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52 憶測

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 プティの部屋に残った4人は、昨日の件についてプティから詳しい話を聞いていた。

「まず、昨日のことだけど順を追って話しましょうか。」
「そうですね。いろいろあったので、まとめたほうがいいでしょう。」
「まず、昨日サオリが領主に呼ばれたのは、私の差し金よ。」
「そうだと思いました。」
「もう隠す必要はねーのかよ?」
「用は終わったのよ、隠す必要はないわ。わかっているとは思うけど、サオリを領主の屋敷に行かせたのは嫌がらせではないわ。しっかり護衛もつけていたし。」
「護衛?」
「それは話せないわ。それで、サオリがいない間に、ルトから話を聞こうと思っていたの。何も聞けなかったけれど、これのおかげでサオリが移動魔法をあれくらいなら使えるということが分かったわ。」
「奴隷の首輪を外した時、飛んできたもんなー。それにしても、あの殺気はやばかった。あいつ、戦えないくせに殺気だけは本物だな。」
 マルトーが顔を青くしていった。昨日の殺気を思い出したのだろう。

「クリュエル城の出来事のせいかしらね、あの殺気は。それで、サオリが領主の屋敷でどう過ごしていたのか話すわ。」
「それは、護衛からの報告ですか?」
「そうよ。まず、領主と食事をして、そこで奴隷の話を聞いたそうよ。屋敷の使用人が奴隷で、どうやって彼らを奴隷にしたか・・・噂通りだったそうよ。」
「プティは、それについては動くのか?」
「難しいとだけ答えておくわ。その後、サオリは領主に勧められるまま一泊泊まることになり、部屋を用意されてそこで過ごしていたらしいのだけど、独り言を言っていたらしいわ。」
「独り言ですか。サオリさんは独り言を言うような人ではないと思いますが、何と言っていたのですか?」
「帰りたいから移動魔法を使おうかと悩み、すぐにやめたそうよ。その理由が、魔王側に知られたくないから使用を控えるとつぶやいていたとか。」
「移動魔法の件って、結構知れ渡っているよな。魔王側にも知られていると考えたほうがいいと思うが。」
「それは理解しているのじゃないかしら。だからこそ、詳細は伏せたいということみたいね。サオリは、今のままでは魔王に勝てないから、移動魔法を使って勝とうと考えているようよ。」
 今のままでは勝てない。それはこの場にいる全員の剣が、魔王に届かないからだ。それを思うと、悔しくてプティは唇をかみしめた。

「サオリなりに考えているようね。そこに、領主の使用人たちが押しかけてきて、奴隷から解放してほしいとサオリに頼んだそうよ。」
「まぁ、そう来るだろうな。」
「サオリ様は、さぞ困ったでしょうね。」
「サオリは、彼らの要望をはっきりと断ったわ。自分にできることと、できないことが分かっているようね。そして、彼らは領主の命令を実行して、サオリを奴隷にしようとしたのよ。」
「「「は?」」」
「おー怖い怖い。さすがに勇者が奴隷にされそうになるのは止めたんだろう?」
「もちろんよ。そこで動かないで何のための護衛よ。護衛は彼らを気絶させ、サオリと共に屋敷から脱出しようとしたのだけど、そこで教会の使者が来たという知らせが来たのね。」
「エロンか。でも、教会はノータッチなんだろ?」
「えぇ。だから彼女の独断ね。外見だと想像できないけど、彼女は手段を選ばないタイプ。使えるものは、使おうってタイプね。」
 誰かさんと同じだとつぶやいたマルトーの足を、プティは踏みつける。

「っ!」
「それで、彼女と会ったサオリの様子がおかしくなったそうよ。会った瞬間からね。」
「・・・最初からですか。」
「助けられて、なついた?いや、だとしたら俺たちにだって・・・」
「あの。もっと詳しくその時の様子を聞かせてもらってもいいですか?」
「・・・いいわよ。まず、彼女を目にしたとたん、サオリの空気が変わったのですって。とても懐かしそうにしているものだから、旧友かと思ったそうよ。でも、サオリは彼女の名前を聞いた。」
「召喚されたサオリさんに、この世界の知り合いはいないはずです。サオリさんの世界の知り合いに、顔が似ていたのでしょうか?」

「それから、お互いに自己紹介をし、エロンがサオリを様付で呼んだら怒鳴ったそうよ。呼び捨てがよかったみたいね。エロンが呼び捨てでサオリの名を呼ぶと、サオリは喜んで、次になんて言ったと思う?」
「敬語を使わないで、とかですか?」
「抱きしめていい?と聞いたそうよ。」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「ひゅー・・・った!」
 冷やかす様に口笛を吹いたマルトーの腹をリテが殴る。それをアルクが止めてなだめた。

「落ち着けリテっ!」
「離してくださいアルク!一回ぶん殴らないと気が済みません!いつもいつも・・・」
「もう殴っただろ!一回殴ったんだから、それで気を済ませろっ!マルトーも、発言には気をつけろよっ!」
「おらが悪いのか!?」
「じゃれ合うなら、外でやってくれるかしら。・・・で、ここからが本題ね。まず、エロンが何者で、何の目的があるのか。」
「彼女の言うことを信じれば、教会のシスターで、サオリ様と一緒に魔王を倒したいというのが目的ですよね。」
「教会の修道女かどうかは、今調べさせているわ。」
「結果を待つしかないようですね。」
「なぁ、あの女ちょっとおかしくねーか?」
 マルトーの言葉は全員が思っていることだった。

「サオリと初対面なのかどうか・・・わかる人はいる?」
 全員が首を横に振る。

「まず、初対面でなかった場合は、彼女に不審な点はないと思うわ。だけど、初対面だった場合は、マルトーの言う通りおかしい。一番おかしいのはサオリだけどね。」
「サオリ様を悪く言うのは、やめてください。」
「本当のことでしょう?ルトは、初対面の人に抱きしめていいか聞く?」
「聞きません。」
「そうよね。聞かないし、聞かれたら反応に困るのよ。でも、エロンは当然のようにその言葉を受け取った。それはなぜかしら?」
「よく同じことを言われるからじゃねーのか?ナンパされることが普段から多いとか。」
「その可能性もあるわね。でも、あの子たちは同性よ。同性の子がアプローチしてくることなんて、まれではないのかしら?」
「・・・騎士団ではよくあるけどな。」
「え・・・?」
「いや、何でもない。」
「そう、聞かなかったことにするわ。それで、話の続きだけど、サオリがなついていたわね。それをエロンは受け入れていた。なぜか?何か利用したいと考えているのではないかしら?」
 プティの言葉に、それぞれが考え込む。

「ここの領主みたいに、勇者を懐柔したいと思う貴族の手先・・・とかか?」
「もしかしたら、教会かもしれないわね。ノータッチと見せかけて、いいとこどりをする気かもしれないわ。」
「うわー。後方支援してましたって主張するのか?」
「わからないけどね。これは、憶測の域を出ないから、とりあえず頭において・・・次は、なぜサオリがエロンになついているのか。誰かわかるかしら?」
「おらが思うに、一目ぼれ・・・ぐはっ!」
「マルトー少し黙っていてくれ。」
「うぅ。」
「たまたまサオリの好みだった・・・とかならいいけど。例えば、彼女が魅了したのだとしたら?魔法や能力を使って、サオリを骨抜きにしたのだとしたら、要注意ね。」
「まだ骨は抜かれていないだろ・・・プティ、それは考えすぎじゃねーのか?俺は、ただ単に、波長が合ったとか、そういうものだと思うな。」
「・・・まぁ、これも憶測の域を出ない話ってわけ。とりあえず、それぞれ注意してくれるかしら。注意し過ぎってことはないと思うから。」
「わかった。サオリにエロンが近づかないように見ておく。」
「僕たちにも、不審な人物が近づく可能性がありますね。お互い注意しておきましょう。特に、ルト・・・あなたは奴隷ではない獣人となりました。別の意味で近づく輩がいるでしょう、気を付けてください。」
「はい。」

「それでは、明日にはこの町を出るから、準備しておいてくれる?いよいよ明日は国境・・・とはいっても、あっちも我が国のようなものだけど・・・旧クリュエル王国に入るわ。」
「クリュエルか・・・王都にもいくのか?」
「そのつもりよ。城には、魔族に関する資料があるかもしれないし。」
「もう調べつくされていると思うけどな・・・」
「資料の数は膨大よ。最後に聞いた報告では、まだ終わっていないと聞いたわ。私たちが城に着くころには、ある程度まとめてくれていると思うけど。」

 こうして、エロンについて何もわからず、注意するということだけが決まり、解散になった。明日は、サオリの鬼門クリュエルの地に入る。


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