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第14話 そしてセントラルへ

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「嬢ちゃん。これをっ!」

 銃声のすぐあとに探偵さんの声が聞こえた。まさかと思ったけれど兵器の向こう側に探偵さんの姿が見える。手には拳銃。先ほどの銃声は探偵さんが放ったものだったということか。兵器も一撃を受けてターゲットを探偵さんに切り替えている。そのおかげで助かった。

 音を立ててナイフが兵器の下へ滑り込んだ。探偵さんが投げたのだ。少女が戦っている間、ずっとその様子を見ていたのか。逃げてくれと言ったのに。おせっかいな探偵さんだ。

 でも。おかげで助かった。さらに銃口が探偵さんの方を向いている今のうちに片をつけたい。

 満足いく勢いをつけられるほどの助走はできないけれど、兵器の下に滑り込みながらナイフを拾い上げるとそのまま力任せに胴体と接続部へ差し込む。

 しかし、やはり勢いをつけられてないので刺さりきらない。ならせめて、引き抜いて狙いを脚へと変える。脚の関節部を切りつけると効果があったようで、ガクンと兵器全体が下がった。

「あぶぇっ!」

 その影響で探偵さんが騒いでいるが気にしている余裕はない。もう一本。もう一本、それに気が付いた兵器が先ほどのブラシを回転させて少女めがけて襲い掛かってきた。それを避けるために探偵さんの方へ転がりながら兵器の下から脱出。

「嬢ちゃん。こいつなんとかなるのかよ」
「分からない! でもやるしかない」

 探偵さんに構っている余裕はホントになかった。兵器が体勢を立て直すと銃口がこちらに向く前に銃弾が飛び出し始めている。

 兵器も焦っている。

 おそらくここに侵入した中に戦闘能力が高い者がいなかったのだろう。外で戦った同系統の兵器に比べて経験値が足りない。

「手前の右側の脚を狙って!」

 探偵さんに対してそう叫ぶのと同時に駆け出した。助走は短いけれど勢いはつけることができる距離。探偵さんが返答もせずに正確に狙ったところへ銃弾を当ててくれた。兵器がよろめいた瞬間、少女は兵器を思いっきり蹴り上げた。

 兵器はひっくり返る。起き上がろうとするがそんな隙は与えない。唯一ナイフが刺さる脚との接合部に向かって飛び掛かった。

 鈍い金属音があたりに響き。銃声が収まる。

「やったのか?」

 探偵さんが小さくつぶやいている。それに反応するように兵器から歯車の音が勢いよく聞こえ出す。

「まだっ!」

 同じところ振りかぶってもう一度突き刺す。少女はそのれを繰り返し行うけれど兵器は動こうとしてるのか音は消えない。

「くそっ。やってやるよっ」

 探偵さんが飛び掛かってきたのが気配で分かる。少女に覆いかぶさるように体重を掛けながら一緒にナイフを掴んだ。

「いっけぇぇ!」

 少女も一緒になって力を込めた。連続して発生する金属音が通路を水が流れるかのように響き渡ったあと。兵器は止まった。

「も、もう動かないよな」

 そう少女から離れて、息を切らしている探偵さんがあまりに不思議で思わず見上げてしまう。

「なんで逃げなかったの?」

 言葉はすぐに返ってこなかった。少し恥ずかしそうにしているのはなぜだろうか。

「嬢ちゃんを置いて逃げれるわけないだろうが……」

 言いにくそうにぼそぼそと声に出す、その姿はなんだかおかしい。

「おい。嬢ちゃん、今笑ったのか?」

 探偵さんが驚いているが、少女は自分が笑うなんてことはない。そんな機能はないのだ。

「そう見えただけ。きっと気のせい」
「そうかぁ? なんか口元が動いた気がしたんだが……」

 ガシャン。

 探偵さんの言葉を遮るように少女達がやってきた方向から兵器の音がする。

「おい、二体目ってことだよな? もうやりあいたくないぜ?」

 少女も同意見だった。同じような動きができる保証がない。それくらい身体にガタが来ている。

「逃げようぜ」

 幸い、先に進める。迷いなく走り始める探偵さんの後を追う。でも、兵器も異変を察知してやってきたのだろう。その音は次第に近づいている。

「なぁ。この通路ってどこまで続いてるんだろうな」

 それが分からないまま走り続けるのは危険だ。直角に曲がることがなく緩やかなカーブを描き続けているこの通路は先の見通しが非常に悪い。それが逃げきれていることにもつながっているが、少女たちも先がまったく予想できないと言うことでもある。

 探偵さんにそれは不安であり恐怖を煽るには十分なことだったのだろう。それに、その不安はやがて絶望へと変わる。

「なぁ。音が反響してないか」

 探偵さんの言う通り抜けていた音が戻ってき始めた。兵器の移動する金属音が明らかに前方から返ってきてる。それが意味することは……。

「マジかよ」

 探偵さんが絶望混じりの声を出すけれど足を止めないのは後ろからのプレッシャーが強いからでしかない。本当は足を止めたいのだ。通路の先には壁があり、行き止まりになっている。でも……。

「これが初めての行き止まり。それに見て。壁の素材が通路のものとは違う。それにお姉さんがこの通路は必ずセントラルに繋がっていると言っていた」
「だったらなんだって言うんだ。もしかしてあれは塞いだもので突き破れるとか言い出すんじゃないだろうな?」

 意外と察しが良くて助かる。考えている暇はない。とっておいた銃弾を使うなら今。拳銃を引き抜くと壁に向かって連射。兵器の銃弾でもびくともしなかった壁とは違い、通路を塞いでいる壁には穴が空いた。そうしている間に後ろから兵器の姿が見え隠れしているのが確認できた。悩んでいる時間はない。このまま突き抜けなくては。

「その通り。さぁ。止まらないで突き破って」

 探偵さんの質量も利用しないととてもじゃないが少女ひとりでは突き破れそうにない。

「ああっ、もうっ。分かったよっ、やってやるよ。これが突き破れなかったら承知しないからなっ」

 探偵さんがやけくそになったみたいでスピードを上げた。少女もそれにおいて行かれないようについていく。

 後ろから銃声が聞こえる。兵器の射線上に入ってしまったらしい。

「くそっ。こんなことになるなら依頼なんて受けなけりゃよかったぜっ!」

 探偵さんの悲痛な叫びともに壁に激突。

「いてぇって!」

 多少崩れたものの、突き破ってはいない。

「もう一度」

 銃弾が少女をかすめて塞いでいる壁に当たった。穴が空く。これでもさらに脆くなった。助かる。

「せーの!」

 掛け声とともに体全体で突っ込む。衝撃の後に浮遊感が襲ってくる。無事に突き抜けたみたいでほっとするが、後ろから追ってきているのには違いない。慌てて起き上がる。

 開けた視界は通路を抜けたことを証明していた。空からは光も降り注いでいて、それを遮るように高い建物がそびえている。間違いなく脱出できた。できたのだけれど。

「いててて。嬢ちゃん? どうした。逃げないと奴が……って。おいおい。マジかよ」

 通路から抜けた先にはぐるりと囲むように黒服たちが待ち構えていたのだ。

「乱暴になるけど、探偵さんは必ず守るから。隙を見て逃げて」

 少女は腰を低くして戦闘態勢に入る。後ろからは兵器。前には黒服。勝算はほとんどない。

 黒服のひとりが一歩前に出る。それを見て少女はその黒服に襲い掛かるようにナイフを手にするが、慌ててその動きを止めた。

 おかしい。明らかに黒服から敵意が感じられない。

「お迎えに上がりました。塔の頂上で主《あるじ》がお待ちです。ご案内しますのでどうぞこちらへ」

 その言葉とともに黒服たちが道を作り始める。兵器の対応をする黒服たちもいるらしく、後方から兵器の気配が消えた。

「はぁ? なんだって言うんだ。なんのこっちゃまったく分からないぜ」

 探偵さんが騒いでいるけれど黒服たちはそちらを見向きもしない。少女だけを注視している。もしかして、彼らが少女を呼んだのだろうか。このセントラルへ。だとしたらどうしてセントラルの外では邪魔をしたの? 分からないことがたくさんある。でも、今の状況で逃げることも戦うことも生き残れる可能性は低い。であれば答えはひとつだ。

「わかった案内して」

 マジかよ。そう探偵さんがつぶやいた気がしたが。少女は構わず黒服たちの指示に従った。
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