29 / 45
第25話 もうひとりのお姫様
しおりを挟む
探偵さんの身体は大きくて運ぶのを諦めようかと思ったがお医者さんならきっと治せると思い両足をもって運ぶことにした。
ズルズルと地面を引きずられる探偵さんの身体は爆発の影響でボロボロ。中身の歯車も空回りし続けている。
探偵さんをわざわざ運んでまで治す意味があるのかは分からない。どうせリセットされれば探偵さんも回収されて、またいつもの始まりを迎える。だったら置いて行ってもなにも変わらないはずなのに。運び始めてからもそう悩み続ける。
なんだかリセットを経験してから悩んでばっかりだ。
探偵さんあたりはそれはいいことだと嫌味っぽく言ってきそう。お姉さんも大人になるために必要なこと。なんて、自分たちがアンドロイドだと思いもしないでそう大人ぶるのだろう。
そんなことを考えながら進む通路はこれまでと様子が違ってただまっすぐ伸びていた。
結局、そのままセントラルへ行くことを止め、新たに現れた横道を進むことにしたのはそれがなにかに導かれている気がしたから。探偵さんを置いていかなければ現れなかったその通路は意味があるようにも思えた。それに、リセットされて同じようにその場所で爆発を起こすなて奇跡が達成できる気がしなかった。ここになにもなくても引き返せばいいだけ。
それにしてもどこへ繋がっているのだろうか。通路の雰囲気から推測することもできない。それもすぐに必要がなくなった。立派な飾りが施された扉にたどり着いたからだ。
一応ノックをする。壁が厚いのか中まで音が届いているか不安になる。実際返事もなければ勝手に扉が開いたりもしなかった。押せば開きそうな扉を試しに押してみる。抵抗はあるもののゆっくりと開いていく扉に意外だなと思いつつも遠慮なく最後まで押し開ける。
「あら。お客さんなんて珍しいのですね。申し訳ないのだけれど私はベッドから動けないの。こちらにいらしてもらえないかしら」
聞き覚えのある声。それは少女自身と同じ。つまりはお姫様とも同じ声。口調からしてもお姫様な気もするのだけれど、動けないとはなんだろうか。
部屋の中を見渡す。不思議な空間だった。正方形の広間の中心に天蓋付きのベッドが置かれている。声はそこから聞こえているようだった。そしてそのほかには物はない。置かれているベッドを敷き詰めれば二十床は用意できそうなのに。贅沢な空間の使い方だと思う。
そして扉の装飾に対して部屋の中は質素なものだ。まるでほかのものは必要がないと言わんばかりにみごとになにもない。その部屋の違和感を説明できる言葉を少女は知らなかった。
「これは入ってもいいの?」
勝手に天蓋をくぐっていいものか判断できずに一応聞いてみる。意外と答えはすぐに返ってきた。
「もちろんですよ。ここにたどり着いたものを拒むつもりはありません」
「そう。じゃあ」
探偵さんを雑にその場におろすと、天蓋をくぐってベッドのわきへと移動する。
「やっぱりお姫様。どうしたの? 動けなくなることがあったの?」
「あらあら。私はあなたと初対面だと思うのだけれど。どこかで会ったことがあるのかしら?」
「おかしなことを言う。セントラルの塔のてっぺんでお話をした。そして地下の工場を見せてくれた」
「ああ。そうなのですね。その様子だとあの子は私の代わりをちゃんと務めてくれているようです」
「どういうこと?」
「おそらくですが。あなたが会ったのは私の影武者でしょう。動けなくなってしまった私に変わって私の役割をこなしてくれているあなたの先輩です」
「うそ。お姫様にしか見えない」
アンドロイド同志、判断できるように同じ型であれば互いの識別番号を認識することでそれぞれの個体を識別している。それがお姫様と同一だと示している。
「影武者ですもの。それくらいの工作はしますよ」
「そう。動けなくなったのはなんで?」
「あんまり驚かないんですね」
「あなた達の事をいちいち驚いられない。理解できないことが多すぎる」
「ふふ。そうですね。それにしても素直な子。そんなあなただから、ここにたどり着けたのかしら」
「そんなことはどうでもいいから、質問に答えて」
「ええ。分かっています。でも、そんなに難しいことじゃないのです。ただたんに古くなって動けなくなってしまっただけ。それかけなのです」
「お医者さんに治してもらえないの?」
「ええ。こればかりはどうしようもないのです。でも、私の意志は今のお姫様であるあの子に引き継がれるので問題はないのですよ。私はその終わりをただ待っているだけなのです」
「じゃあ、あなたでもいいわ。私の質問に答えてほしいの」
「珍しいですね。ですが、もちろんいいですよ。なんですか?」
「アンドロイドは人間じゃない。それなのに人間を模倣して維持しているこの疑似社会に意味はあるの?」
寝たきりのお姫様が驚いたのがはっきりと分かった。
ズルズルと地面を引きずられる探偵さんの身体は爆発の影響でボロボロ。中身の歯車も空回りし続けている。
探偵さんをわざわざ運んでまで治す意味があるのかは分からない。どうせリセットされれば探偵さんも回収されて、またいつもの始まりを迎える。だったら置いて行ってもなにも変わらないはずなのに。運び始めてからもそう悩み続ける。
なんだかリセットを経験してから悩んでばっかりだ。
探偵さんあたりはそれはいいことだと嫌味っぽく言ってきそう。お姉さんも大人になるために必要なこと。なんて、自分たちがアンドロイドだと思いもしないでそう大人ぶるのだろう。
そんなことを考えながら進む通路はこれまでと様子が違ってただまっすぐ伸びていた。
結局、そのままセントラルへ行くことを止め、新たに現れた横道を進むことにしたのはそれがなにかに導かれている気がしたから。探偵さんを置いていかなければ現れなかったその通路は意味があるようにも思えた。それに、リセットされて同じようにその場所で爆発を起こすなて奇跡が達成できる気がしなかった。ここになにもなくても引き返せばいいだけ。
それにしてもどこへ繋がっているのだろうか。通路の雰囲気から推測することもできない。それもすぐに必要がなくなった。立派な飾りが施された扉にたどり着いたからだ。
一応ノックをする。壁が厚いのか中まで音が届いているか不安になる。実際返事もなければ勝手に扉が開いたりもしなかった。押せば開きそうな扉を試しに押してみる。抵抗はあるもののゆっくりと開いていく扉に意外だなと思いつつも遠慮なく最後まで押し開ける。
「あら。お客さんなんて珍しいのですね。申し訳ないのだけれど私はベッドから動けないの。こちらにいらしてもらえないかしら」
聞き覚えのある声。それは少女自身と同じ。つまりはお姫様とも同じ声。口調からしてもお姫様な気もするのだけれど、動けないとはなんだろうか。
部屋の中を見渡す。不思議な空間だった。正方形の広間の中心に天蓋付きのベッドが置かれている。声はそこから聞こえているようだった。そしてそのほかには物はない。置かれているベッドを敷き詰めれば二十床は用意できそうなのに。贅沢な空間の使い方だと思う。
そして扉の装飾に対して部屋の中は質素なものだ。まるでほかのものは必要がないと言わんばかりにみごとになにもない。その部屋の違和感を説明できる言葉を少女は知らなかった。
「これは入ってもいいの?」
勝手に天蓋をくぐっていいものか判断できずに一応聞いてみる。意外と答えはすぐに返ってきた。
「もちろんですよ。ここにたどり着いたものを拒むつもりはありません」
「そう。じゃあ」
探偵さんを雑にその場におろすと、天蓋をくぐってベッドのわきへと移動する。
「やっぱりお姫様。どうしたの? 動けなくなることがあったの?」
「あらあら。私はあなたと初対面だと思うのだけれど。どこかで会ったことがあるのかしら?」
「おかしなことを言う。セントラルの塔のてっぺんでお話をした。そして地下の工場を見せてくれた」
「ああ。そうなのですね。その様子だとあの子は私の代わりをちゃんと務めてくれているようです」
「どういうこと?」
「おそらくですが。あなたが会ったのは私の影武者でしょう。動けなくなってしまった私に変わって私の役割をこなしてくれているあなたの先輩です」
「うそ。お姫様にしか見えない」
アンドロイド同志、判断できるように同じ型であれば互いの識別番号を認識することでそれぞれの個体を識別している。それがお姫様と同一だと示している。
「影武者ですもの。それくらいの工作はしますよ」
「そう。動けなくなったのはなんで?」
「あんまり驚かないんですね」
「あなた達の事をいちいち驚いられない。理解できないことが多すぎる」
「ふふ。そうですね。それにしても素直な子。そんなあなただから、ここにたどり着けたのかしら」
「そんなことはどうでもいいから、質問に答えて」
「ええ。分かっています。でも、そんなに難しいことじゃないのです。ただたんに古くなって動けなくなってしまっただけ。それかけなのです」
「お医者さんに治してもらえないの?」
「ええ。こればかりはどうしようもないのです。でも、私の意志は今のお姫様であるあの子に引き継がれるので問題はないのですよ。私はその終わりをただ待っているだけなのです」
「じゃあ、あなたでもいいわ。私の質問に答えてほしいの」
「珍しいですね。ですが、もちろんいいですよ。なんですか?」
「アンドロイドは人間じゃない。それなのに人間を模倣して維持しているこの疑似社会に意味はあるの?」
寝たきりのお姫様が驚いたのがはっきりと分かった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?
俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。
この他、
「新訳 零戦戦記」
「総統戦記」もよろしくお願いします。
遥かなる故郷は宇宙
原口源太郎
SF
月の希少資源をめぐり、宇宙で暮らす人々と地球の人々との戦争が起こった。宇宙同盟軍の前線基地のエースパイロット、ジョン・スカイは、幼いころ慕っていたルー・ソシアが地球連邦軍の新型戦艦撃墜のために部隊を率いて地球にやってきたと聞き、ルーの部隊に加わりたいと基地の指揮官に願い出る。
山岳機動小隊
ひるま(マテチ)
SF
遠くフランスの地で行われていた人工ブラックホールの生成実験がもたらしたものは。
それは異世界とを繋ぐ”穴”の出現だった。
"穴”は飛び火するかのごとく、世界のあちこちに出現する。
そして、”穴”の向こう側からやって来る異形の者たち。
彼らは人間を捕食しながらも人類が記憶する生物の概念を完全に無視した存在であった。
もはや彼らとは共存できない。
そこで人類が選択したのは彼らとの全面戦争であった。
彼らに対し、かろうじて強力な火器で対抗できるも、その出現場所は様々で、戦車や装甲車が立ち入れない場所から出現されたら被害は甚大なものとなるのは必至。
政府は厳しい選択を迫られ、やむなく名古屋工科大学で研究が進められていた人工筋肉を流用した特殊車両、険しい山岳地帯でも踏破可能な人型戦闘車両の開発に乗り出す。
ロックキャリバーと名付けられたその車両を何としてでも実用化させるべく、研究員の湊・楓と国防陸上隊士の寝住・岳たちの奮闘が始まる。
日本国転生
北乃大空
SF
女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。
或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。
ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。
その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。
ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。
その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。
基本中の基本
黒はんぺん
SF
ここは未来のテーマパーク。ギリシャ神話 を模した世界で、冒険やチャンバラを楽し めます。観光客でもある勇者は暴風雨のな か、アンドロメダ姫を救出に向かいます。
もちろんこの暴風雨も機械じかけのトリッ クなんだけど、だからといって楽じゃない ですよ。………………というお話を語るよう要請さ れ、あたしは召喚されました。あたしは違 うお話の作中人物なんですが、なんであた しが指名されたんですかね。
▞ 戦禍切り裂け、明日への剣聖 ▞ 生まれる時代を間違えたサムライ、赤毛の少女魔導士と複座型の巨大騎兵を駆る!!
shiba
SF
【剣術 × 恋愛 With 巨大騎士】でお送りする架空戦記物です。
(※小説家になろう様でも先行掲載しております)
斑目蔵人(まだらめ くろうど)は武人である。ただし、平成から令和に替わる時代に剣客として飯が喰える筈も無く…… 気付けば何処にでもいるサラリーマンとなっていた。
化物染みた祖父に叩き込まれた絶技の数々は役立たずとも、それなりに独り暮らしを満喫していた蔵人は首都高をバイクで飛ばしていた仕事帰り、光る風に包まれて戦場に迷い込んでしまう。
図らずも剣技を活かせる状況となった蔵人の運命や如何に!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる