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第9話 狙われる少女

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「おいおい。どうしたらこの短時間でそんなことになるんだよ」

 やっと見つけた探偵さんが呆れた顔をしている。なんだか分からないうちに増えていったチップをお姉さんに返したのだけれど。あなたが増やしたものだから持って行きなさい。探偵さんもきっと喜ぶから。と突き返されてしまった。

『セントラルの行き方はここじゃ、話せないからまた後でね』とお姉さんにささやかれそのまま別れた。どこで打ち合うとか何も言っていなかったのだけれど、きっと大丈夫だと妙な安心感が生まれている。あのお姉さんは何者だったのだろう。

「分からない。気が付いたらこれだけくれた」
「くれたって、何があったんだよ。こっちがすっからかんになったって言うのに。まあいいや本来の目的は達成できたしな。さっさとおさらばしようぜ。そのチップもありがたく換金させてもらうしな」

 よく分からないまま。探偵さんにチップを渡すと、出口へと向かう。どうやら探偵さんもセントラルの情報を掴んだみたい。それを口にしないってことは外の方が安全だからか。お姉さんのことを話そうと思ったけれど、それも後回しで良さそうだ。

 探偵さんがなにやらチップを係員に渡して、手続きをしている。それをただ見ていただけなのだが、後ろから嫌な気配がして少女は振り向いた。

 しかし、カジノの中には大勢いて、どこから視線を向けられているのか分からない。

「ん? どうしたんだ嬢ちゃん。終わったから行くぞ」

 お金の入っている袋を受け取った探偵さんに呼ばれた。視線の主は気になったままだけれど、大人しくカジノを出る。久しぶりの外は穏やかで落ち着ける。カジノの中がいかに騒がしかったのかが分かる。

 カジノは普通のビルの地下にあった。入るときには探偵さんが色々、交渉をしていたのだけれど、出るときは仮面を回収されただけだった。まあ、そういうところなのだろう。入るのは難しいが出るのは容易だ。

 それに昼頃に入ったはずなのに辺りはもう暗くなっている。まあ、これは予定通り。明るいうちに動き回るのは避けようと、探偵さんに提案されたのだ。

 仮面の効果もあったのかもしれないし、まさかのんきにカジノで遊んでいるだなんて思わなかったのかもしれないが黒服たちは見失ってくれたみたいだ。

「おいおい。随分と稼いでたみたいじゃねぇか。よかったらそのお金、俺らに譲っちゃくれねぇか?」

 そう威勢のいい言葉を放ちながら数名の男性が後ろから近付いてきた。一瞬だけ、緊張が走ったがどうやら黒服たちでないことと悟ると探偵さんと顔を見合わせる。

「こんなところで騒ぎは起こしたくないよな?」

 探偵さんはだれに話しかけているのだろうか。少女はちょっと悩んだのちに、自分胃だと言う事に気が付いたが、もうそれは遅かったみたいで。

「だよなぁ? だったら素直に譲ってくれた方が賢いと思うぜ?」

 男のひとりが探偵さんの言葉で調子に乗る。あなたじゃない。そう言ってやりたかったけれど。ナイフを取り出してきて様子が変わった。ちょっと荒っぽくなってしまうけれど片付けてしまおうか。でも、騒ぎに案れば黒服たちに見つけられる可能性だってある。

「おい。嬢ちゃん、逃げるぜ」

 探偵さんが耳打ちしてくる。こそばゆいし、なんかちょっと恥ずかしい。

「逃がすかよっ」

 逃げようとしているのが分かったのか男たちは探偵さんと少女を囲むように広がった。とは言え、少人数。隙間はいくらでもあるし、強固突破も出来る。でもそれは少女ひとりだったらの話だ。探偵さんも連れて行くとなるとちょっとだけ苦しい。相手を始末しないといけない。でも、できればそれはしたくないのだ。

「お嬢ちゃんこっち!」

 お嬢ちゃんと呼ぶのなんて探偵さんくらいのものだと言うのに探偵さんはとなりで一緒に驚いている。少女の事を呼んだのはカジノで出会ったお姉さんだ。なぜこんなところへ。そんな疑問よりも先に体が動いた。囲んでいた連中もその声に反応して注意が散漫になっていたので、すり抜けるのは楽勝だった。でも、それは少女は。の話だ。探偵さんは動き始めが少し遅れた。

「探偵さんっ!」

 慌てて戻ろうとしたけれど、近くまで来ていたお姉さんに腕をつかまれて止められる。相当な力の持ち主であることがそれで分かったが、今はそんなことより探偵さんが心配。

「ははっ。逃がすわけないだろうがよ。金を持ってるのはアンタだ。それをよこせ。そしたら無事に逃がしてやるよ」

 そんなお金なんて今は少女にとってはどうでもいい。でも、探偵さんには必要なものなのだ。だって、依頼料なんて言って膨大な金額を請求したのだ。少女がお金が必要なのだときっとそう思っている。あんなことを言わなければさっさと手放したかもしれないのに。

 いっそのこと拳銃を抜いて、連中を殺してしまおうか。すぐに騒ぎになるだろうし、黒服たちも見るけられてせっかく見つけたセントラルへの行き方、どころではなくなる可能性も高い。でも、だからって探偵さんを見捨てられそうもない。

『なんで?』

 途端に思考に邪魔が入る。

『探偵さんなんて関係ないじゃない。ここは切り捨てるべきでしょう?』

 これまでそうやって任務を少女はこなしてきた。そうしなければ生き残れなかった。ひとつの判断ミスは次第にその状況を悪化させる。そうすれば生きては帰れないのがこの世界の常識だ。この街は少しだけそれに当てはまらないみたいだけれど、根本はきっと変わらない。

 そして、その任務を生き残ってきた感が告げるのだ。ここで黒服たちに見つかるのはいけない。探偵さんは切り捨てるべきだ。それが言葉になって少女を制止させた。

「あいにくこれは俺の金じゃないんでね。くれてやるわけにはいかないなぁ」

 探偵さんが叫んでお金を守るように体を小さくさせる。

「嬢ちゃん今のうちに行け。そのおっさんが手助けしてくれるんだろっ! だったら俺の事は気にしたくていいから先に進むんだ。この金は必ず持って帰ってやるから心配すんな」
「くっ。こいつ、何を生意気言ってやがるんだ。この状況でそんなことが許されるはずないだろっ!」

 連中が探偵さんをじりじりと囲みをその輪を狭めていく。その様子を見て、少女の中で何かが弾けた。拳銃を抜いて、撃った。弾は少ないので確実に当たるところ。胴体を狙ってだ。人数分も足りなかったので、探偵さんが逃げられるようにしたつもり。

「あなた、逃げるわよ」

 お姉さんに強引に手を引っ張られる。探偵さんも戸惑いながら後をついてきているようだ。

「嬢ちゃん。なんで撃った? これで黒服たちがやってくるぞ」
「分からない。でも探偵さんを逃がさなきゃって。それで夢中になってた」
「はあ。そんなことで」
「あなたち、厄介なことに首を突っ込んでるのね。まあ、セントラルに行きたいって言うくらいだし、当然ね。身を隠すのならいい場所があるの。私についてきて」

 今はお姉さんのいう通りにするしかなさそうだった。
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