【完結】見世物見世物少女の転移逆転記

製作する黒猫

文字の大きさ
上 下
26 / 39

26 ロッカー

しおりを挟む






 雪見会当日。

 客側の生徒に用意された更衣室。平民やこんな日でも朝練を行う部活に入っている生徒、雪見会の後で用事があるもの・・・理由はそれぞれあるが、そういう者たちのために一人一つ、客側の人間すべてに用意されたロッカーが、更衣室に置かれている。



 そんな更衣室で談笑している少女2人は、唐突に湧き出た好奇心によって、リリのロッカーの扉を開けて、悲鳴を上げることになった。







「そういえば、あの転校生も客なのよね?」

「客くらいしかできないでしょ。いいえ、客すらできないかもしれないわね。踊れるのかしら?」

「それは大丈夫みたいよ。ダンスの授業で踊っていたみたいだから。」

「なら、ドレスはどうかしら?今の流行りなんてわかっていないんではない?カビの生えそうなドレスでも用意していたら大変ね。」

「そうね。私たちが確認してあげましょうか。私、予備を持ってきてあるの。もし眉を顰めるようなドレスなら、替えてあげましょう。」

「クラスメイトにカビドレスを着ている者がいるなんて、恥ずかしいものね。」



 ロッカーには鍵をかけることができる。しかし、リリのロッカーは鍵が刺さったままで、鍵の意味がない。

 少女の一人があっさりと扉を開けて、もう一人の少女も前かがみになって中をのぞき、悲鳴を上げた。







 リリのロッカーの中には、無残にも引き裂かれた灰色のドレスが入っていた。







「どうやって会に参加するのかしら。」

「もうすぐ会が始まるわ。あんなドレスを用意したのよ、予備もあるはずないわ。」

「予備を買うお金があるなら、あのようなドレスは用意しないでしょうからね。」



 眉をひそめながらも、この状況を楽しむように口元にゆがんだ笑みを浮かべる生徒たち。ロッカーを開けた少女は、どうするべきかと悩んだ。

 自分たちが悲鳴を上げたせいで、この事件が周知されることになってしまった。リリに手助けもしにくい。



 今の学校の風潮で、リリはいじめの標的とされていた。手助けをしたいのなら、嫌味ったらしくするか、周囲に感知されないようにしなければならないのだ。

 しかし、どちらも今回はできそうな状況ではない。リリに自力でドレス問題を解決させたほうが面白いという空気が流れている。



「ちょっと、何の騒ぎ?」



 そこで、ドレスを着た、リリのクラスメイトが現れた。彼女は、グレットのファンクラブのようなものを作った者で、リリに嫌がらせをしているグループのリーダーでもある。彼女は背後に2人取り巻きを引き連れてやってきた。



 騒ぎの中心、リリのロッカーまで、口元に笑みを浮かべて歩く。リリのドレスが破かれているということは知っていて、現場を面白半分に見に来たのだろうと分かる表情だ。だが、その表情がすっと変化した。



「え・・・これ。」

「どうしたの?」

「これ、うちの衣装・・・演劇部の衣装よ!どういうこと!?」



 本気で戸惑うリーダーに、取り巻きは対処を迷わせた。



「明後日は公演なのに!どうすんのよ、これ!一体、誰がやったの!?これ、演劇部の衣装よ、どうしてくれるの!?」

「落ち着いて・・・本当にこれが衣装なの?」

「そうよ。シンデレラの最初の衣装・・・なんでこんなところに。」



 少し落ち着くと出てきたのは疑問だった。

 衣装は、部室で管理されていて、施錠も活動中以外はされている。こんな場所にあるのはおかしかった。



「田舎者が盗んだ?」

「もしかして、復讐とか?」

「いや、着るドレスがなくて、借りるつもりだったとか?」

「このドレスを?いくらなんでも趣味が悪すぎだわ。借りるつもりなら、シンデレラの魔法がかかったドレスにするでしょう。」

「なら、いじめの復讐?」

「ドレスを破いた後に、とんでもないことをしてしまったって気づいたのかもね。それでここに隠した。」

「証拠隠滅もしないなんて、お馬鹿さんね。」



 勝手なことを言う周囲の憶測を聞いて、リーダーの目じりがどんどん吊り上がっていった。爆発する、取り巻きたちが青くなったところで、助けが来た。



「何の騒ぎだ。」



 ここは、女子更衣室だ。そんな更衣室に男性の声が響いた。

 男は、リリのクラスメイトの担任だった。難しい顔をして入ってくる担任だが、内心は楽しくて仕方がないという思いだ。



 恥をかかせてやるだけのつもりだったが、もっと面白くなってきた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

偽りの恋人と生贄の三日間

有坂有花子
ファンタジー
三日目に生贄になる魔女が、騎士と偽りの恋人としてすごす三日間 「今日から恋人としてすごして」 珍しい容姿と強い魔力から『魔女』と疎まれていたリコ。ともにすごしてきた騎士のキトエと、辺境の城で三日間をすごすことになる。 「三日だけだから」とリコはキトエに偽りの恋人として振るまってほしいとお願いし、キトエは葛藤しながらもリコのお願いに沿おうとする。 三日目の夜、リコは城の頂上から身を投げなければならない、生贄だった。 ※レーティングは一応です

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

転生しても山あり谷あり!

tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」 兎にも角にも今世は “おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!” を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

処理中です...