上 下
39 / 111

39 クグルマ

しおりを挟む


 それから、1ヶ月が過ぎた。
 御者は、アルク、リテ、マルトーが交代で行い、戦闘は私以外の全員が参加した。流石魔王討伐隊に選ばれるだけあって、私の奴隷であるルト以外は、危なげなく魔物を倒していく。そんなルトも、徐々に強くなっていくのがわかった。

「さっきの一撃よかったぞ!」
 マルトーが、馬車の中でそう言ってルトの頭をガシガシと撫でた。手荒な撫で方なので、目は回すし、髪は乱れまくっていたが嬉しそうだ。

「そうですわね。どこかの役立たずとは大違いですわ。」
 ルトが褒められるたび、こうやってプティは私を落としていた。私はそれに何も答えない。もう、話す気にもなれなかった。

 空気が悪い。でも、私にこの空気は変えることができないのでそのままだ。
 ルトが何か言おうとするのを、肩をおさえて止めた。

「サオリ様。」
 悲しげな目を向けられ、私も同じような顔をしてしまった。

 結局、ルトに私の戦闘能力については教えていない。どうにも2人になる機会がなかったのだ。

「よし、着いたぞ。この森だ。」
 アルクの声に、みんなは馬車の外に出た。私も続く。

「最近、この森から魔物が出てきて町を襲うらしくってな、何か原因があるのではないかってことで、調査してくれだとさ。原因がわからなくても、魔物の数を減らしてくれれば御の字だと言っていたな。」
 そう、今日はここでの魔物退治と調査がメインだ。ここにある程度留まって、次の町に行く予定だ。

「魔物が出ると言っても、弱い魔物だ。サオリも連れて行く。」
「ここに置いておけばいいと思うわ。」
「一人にするのは危険だ。」
「邪魔になるわ。」
「プティ、ここは連れて行ってやろーぜ。こういう風に連れ歩かないと、いざって時に本当の足手まといになる。」
「・・・わかったわ。」
「では、サオリさん僕から離れないで・・・」
「ヴェリテは先導していきなさい。アルクは殿。これがサオリを連れて行く条件よ。」
「・・・では、ルト。サオリさんを頼みます。」
「もちろんです。」
 こうして、リテ、マルトー、私、ルト、プティ、アルクの順で、森の探索を始めた。

 私はただマルトーの背中を追いかけ続けた。
 たまに出てくる雑魚を各々が倒していく。そして、それが二桁に達した時に、マルトーに声を掛けた。

「いつもこんなに多いの?さっきから、魔物に遭遇しすぎじゃない?」
「そうだな。雑魚だから問題はないが、この数は異常だ。」
「サオリ様・・・」
 若干青い顔をしたルトが、私のコートの裾を引っ張った。

「嫌な感じがします。」
「ルト、それは私たちに言うべきでしょう?そんな役立たずに言っても、どうしようもないわ。」
「とりあえず、止まるか。おいっ、リテっ!」
 声を張り上げて、先導していたリテをアルクが止めた。
 みんなで集まって、話し合うことになる。

「ここまで来てどう思う?」
「何か、森の奥にあるように感じます。」
「弱い魔物たちは、逃げているんじゃないのか?」
「私も同じ意見よ。」
「強い魔物がこの森に移り住んだのでしょう。ですが、ちょっと異常ですね。森を出るほど、弱い魔物にとって危険な存在なのでしょうか。」
「この森は、確かそこそこ強い魔物もいたはずだ。それが一匹も出ないのはおかしくないか?さっきから弱い魔物ばかりだ。」
「強い魔物が、森の奥に集結しているのか?いや、それはないか。」
「先に進まないことには、わかりませんわね。」
「そうだな。・・・サオリをどうするか。」
「ですから、邪魔だと言ったのですわ。」
「・・・ルトに守ってもらいましょう。ある程度の魔物でしたら、ルトでも対処できます。僕たちは、ひたすら目の前の魔物を倒せばいい。」
「そうだな。」
 話し合いをした意味があったのかわからないが、私たちはそのまま進むことになった。もしかしたら、ルトと同じようにみんな不安を感じているのかもしれない。

 そして、私たちはここで引き返さなかったことを後悔した。

 気づけば、弱い魔物が襲ってくることがなくなり、全く魔物と遭遇することがなくなった。だが、それに気づいたのは遅すぎたのだ。
 足を止めたところで、とてつもない殺気が私たちを襲った。

「人間か。こっちへこい。」
 少し先の開けた場所。地面が抉り取られたようなその場所に立つ、筋骨隆々の熊。明らかに、格が違った。

「あれは・・・」
「まずいですわ。噂が本当なら、あれは四天王の一人クグルマ・・・攻撃魔法は使わないらしいですが、肉弾戦で右に出る者はいないと言われている魔族です。」
「四天王・・・」
 プティの説明を聞いて、四天王がいることを初めて知る。さて、今のメンバーで四天王を倒せるだろうか?

「来いと言っている。聞こえなかったのか?」
 苛立つ声に、私たちは押し黙った。

「ルト、サオリさんを頼みます。僕たちだけで行きましょう。」
「私も行きます。」
 リテの提案を断り、私は自分も行くと主張した。その主張はみんなを驚かせたが、すぐに反対の嵐にあう。

「みんな、忘れてない?私の移動魔法が何のためにあるか・・・もし、あれが倒せないほど危険なものなら、私の力が必要でしょ。」
「死ぬわよ。」
 プティはそう言って睨みつけたが、私も引くわけにはいかない。私は前に進み出た。

「何と言われようと、行くから。だいたい、ここで逃げてもこの森を抜ける自信ないし。」
「ガハハハッ・・・偉そうに言えることではないなっ!」
「全くよ。」
「サオリさん・・・」
「サオリ、わかった。だけど、俺たちの後ろに居ろ。」
「わかった。」
「サオリ様は僕が守ります。」
 私は頷いて、ルトの頭を撫でた。

 みんなが逃げてくれればよかったのだが、私を置いて挑むなんて悪手でしかない。



 数分後。私の予想は当たった。
 倒れ伏す仲間たち。立っているのは、私とルト、クグルマだけだった。

「サオリ様、逃げてください!」
「わかった!」
「へ?」
 私は、ルトの言葉に甘えて、移動魔法を使いアルクの横に移動した。それから、アルクと共にリテの横に移動して、マルトー、プティと繰り返す。
 その様子を興味深げにクグルマは見て、その間攻撃を加えることはなかった。

「移動魔法!」
 私は4人を連れて、森の入り口に止めてある馬車まで移動した。

「く・・・逃げろ、サオリ。」
「逃げて・・・ください。」
 アルクとリテはこちらに薄目を開けて、苦しそうにそう言った。

「リテ、悪いけど、みんなの治療をよろしく。」
「何を・・・そんなことしても。」
「移動したから、もうここにクグルマはいないよ。」
 その言葉に目を見開いて、馬車を視界に納めたリテは納得したようだった。

「ごめんね、痛い思いさせて。でも、もしかしてあれを倒す秘策があるのかと思って、黙って見てたんだ。」
「・・・逃げられると、思わなかったのです。」
「そっか。じゃ、よろしくね。」
「サオリさん!?どこへ?」
「ルトが、まだ戦っているから。」
「サオリ、待って!」
 アルクがこちらに手を伸ばすが、私はその手が私を掴む前に移動した。

「移動魔法。」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

処理中です...