40 / 111
40 死神
しおりを挟む僕は、サオリ様の奴隷ルト。
弱い僕だったけど、魔王討伐隊の仲間たちに鍛えられたおかげで、少しだけ自信が付いた今日この頃だった。
言うまでもなく、魔王討伐隊の面々は強い。同じ剣を扱うアルクもリテもいまだ追いつかない高みの存在。
大きな剣を振り回すマルトーの力には敵わないし、爪の甘い僕はいつも指導され、助けられた。
プティは、サオリ様さえ絡まなければ、いい人だ。後方にいるせいか、与えてくれる指示も的確だし、欲しいと思ったときに援護の魔法がくる。剣の指南も何度かしてもらった。
そんな、頼れる仲間たちが、今は一人も立っていない。
何が起こったのかわからなかった。
ただ、震える体をおさえて、剣を構える。
今やるべきことは一つ。サオリ様の逃げる時間を稼ぐこと。
「サオリ様、逃げてください!」
僕は叫んだ。サオリ様はこの一言では逃げてくださらないだろうと思い、どう言葉を募るか考えていると、元気よく返事が返ってきた。
「わかった!」
「へ?」
僕の前で、移動魔法を使ったサオリ様が仲間の横に現れては消えていった。最終的に4人と共に消えた。僕は、サオリ様が最後に消えた場所を呆然と見た。
「あれが勇者か。」
威圧的な声が響く。僕はその声に何とか頷いて答えた。
「俺は勇者を待っていた。強い者と戦うのが、俺の喜びだ。勇者を待つ間、ここの強者を暇つぶしに倒したが、強者はいなかった。」
強い魔物は、どうやらこの四天王が倒していたようだ。
「やっと、強者とご対面と思ったのだが、あれはなんだ。がっかりだ。あれで魔王様を倒そうなどと思っているとは、とんだうぬぼれだ。」
悔しくて歯を食いしばるが、何も言い返せない。あぁもあっさり倒されたのだ。
「さて、あの勇者はどれほどか。」
「サオリ様には、手出しさせないっ!」
震えが収まった。なんとも単純な体だ。笑ってしまうが、今はありがたい。
「肝だけは据わっているな。だが、お前は弱者だ。戦う価値もない。」
「それでも、サオリ様が逃げる時間は、稼ぐっ!」
「逃げる?ふっ、ふははははっ!」
突然笑い出したクグルマに気おされ、数歩後ずさった。
「あれが逃げる人間の目だというのか?おかしなことをいう。」
「でも、サオリ様は。」
僕を置いて、移動魔法で消えたサオリ様を思い出す。
「戦うのに、あれらは邪魔だったのだろう。」
「邪魔?」
信じられないと思った。でも、それが真実だったのだろう。僕の前に見慣れた赤コートが現れた。
「お待たせ、クグルマだったよね?」
軽く、待ち合わせに遅刻してしまった程度の軽さで、サオリ様は四天王に声を掛けた。
「そうだ。俺はクグルマ。お前は勇者だな?名を何という?」
「・・・そうだね。私は・・・ふふっ・・・私はね、サオリ。あなたにとって、死神だよ。」
「死神とは大きく出たな。だが、それくらい言う相手出なければ、興がそがれる。先ほどの弱者とは違うところを見せてもらおうか。」
それは、強者の会話。サオリ様は、いつもと違ってぞっとするような気配をしていた。それは、最初の出会いで感じた恐怖だ。
「サオリ様・・・」
「ルト、見ていて。あなたには、いつか見せる予定だったの。それが今日だった、それだけだよ。だから、安心して見ていて。」
その言葉に、その気配に、僕は確信した。サオリ様は、勝つ。
「うーん・・・とりあえず、この剣を使おうかな。あなた相手に通用するとは思えないけど。」
「そんなもので、俺の毛皮を傷つけられるものか。」
「やっぱそうだよね。でも、いいや。すぐに決着をつけるのも、つまらないし。」
「口だけでないことを証明してもらおう。」
四天王が襲い掛かった。その手には、先ほどは握られていなかった、まがまがしい剣がある。サオリ様の身長と同じくらいの剣が、サオリ様に振り下ろされた。
それを、踊るようにくるりと回って回避し、四天王の背後にまわったサオリ様は、慣れた様子で剣を振った。しかし、その剣ははじかれる。
「っ!」
「だから、無理だと言ったっ!」
仰け反ったサオリ様に、四天王は蹴りを繰り出し、それは見事サオリ様にあたる。サオリ様は、遠くまで吹き飛んだがすぐに立ち上がった。
額から血が流れている。
「サオリ様!」
「ふふっ・・・」
サオリ様は笑って剣を鞘に納めた。
「つまらん。もう諦めたのか。」
「うん。だって、この剣だと倒せそうにないし。でも、あなたの剣は切れ味がよさそうだね。あなたを倒したらその剣をもらおうかな。」
「はっ。その細腕でこの剣を振るか?」
四天王は剣を投げ捨てた。サオリ様の前にその剣はある。
「あれ、使ってもいいの?」
「かまわないさ。それで俺と戦えるのならな。」
「ありがとう。実は、もっと剣で戦いたかったんだ。どこまで剣が通用するのかわからないし。」
そう言って、サオリ様は剣を手に取って歩き出す。軽々と剣を取った姿に、四天王は驚いた様子だったが、焦った様子はない。
「来い、人間。」
「まずは、上から行くね。」
そう言って、サオリ様は飛び上がって、剣を振り下ろした。それを受け止めようとして、四天王は下がる。
「・・・お前・・・」
「どうしたの?」
「剣を渡したのは、自殺行為だったようだな。」
「いや、そんなことないよ。私の前に現れたこと自体が、自殺行為だから。ふふっ。」
嬉しそうに笑ったサオリ様を見て、僕の体は冷えていった。
それから、サオリ様が剣を振って、四天王がそれを避けて蹴りなどの攻撃を繰り出すが、それをサオリ様が避けるということが繰り返された。
だが、その繰り返しも終わる。
サオリ様が剣を振ると、四天王がそれをよけたせいで、背後にあった木を半ばまで斬って止まった。いつの間にか、ひらけた場所の隅まで移動していたのだ。おそらく、クグルマの誘導だろう。
「くっ、抜けない。」
「愚かな。」
剣を抜こうと必死になるサオリ様の背を、四天王の爪が抉った。
「くっ・・・」
たまらず膝をつくサオリ様に、とどめだと言わんばかりに爪を振り下ろす四天王。僕はそれをただ見ていた。声が出ない。
その時、サオリ様が笑ったような気がした。
そして、サオリ様が消える。でも、それを探すまでもなく、僕はその姿を捕らえた。
サオリ様は、再び剣を手に持っている。でも、その剣はいまだに木に埋まっている。そして、サオリ様の姿がまた消えて、今度は四天王の背後にいた。剣を振り下ろす体制で。
「んっ!?」
サオリ様を探す四天王に剣が振り下ろされた。
それからは、あっという間だった。
背を斬られた四天王は振り返ったが、そこで腕を斬り飛ばされ、心臓に剣を突き立てられた。口から血を吐き出す四天王。その血を浴びるサオリ様。
最後まで立っていたのは、もちろんサオリ様だった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる