【完結】見世物見世物少女の転移逆転記

製作する黒猫

文字の大きさ
上 下
36 / 39

36 訴え

しおりを挟む






 期待していたわけではありませんが・・・兄に思うことは一つです。

 本当に、何の力もないんだなと。



「リリっ!」



 遠くなる兄の声。叫び暴れる兄を、城の騎士が押さえつけています。そして、そんな城の騎士は私の左右にもいて、私を拘束していました。



 想定の・・・範囲内ですね。魔物だと分かれば、もてなし方も変わるのは普通でしょう。ですが、もう少し頑張れなかったのでしょうか、兄よ。



「離せ!リリは、ドーナルド家の娘だぞ!」

「魔物に魅入られたか。牢にでも入れておけ。」

「リリ!」



 なんだか鈍い音が聞こえて、私は振り返りました。すると、兄が力なく床に横たわっています。どうやら、騎士に殴られて気絶した様子・・・駆け寄りたいですが、それは許してくれないでしょう。



 あぁ、面倒な。



 苛立ちがつのります。ですが、まだ状況がはっきりとしていない段階で、この騎士を殺すわけにもいかないでしょう。



「お兄ちゃん・・・」

「さっさと歩け、魔物が。」



 強い力で押されたので、よろめきましたが、騎士たちはそんな私をかまうことなく、私を引きずるように先を急ぎます。



 魔物というだけで、この扱いですか。

 いいえ、向こうの世界でもこれが普通だったではないですか。忘れていました・・・人間としての生活に慣れていたので、こんな扱いをされることを忘れていました。







 騎士に連れていかれた場所は、なんと玉座の間でした。牢屋ではないのですね・・・あぁ、牢に入れられるのは兄の方でした。



 玉座の間には、一番奥に王族らしき人物が並んで座っています。出入り口から王族が並び座る場所までは赤い絨毯が敷かれていて、その左右に見物人のように人だかりができています。

 王族たちの前の赤い絨毯の上には、左右に踏み台のようなものが置かれていました。その上には机も置かれていて、すでにどちらにも人が立っています。



 両者はこちらに別の感情を持った瞳を向けました。



 決意の中に優しさを込めた瞳で・・・グレットが。

 厳しい瞳の中に、憎悪を込めた瞳で・・・



「マーレイフィ・スタードリア・・・」



 彼と対面する形で、彼の婚約者が立っていました。



「揃ったな。では、それぞれの主張を聞かせてもらおうか。」



 頭に王冠をのせた王らしき人物が、まずはマーレイフィ様を指名します。どうやら、これは裁判のようなもので、訴えを起こしたのがマーレイフィ様のようです。



 間違いなく、私が魔物であることと関係があるのでしょうね。



 長々と話をされるマーレイフィ様の訴えを簡潔に述べるのなら・・・



「私の婚約者、グレット・アルソートは、本日魔物と判明した、リリ・ドーナルドに魅了されています。おそらく、リリ・ドーナルドは、魅了魔法にたけたサキュバスであると、推測いたしました。」



 どこからツッコめばいいのでしょう・・・マーレイフィ様、あなたはまさか、婚約者を訴えるおつもりなのでしょうか?



それにしても、サキュバスですか。確かに、サキュバスならとっくの昔にグレットを魅了して、私なしでは生きてはいけないようにしますが・・・冗談は置いといて、私が危険な魔物であることを訴えるのはわかります。

ですが、なぜグレットが魅了されていると、彼まで貶めるようなことを?



その答えは、すぐに知ることができました。



「ですから、グレット様が魔物をかばうような発言をなさるのです。諸悪の根源はそこの魔物、リリ・ドーナルド!この魔物さえ処分すれば、丸く収まります。」



 あぁ、グレットを守るためだったのですか。驚きました・・・可愛さ余って憎さ百倍的な感じで、私もろともグレットを処分させる気かと。



 処分ですか。

 向こうの世界でも、人間に危害を食えた魔物は処分されますが、まだ私は人間に危害を加えていません。この世界は理不尽ですね。



「魅了・・・ですか。」

「黙れ。」



 嘲笑するように呟けば、騎士に叱責されました。

 魅了を使う魔物が、騎士にこんな態度を取らせると思いますか?魅了を使う魔物なら、ここにいる人間すべてを魅了してやりますよ・・・それも面白いですね。



 ですが、今はまだ動くときではありません。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

転生しても山あり谷あり!

tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」 兎にも角にも今世は “おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!” を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

処理中です...