか。」

 簡単な昼食をとった後、私はアルクに剣を見てもらうと言ったルトについていくことにした。

「お、来たなルト。早速始めるか。」
「はい。サオリ様、あちらに木陰があるので、そちらで涼んではいかがですか?」
「・・・私は、剣を使わないの?」
「「え?」」
 驚かれたということは、私は剣を使わないらしい。なら、何で戦うのだろうか?

「・・・サオリ様は、戦いません。」
「・・・え?」
 アルクの方をうかがいながら、ルトが話しにくそうに言った。

「サオリは戦うのが嫌だと言っていた。戦ったこともないし、その力もないってな。だが、今のサオリが剣を取るというのなら、俺が教える。ただし、条件がある。」
「条件?」
「あぁ。俺とルト以外の仲間がいるところでは、剣を使うな。」
「え、それってどういうこと?」
「まさか、アルクさん・・・」
「・・・サオリ、持ってみろ。」
 驚いた様子で見るルトに構わず、アルクは私に剣を差し出した。私はそれを手に取る。

 重いとか、どう扱えばいいのかとか・・・そう思うと思っていた。でも、実際はどう扱えばいいのか体が知っている感じがして、すぐに扱えそうだと感じた。

「構えてみろ。」
 アルクの言葉に頷いて、自然な動作で私は剣を構えた。

「・・・もういいぞ。サオリ、それがお前の能力の一つだ。」
「私の能力?」
「アルクさん、どうしてそれを・・・」
「ルト、お前は素振りをしていろ。気になるなら、このまま黙って話を聞いていてくれ。」
「・・・わかりました。」
 黙り込んだルトを見て、アルクはこちらに顔を向けた。

「サオリには、移動魔法と戦闘能力、自動治癒という能力が与えられているようだ。移動魔法以外の能力について、仲間で知っているのは俺とルトくらいだと思う。サオリは隠していたからな。」
「・・・それは、戦いたくなかったから?」
「それはわからないが、信用していなかったのだと、俺は思っている。」
「でも、仲間なのに・・・なんで、私は仲間を信用できなかったの?」
 魔王を倒すという目的を同じにする仲間。それが信用できなくて、何を信用していたのだろう?

「サオリは・・・この世界で辛い目にあったんだ。そのせいで、人を信用できなくなって、一人で抱え込むようになったんだろうな。俺がサオリと出会ったとき、その時もサオリは一部記憶を失くしていた。それだけ辛かったんだろう。」
「その辛い目って・・・何があったの?」
「聞かない方がいい。どうせすぐ思い出すだろうからな。」
 そうは言われても、気になる。

「とにかく、能力のことは俺とルト以外には話すな。記憶が戻ってからサオリが困るだろうから。人を信用できないという理由だけじゃなく、それが魔王を倒すことに必要だった可能性もある。」
「自分の能力を隠すことが、魔王を倒すために必要なことなの?魔王側には隠す必要があると思うけど、仲間にまで隠す必要あるのかな・・・あ。」
 もしかして、仲間の中に魔王の手先がいる?

「俺にはわからない。俺も信用されていなかったからな。」
「アルクのことは、信用していたんじゃない?だって、能力のことを話したんでしょ?」
「・・・」
「話していません。サオリ様は、僕と・・・いいえ、僕以外のメンバーに能力について話をしていません。ただ、自動治癒については、リテさんにこの前ばれてしまいましたが。」
「・・・なら、自動治癒をアルクが知っていても、リテから聞いた可能性があるってことだね。でも、戦闘能力は・・・」
「誰にも話していないと思います。僕は見せてもらいましたが。」
「クグルマを倒したときか。」
「・・・」
 黙り込んでいたアルクが聞けば、今度はルトが黙り込んだ。私に口止めをされていたのだろうか?

「アルクは、なぜ私の能力について知っているの?」
「なんでだと思う?」
「・・・そういう能力を持っているか、誰かから聞いたか。私は隠していたみたいだし、そういう能力をアルクが持っているんじゃない?」
「正解だ。だが、俺もこれは秘密にしているから、言わないで欲しい。」
「わかった。これでお互い様だね。」
 お互い、お互いの能力について秘密にすること。アルクは、交換条件なんてなくても黙っていてくれた。いい人だと私は思うのに、なぜ私は信用していなかったのだろう?

「さて、この話はここまでにしようか。模擬戦でもやるか、ルト?」
「はい!」
「模擬戦・・・それ、私もやりたい!」
「「え?」」
 いざってときに使えないと困るからね。本音は、剣を使ってみたいっていう、好奇心だけど。

 そして、私とアルクで模擬戦をすることになった。私はルトに剣を借りて、お互い剣を鞘に納めたままやることになった。

「ま、気持ちはわからなくもないからな。そこら辺の魔物で試し斬りされるよりはいいわ。」
「いや、そんなことしないよ。殺すのに抵抗あるし・・・」
 あぁ、でも魔王は殺さないと。それについては抵抗がないな。

「お2人とも、準備はいいですか?」
 ルトに問われて、私たちは頷き合った。

「それでは、始めてください!」
 ルトの合図と同時に、私はアルクの方へと突っ込む。

はは、はははははっ!

狂ったような、誰かの笑い声が聞こえる。
頭の中で響く声に気を取られるが、体は問題なく動いた。

何度か打ち合った後、剣を真横に振って、アルクの剣を弾き飛ばした。

悲鳴・懺悔・憎悪の叫びが聞こえ、まなざしを感じた。
最後に、これ以上にないほど濃い、血の匂いを嗅いだ気がして、私は意識を失った。


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