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34 魔技発動
しおりを挟むこの世界にも魔物がいることは理解していました。人間と魔物は戦争中であるということも。
最初、このことを聞いたときは、戦争をしているのに緊張感がない、この世界の人々は平和ボケしていると思いました。長くここで暮らすうちにいつの間にか、その中に私も入っていたのです。
魔物と戦争中なら、魔物が唐突に町を襲っても不思議ではありません。遠い場所のことだからと楽観視するのは、馬鹿のすることです。
ワイバーンが、急降下します。私たちに迫ってきているのです。
「リリ、さがれ!」
私をかばうように、グレットが前に出て剣を構えます・・・え、剣!?
なぜ、剣を持ち歩いているのでしょうか?グレットが持っているのは、まぎれもなく鉄製の剣です。練習や模擬戦で使う木製の剣とは違い、人を容易く斬れそうな刃があります。
ワイバーンの爪に向かって、グレットが剣を振いました。硬質な音が響きましたが、特にワイバーンにダメージはないようで、一度上空に上がっていきましたがすぐに急降下をして再びこちらに迫ります。
「くそっ!」
悔しそうな声を出したグレットの方を見れば、ひびの入った剣を構えなおして苦々しい顔をワイバーンに向けていました。
「グレット、剣が・・・!」
「わかっている!」
迫るワイバーンに剣を振うそぶりをしたグレットですが、寸前で回避し剣をワイバーンに当てることなくやり過ごしました。
「リリ!あの魔物の弱点はわかるか?見たところ、固いうろこにおおわれている、この剣が通りそうな部分はあるか?」
「翼部分が弱いと思いますが・・・」
「致命傷にはならない・・・か。」
「はい。」
「・・・来る!」
グレットの言葉通り、ワイバーンが再びこちらに迫ります。グレットはよけて爪からの攻撃はよけきりましたが、体勢を崩したところにワイバーンのしっぽが迫って直撃しました。吹き飛ばされて、転がるグレット。
「グレット!」
「くっ・・・リリ、マギを使え!できれば、隙をついて逃げろ!」
「!」
魔技・・・魔物が使う、魔物によって違う技。それは、魔法のようでいて、魔法のようでない・・・技。
私は魔物ですから、もちろんマギが使えます。
リスフィのマギは、誰にも見せてはいけないもの。見せたなら、その者の命を奪わなければならないと言われています。
今ここには、グレットとワイバーンがいます。ここでマギを使ったのなら、確実にこの2人を殺さなければならない・・・
「なんて、要は見せなければいい話です。」
見せなければいい。見せた者を殺せというのなら、殺す者以外に見せなければいいだけの話です。大丈夫、きっとうまくいきます。
どうか、どうか、彼にだけでいいのです。この技が・・・どうか彼の目に映りませんように。どうか彼だけは。
大丈夫、きっと映りません。きっと・・・魔法がすべてを隠してくれます。
顔を上げます。
強者の余裕を宿したワイバーンの瞳と目が合いました。
こんな人間のような魔物が・・・今は羽を隠しているので、無力な人間にしか見えない私が、何かできるとは思っていないのでしょう。
ですが、それは間違いです。
「マギ・・・刃となれ!」
認識されないように魔法がかけられている羽が、一枚抜けた羽根となって・・・固くなり、鋭くなり、まるで剣の刃の様になって・・・敵、ワイバーンへと猛スピードで向かいます。
私の、リスフィのマギは・・・羽を変化させ、自由自在に動かすことが可能というもの。
ワイバーンのうろこよりも固くなった羽根は、ワイバーンのうろこを貫き、心臓を貫いてワイバーンを絶命させました。
羽根は、私の元を離れた後も認識されないようで、ワイバーンは唐突に胸に穴が開いたようになっています。
何が起こったかわからないワイバーンは、ただ悲痛な声を上げて落下しました。
感覚でしか、羽根が変化したことを知ることができないのは不安でしたが、グレットにマギを見られずに済んでよかったです。
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