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1 魔物園
しおりを挟むここは、人と魔物が争う世界だった。
人と魔物が争っていたのは、すでにはるか昔の話。魔法という武器を手に入れた人は、魔物を完全敗北させた。
現在この世界は、人が統治し、魔物は動物と大差ない扱いを受ける。
「リリ、あぁ、可哀そうに。」
頭をなでてくれる人は、姉のように慕っている同種の魔物。そう、私は魔物のリスフィ。名前はリリです。
リスフィとは、翼のある人型の魔物で、人間に近い容姿と背中に生えた白い羽を持つ、俗に天使と呼ばれる魔物です。比較的攻撃性の少ない魔物で見目もいいため、魔物園では人気トップ10には入る魔物です。ちなみに、私がいる魔物園では50種類以上の魔物が公開されています。
「心を病むものも多くいるのよ。私、心配だわ。」
「大丈夫です!私、嬉しいですよ。だって、私が公開されれば、その分みんなの負担が減るって、飼育員様が言っていました!だから、私はこの日を楽しみにしていたんです!」
「飼育員様が・・・」
スッと、お姉さまの空気が冷たくなります。それは、きっと飼育員様のことをあまりよく思っていないからでしょう。お姉さまだけでなく、他のリスフィも同様です。
飼育員様は、私たちの世話をする人で、主に食事を持ってきてくれます。あとは、公開計画などをしているとか何とか。よくわかりませんが。
飼育員様のことは置いといて、お姉さまの話の通り私は明日から公開されることになりました。
魔物園では、一定の年齢に達すると公開されます。公開とは、表舞台に立つという意味で、魔物園に来場した人間に明日から私の姿を見せることになります。
話に聞くと、大勢の視線にさらされて、ストレスがたまるそうです。そのせいで体調を崩したり、心を病んでしまった魔物も多いそうで、お姉さまはそれを心配しているのでしょう。
私だって怖いです。でも、飼育員様が言っていたのです。
お前が公開されることによって、他のリスフィの負担が軽くなる。大切な姉さまのお手伝いができるということだ。
これは、頑張るしかありません!
やる気に満ちた私の頭を、お姉さまが優しくなでてくれます。嬉しいです。
「リリ、いつかきっと・・・救いがあるはずよ。だから、あの技を忘れてはだめよ。きっと、あなたに窮地がおとずれた時、きっとその技はあなたに必要だから。」
「はい!」
リスフィに受け継がれている技。それは、飼育員様には内緒にしなければならなくて、誰にも見せてはいけない技。
もし見られたのなら、見た者を殺しなさいと約束させられました。怖いです。
そんな技、本当は忘れたいのですが、忘れてはいけないそうで・・・後世に伝えなければならないそうで、私はちゃんと覚えています。
でも、使いたくありません。だって、それを使うということは、きっと誰かを殺さなければならない時ですから。
次の日、私は飼育員様に連れられて、外へと通じる扉の前に立たされました。
「今日はお披露目だからな、大勢集まっている。いいか、愛想よく笑って、笑え。笑うくらいしか、お前は客を喜ばせるすべがない。笑え。」
「はい。」
「しっかりとやれよ。」
飼育員様は、扉の方を顎で指します。
私は、扉に手をかけました。
「ひぃあっ!?」
「よし、血の気が通ったな。」
飼育員様におしりを触られて、変な声を出してしまいました。飼育員様はこのようないたずらをよくなさって、それが他のリスフィ達に嫌われる理由の一つです。
「あんな青白い顔を客には見せられないからな。」
「・・・・・」
「さっさと行け。」
「はい。」
そこまで青白い顔をしていたとは思えませんが、飼育員様には逆らえません。私は大人しく従って、扉を開けました。
眩しいです。
うるさいです。
耳をふさぎたくなるような、大勢の声。耳が利く魔物だったら気絶しているかもしれません。リスフィは、人間よりは耳がいいですが、そこまでです。
目が慣れて、青い空が見えました。
檻の向こう側、人間たちの背後で―――――
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