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62 希望

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「お待ちください!」
 音を立てて、大きく扉が開かれた。そこに立っていたのは、ルト。みんな彼を見て驚き固まった。
 ルトは、四天王との戦いで大けがを負ったので、部屋で休んでいるはずだった。

「寝ていろと言っただろう、ルト。傷は癒えても体力は回復しないんだから。」
「そうです。体に障りますから、部屋に戻って・・・」
 自分を案じる言葉を、ルトは扉をたたいて制した。

「そんなことは、どうでもいいのです!それよりも、帰るとはどういうことですか?まだ、魔王は倒していません。目標を達成していないのですよ!」
「・・・ルト、お前だってわかるだろ。」
 ルトがアルクに目を合わせたが、アルクは目をそらした。

「俺たちでは、魔王には勝てない。」
 その言葉が、胸に刺さる。そんなこと、わかりきっていたから。でも、それでも、ルトは彼らと一緒に戦う決意をしていたというのに。

 彼らは、諦めてしまった。

 ルトは、クグルマを倒した時、サオリが言った言葉を思い出した。

「ルトがクグルマを倒したことにしてくれる?」
「嫌とは言いませんが、無理がありますよ。」
「わかっているけど・・・」
「クグルマから逃げ切ったことにしてはどうですか?」
「それはできないの。だって、そしたら・・・希望が無くなる。」
「希望?」
「そう。みんなクグルマに負けた。それは圧倒的だったでしょ。こんなんじゃ、魔王討伐になんていけないでしょ?」
「それはそうですが・・・それではだめなのでしょうか?」
「え?」
「だって、サオリ様は戦いたくないんですよね。なら、いいじゃないですか!勇者だからって、魔王を倒す必要なんて、ありませんっ!」
「ルト・・・」

「悪いけど、魔王は倒さなくっちゃいけないの。」

 ルトは、そう言ったサオリに従うと言った。その時のことを思い出し、彼は声を張り上げた。


「魔王は、倒さなければなりません。勇者にそう決意させておいて、あなた方は逃げるんですか。自分たちの世界だというのに!」
「・・・!」
「それは・・・」
「現実を見なさいよ、ルト。」
「現実なら、嫌というほど見ました。それでも、僕は・・・最後までこの旅を完遂させます!魔王を倒すその時まで、旅を続けます!それがサオリ様の決めたことだから。」
「おらたちがいなくてもか?」
「あなたたちがいなくても、僕はサオリ様に付き従います。そして、サオリ様は・・・僕に最後まで剣を握らせ、旅を終わらせるでしょう。あなたたちなんて関係ない。僕は、サオリ様に付き従うだけだ。」
「弱い犬がよく吠えるわね。」
 その言葉は、真実だ。ルトは弱く、四天王の部下にですら負けるだろう。でも、それでもサオリの希望にはこたえなければならない。

 そう、ルトは希望にならなければならない。

「弱い・・・ですか。あなたたちを圧倒的な力でねじ伏せたクグルマを倒したのは、僕ですよ?」
 無理がある嘘。ルトもそう思っていたし、サオリにも言った。サオリ自身もそう思っていたようだが、この嘘をつきとおしたのだ。

 ルトは笑った。これは、ゼールに教えてもらったことだ。嘘をつくときは、余裕を持たなければならない。そして、笑うことは余裕の表れだと。

「先ほどは止めましたが、しっぽを巻いた犬など不要です。どうぞ、お好きなように。ですが、僕のご主人様の邪魔だけはしないでください。もし、邪魔立てするなら・・・牙をむきますよ。」
「しっぽを巻いた・・・犬?」
「降伏状態ってことだな。ルト、一ついいか?」
「なんでしょう、アルクさん?」
「魔王を倒すっていうのは、サオリの意思なんだな?」
「もちろんです。でなければ、このような面倒ごとほっぽり出していますよ。それで、それがどうかしましたか?」
「・・・そうか。なら、俺はサオリに付くぜ。」
「アルク!?」
「あんた、正気?」
 アルクはルトの隣に来て、笑った。

「ま、俺はサオリの騎士だしな。あいつについていくのが自然だろ?」
「止めるべきです!あなたは、サオリさんを死なせたいのですか!?」
 リテの言葉に、アルクの表情が険しくなった。

「お前、本気で俺がそう思っていると思ってんのか?いくらなんでも不快だぜ。リテ、お前は帰ったほうがいい。いても、サオリの邪魔になるだけだ。」
「アルク・・・」
「プティさんとマルトーさんも、口だけ達者な方だったのですね。少し幻滅しました。」
「ルト、いい加減口を慎んだらどうかしら?」
 アルクとリテ、ルトとプティで、お互いにらみ合う。

「お前たちは、サオリを信じているのか?」
 アルクとルトを見て、マルトーが聞いた。その問いに2人は頷いて答えて、それを見たマルトーは重ねて聞いた。

「それは何でだ?いや、何を信じている?まさか、サオリが魔王を倒せる・・・なんてことを思っているわけではないだろう?」
「さすがにそれはないでしょう・・・」
「ありえないわ。」
 あきれるリテとプティだが、マルトーは真剣そのものだ。

「お前たちがサオリを大切に思っているのは、ここにいる全員が知っていることだ。そんな2人が、ただサオリと心中するためについていくとは思えない。」
「それは・・・そうでしょうが。」
「だからって、サオリが魔王を倒すなんて・・・夢にも思わないでしょ。」
「だが、2人はサオリが魔王に挑むから、それについていくのだろう。なら、そういうことだ。」
「マルトーさん、それは違います。魔王は・・・僕が倒します。」
 マルトーの目を睨むようにして、ルトは言い放った。

「サオリ様が望むなら、僕は魔王を倒す勇者にだってなります。それが、僕の忠誠・・・」
「無理なものは無理よ。ルト、現実を見なさいよ。」
「現実を見ていないのは、あなたでは?」
「それは、どういう意味よ。」
「プティさん、あなたが見ているのは誰ですか?」
「・・・?」
「今、あなたの目の前にいる僕は、四天王を倒したルト。いずれ、魔王を倒し勇者と呼ばれるルトです。」
 断言するルトの言葉を信じる者はいなかった。


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