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第3話 ハードボイルド? な探偵さん
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どうして私の場所が分かるのだろう。逃げても逃げても現れる黒服たちを倒しては逃げて、追い払っては身を隠し、探偵事務所にたどり着いたのは随分と時間が経ってしまっていた。
もうすっかり深夜だ。あたりの街頭も消え始めていた。その中でも、この探偵事務所周辺は比較的明るかった。探偵事務所の明かりも消えていなかったのでホッとしたりもした。
探偵事務所のドアをノックなしで思い切り開ける。
「ここは嬢ちゃんが来るような所じゃないぜ」
猫を追っていた探偵さんだ。でも、反応から見るにこちらのことを気がついていないみたいだ。随分とキレイにしてもらったのに。少し残念。
「追われてるの……」
そんなこと言われたって、ここ以外に頼れる場所を知らない。探しものもしてくれると言うのだ。こんなに都合のいい場所はない。
「だったら余計にここじゃないほうがいい」
なぜそんなことを言うのだろう。ここは探偵事務所で、探偵事務所は来客を歓迎するものじゃないのか。
「あなた探偵でしょ?」
否定はしない。ならばなぜ断るのだ。訳が分からないことを言う探偵さんだ。でも、この人は優しくしてくれた。もしかしたら心配してくれているだけなのかもしれない。それならば余計なお世話。ここで譲るわけにも行かない。
「嬢ちゃん。それはここが探偵事務所だからか? それもとも俺があまりにダンディでハードボイルドだからかい?」
急に変なことを問いかけられた。やっぱりこの探偵さんに決めたのは失敗だったのだろうか。見定めるようにもう一度探偵さんを観察する。
最初見立てた通り、探偵事務所もそれなりに整っているがそれなりに散らかっている。汚れとかではなくて、いろんなものが煩雑に置かれているのだ。整理整頓が苦手。
探偵さんの目の前にだって火が消えきっていないタバコが灰皿の中に転がっている。それも何本もだ。
「オーケー……オーケーだ。依頼内容はなんだい。追っ手から身を隠したいのか。一時的に隠れる場所でいいかいのか。それとも身分と偽装した経歴とかか」
ふむ。どうだろうか。街の中心に行くにはどれも必要なものに思えた。
「全部……」
それは流石に要求しすぎただろうか。驚いた探偵さんの表情が面白くて思わず顔が緩む。
「ぜ、全部って……」
探偵さんがようやく絞り出した言葉はなんとも情けない声色だった。仕方がないので街の中心に行きたいと伝えることにするか。
「それは……」
けれど。そんな言葉も衝撃と銃声によって遮られる。もう追いついてきたのか。いくら逃げ回っても撒けないなんて、なにか発信機でもつけられているのだろうか。しかし、そんな覚えはない。
多数の銃弾が窓から事務所に飛び込んできている。探偵さんは……そそくさと机の影に隠れられたみたいだ。身体に銃弾が掠めたりもするが、致命傷にはならないように身体を動かす。
探偵さんが何かを叫んでいるが、あまりの銃声のうるささにまったく聞こえない。そうしているうちに、銃声が止まる。諦めたのか、それとも突入してくるつもりか。
「嬢ちゃん、大丈夫かい」
探偵さんが机から顔を覗かす。こんな状況でもこちらを心配してくれるのか。
「大丈……」
そう答えようとした時だ。壊れかけている探偵事務所のドアが蹴破られる。中に入ってきたのは大男だ。黒服の中でも腕っぷしに自信がありそうな見た目をしている。自分の腹部くらいはありそうな腕が襲ってくる。
「あぶねぇっ」
「えっ」
不意に腕を引っ張られた。探偵さんだ。びっくりして大人しく引っ張られてしまう。そんな心配しなくてもいいのに。
「こっちだ」
なぜだか壁に向かって走り始めている。そんな方向に逃げ場はない。
「ぶつかる」
「黙って見てな」
探偵さんは勢いよく壁を蹴り飛ばした。簡単に壁が崩れ、その先に階段が見えた。
「探偵さんってこんなのが必要なの」
こんな脱出経路が必要なほど危険な仕事を請け負っているのだろうか。
「急げ」
探偵さんに背中を押されて階段を降りる。探偵さんが机を動かして簡単にこちらへ来られないようにしている。意外と冷静なんだ。思っている以上に修羅場をくぐり抜けているのかも。
後ろから銃声が聞こえる。探偵さんに当たっていないことを確認すると再び階段を降り始める。
鉄骨の階段をリズムよく鳴らしながらふたりで駆け下りる。三階だった探偵事務所から一個下の階まで降りた頃、階段を鳴らす足音が追加された。黒服たちが机を壊して追いかけて来ているのだ。
探偵さんはちょっと足が遅いみたい。置いていくわけにも行かないから階段を駆け下りる速度を少し調整しながらカンカンと音を立てる。それがなんだか心地よい。
「おい。あんなに荒っぽい連中から守ってやることなんてできないぞ。それに嬢ちゃんなら自分でなんとかなるんじゃないのか」
もっともだ。でもやろうとしたら探偵さんが止めたに等しい。わざわざ逃げるんだもの。
「殺すことはできる。でも、そのあとが難しい」
こんな目立つところで殺すわけにはいかない。もっと追手が来るかもしれない。逃げ回っているだけの少女。そう思わせておいたほうが都合がいいはず。でも、それにしてはしつこい。やっぱり殺してしまおうか。
「はぁ? 嬢ちゃんはなに言ってるんだ」
探偵さんはなぜだか驚いたようだ。なんとかできるか聞かれたから正直に答えただけなのに。不思議だ。
「事実を言っただけ。なにかおかしことがあった?」
そんな会話をしているうちに地上へとたどり着く。探偵さんは明るくて人が多い方向へと走り出した。少し走ったあたりで探偵さんは言いづらそうに口を開く。
「嬢ちゃんは殺すとか簡単に口にするのね」
殺すのは任務だからだ。そこに簡単とか、余計な感情を持ち合わせてはいない。やらなければ自分が殺られる。それだけだ。
「簡単……よくわからない。殺すのは普通のこと」
だからそう答えたのだけれど、探偵さんは納得しなかったようだ。渋い顔をしている。
階段を駆け下りる音が聞こえてこなくなったのはそれと同時だった。黒服たちも地上へと降り立つ。あたりを確認すると人が何事かとこちらを見ている。
うん。ちょっとだけ危険な感じ。
こう言った予感は当たるもので、銃声が鳴り響き、周りにいた人たちは混乱し始める。叫んだり、頭を抱えて震えたり、逃げ惑ったり。反応は様々だけれど、流れ弾で死人がでるのも時間の問題。おそらく探偵さんは人がいれば強引な行動には出ないと判断したのだろうけれど、そんなことにはお構いなしの連中みたい。
「おいおい。マジかよ」
それが証拠に探偵さんの顔から血の気が引いていく。仕方がない。少しこちからか動かなくては。
「こっち」
ひとつ先の角を右に曲がる。よく知らない道だけど、こんなに人がいるところよりマシ。そのはずだった。
「行き止まり」
そんな入り組んだ街だとは思わなかった。まさか行き止まりだなんて。黒服たちがあっという間に取り囲む。
「いや、道を知ってるんじゃないのね」
黒服たちが拳銃を構えた。その数は四人。
「ああ。俺もここまでか」
探偵さんが何かを諦めたような声を出す。手段を選ばなければどうってことない状況だ。太ももに装備した拳銃に右手が伸びる。
「探偵さんは助けてほしいの?」
探偵さんはそれに驚いた表情を見せるでもなく、先程とは違う諦めの目をする。こちらに対しての哀れみの感情が見え隠れしている。そんな目だ。それに加えて安堵も見える。頼めばなんとかしてくれる。そんな風に考えているのかもしれない。
「ん。そりゃそうだろ。助けてくれる人がいるならな」
先程と同じ黒服の人。一番体格の大きい人が警戒しながらも捕らえようとしているのか、拳銃を構えたまま近づいてくる。太くて大きな腕がニュッと伸びてくる。
その手に捕らわれる前に、左手で伸びてきた腕を掴んだ。そして動かなくなったを確認して確信する。やっぱりこの街の人達は力が弱い。自分が特別だなんて考えたこともなかったけれど。元々、こういうことをするために作られた存在だ。
少女の姿をした自分より屈強は筋肉隆々な男性のほうが力が弱い。そういうこともあるのかもしれない。
力を入れると腕の中に仕込まれた機械が高音でかすかにうねりを上げる。出力も限界に近いが、腕をへし折るくらいはできそう。
力任せに腕をひねる。乾いた音とともに、腕がおかしな方向へ曲がった。低い唸り声のような悲鳴があがる。その腕を振り払いながら探偵さんを確認する。呆けているのかマヌケな顔をしている。
「わかった。大丈夫。あなたは私が守るから」
右の太ももに取り付けた拳銃を引き抜くと。躊躇なく撃ち放つ。続けて左も引き抜く。それも撃ち続ける。あっという間に弾倉の中身が尽きる。その間に黒服たちがなにもしないわけではない。必死に抵抗してくるし、銃弾は少女自身の身体を貫く。痛みはある。皮膚はさけ、ただでさえ見え始めていた身体の中身である機械が露出していく。けれど、それで止まる理由にはならない。倒れた黒服から銃を奪い取って、再び撃つ。
動く度にスカートが宙に舞う。白かったそのワンピースに染みが広がっていく。それは黒服たちの流した液体だったり少女自身から漏れ出る液体だったり。
ああ。せっかく誂えてもらったワンピースが台無しだ。それは本当に残念な事だと思う。
再び弾倉が空になるころ黒服たちは動かなくなった。
「大丈夫?」
探偵さんは一歩も動かなったみたいだ。
「……追われてるのは分かった。でも、ひとりの方が逃げやすいだろう。なんで俺を頼る」
動かないで何を考えているかと思ったら、そんなこと。
「それは……」
突然視界が揺れる。どうやら休みなしに動きすぎたらしい。身体が急に限界を迎えた。
「お、おいっ」
探偵さんは支えてくれようとしているらしい。でも、探偵さんの腕力ではおそらく……。
「おもてぇっ!」
ちょっとは衝撃を緩めてくれたのだろうか。地面へと倒れ込む。これは私が悪い。そう思いながらもどうしようもない身体を動かそうとする。
無理。そうそうに動かすのを諦める。
「いたたたた……おい大丈夫か?」
探偵さんが真上から心配そうに覗き込んでいる。
「大丈夫。少し疲れただけ。少しだけ眠る。五分で起きる」
動くだけならきっとそれだけあれば十分。そうだといいなと、思いながら目を閉じた。
もうすっかり深夜だ。あたりの街頭も消え始めていた。その中でも、この探偵事務所周辺は比較的明るかった。探偵事務所の明かりも消えていなかったのでホッとしたりもした。
探偵事務所のドアをノックなしで思い切り開ける。
「ここは嬢ちゃんが来るような所じゃないぜ」
猫を追っていた探偵さんだ。でも、反応から見るにこちらのことを気がついていないみたいだ。随分とキレイにしてもらったのに。少し残念。
「追われてるの……」
そんなこと言われたって、ここ以外に頼れる場所を知らない。探しものもしてくれると言うのだ。こんなに都合のいい場所はない。
「だったら余計にここじゃないほうがいい」
なぜそんなことを言うのだろう。ここは探偵事務所で、探偵事務所は来客を歓迎するものじゃないのか。
「あなた探偵でしょ?」
否定はしない。ならばなぜ断るのだ。訳が分からないことを言う探偵さんだ。でも、この人は優しくしてくれた。もしかしたら心配してくれているだけなのかもしれない。それならば余計なお世話。ここで譲るわけにも行かない。
「嬢ちゃん。それはここが探偵事務所だからか? それもとも俺があまりにダンディでハードボイルドだからかい?」
急に変なことを問いかけられた。やっぱりこの探偵さんに決めたのは失敗だったのだろうか。見定めるようにもう一度探偵さんを観察する。
最初見立てた通り、探偵事務所もそれなりに整っているがそれなりに散らかっている。汚れとかではなくて、いろんなものが煩雑に置かれているのだ。整理整頓が苦手。
探偵さんの目の前にだって火が消えきっていないタバコが灰皿の中に転がっている。それも何本もだ。
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「全部……」
それは流石に要求しすぎただろうか。驚いた探偵さんの表情が面白くて思わず顔が緩む。
「ぜ、全部って……」
探偵さんがようやく絞り出した言葉はなんとも情けない声色だった。仕方がないので街の中心に行きたいと伝えることにするか。
「それは……」
けれど。そんな言葉も衝撃と銃声によって遮られる。もう追いついてきたのか。いくら逃げ回っても撒けないなんて、なにか発信機でもつけられているのだろうか。しかし、そんな覚えはない。
多数の銃弾が窓から事務所に飛び込んできている。探偵さんは……そそくさと机の影に隠れられたみたいだ。身体に銃弾が掠めたりもするが、致命傷にはならないように身体を動かす。
探偵さんが何かを叫んでいるが、あまりの銃声のうるささにまったく聞こえない。そうしているうちに、銃声が止まる。諦めたのか、それとも突入してくるつもりか。
「嬢ちゃん、大丈夫かい」
探偵さんが机から顔を覗かす。こんな状況でもこちらを心配してくれるのか。
「大丈……」
そう答えようとした時だ。壊れかけている探偵事務所のドアが蹴破られる。中に入ってきたのは大男だ。黒服の中でも腕っぷしに自信がありそうな見た目をしている。自分の腹部くらいはありそうな腕が襲ってくる。
「あぶねぇっ」
「えっ」
不意に腕を引っ張られた。探偵さんだ。びっくりして大人しく引っ張られてしまう。そんな心配しなくてもいいのに。
「こっちだ」
なぜだか壁に向かって走り始めている。そんな方向に逃げ場はない。
「ぶつかる」
「黙って見てな」
探偵さんは勢いよく壁を蹴り飛ばした。簡単に壁が崩れ、その先に階段が見えた。
「探偵さんってこんなのが必要なの」
こんな脱出経路が必要なほど危険な仕事を請け負っているのだろうか。
「急げ」
探偵さんに背中を押されて階段を降りる。探偵さんが机を動かして簡単にこちらへ来られないようにしている。意外と冷静なんだ。思っている以上に修羅場をくぐり抜けているのかも。
後ろから銃声が聞こえる。探偵さんに当たっていないことを確認すると再び階段を降り始める。
鉄骨の階段をリズムよく鳴らしながらふたりで駆け下りる。三階だった探偵事務所から一個下の階まで降りた頃、階段を鳴らす足音が追加された。黒服たちが机を壊して追いかけて来ているのだ。
探偵さんはちょっと足が遅いみたい。置いていくわけにも行かないから階段を駆け下りる速度を少し調整しながらカンカンと音を立てる。それがなんだか心地よい。
「おい。あんなに荒っぽい連中から守ってやることなんてできないぞ。それに嬢ちゃんなら自分でなんとかなるんじゃないのか」
もっともだ。でもやろうとしたら探偵さんが止めたに等しい。わざわざ逃げるんだもの。
「殺すことはできる。でも、そのあとが難しい」
こんな目立つところで殺すわけにはいかない。もっと追手が来るかもしれない。逃げ回っているだけの少女。そう思わせておいたほうが都合がいいはず。でも、それにしてはしつこい。やっぱり殺してしまおうか。
「はぁ? 嬢ちゃんはなに言ってるんだ」
探偵さんはなぜだか驚いたようだ。なんとかできるか聞かれたから正直に答えただけなのに。不思議だ。
「事実を言っただけ。なにかおかしことがあった?」
そんな会話をしているうちに地上へとたどり着く。探偵さんは明るくて人が多い方向へと走り出した。少し走ったあたりで探偵さんは言いづらそうに口を開く。
「嬢ちゃんは殺すとか簡単に口にするのね」
殺すのは任務だからだ。そこに簡単とか、余計な感情を持ち合わせてはいない。やらなければ自分が殺られる。それだけだ。
「簡単……よくわからない。殺すのは普通のこと」
だからそう答えたのだけれど、探偵さんは納得しなかったようだ。渋い顔をしている。
階段を駆け下りる音が聞こえてこなくなったのはそれと同時だった。黒服たちも地上へと降り立つ。あたりを確認すると人が何事かとこちらを見ている。
うん。ちょっとだけ危険な感じ。
こう言った予感は当たるもので、銃声が鳴り響き、周りにいた人たちは混乱し始める。叫んだり、頭を抱えて震えたり、逃げ惑ったり。反応は様々だけれど、流れ弾で死人がでるのも時間の問題。おそらく探偵さんは人がいれば強引な行動には出ないと判断したのだろうけれど、そんなことにはお構いなしの連中みたい。
「おいおい。マジかよ」
それが証拠に探偵さんの顔から血の気が引いていく。仕方がない。少しこちからか動かなくては。
「こっち」
ひとつ先の角を右に曲がる。よく知らない道だけど、こんなに人がいるところよりマシ。そのはずだった。
「行き止まり」
そんな入り組んだ街だとは思わなかった。まさか行き止まりだなんて。黒服たちがあっという間に取り囲む。
「いや、道を知ってるんじゃないのね」
黒服たちが拳銃を構えた。その数は四人。
「ああ。俺もここまでか」
探偵さんが何かを諦めたような声を出す。手段を選ばなければどうってことない状況だ。太ももに装備した拳銃に右手が伸びる。
「探偵さんは助けてほしいの?」
探偵さんはそれに驚いた表情を見せるでもなく、先程とは違う諦めの目をする。こちらに対しての哀れみの感情が見え隠れしている。そんな目だ。それに加えて安堵も見える。頼めばなんとかしてくれる。そんな風に考えているのかもしれない。
「ん。そりゃそうだろ。助けてくれる人がいるならな」
先程と同じ黒服の人。一番体格の大きい人が警戒しながらも捕らえようとしているのか、拳銃を構えたまま近づいてくる。太くて大きな腕がニュッと伸びてくる。
その手に捕らわれる前に、左手で伸びてきた腕を掴んだ。そして動かなくなったを確認して確信する。やっぱりこの街の人達は力が弱い。自分が特別だなんて考えたこともなかったけれど。元々、こういうことをするために作られた存在だ。
少女の姿をした自分より屈強は筋肉隆々な男性のほうが力が弱い。そういうこともあるのかもしれない。
力を入れると腕の中に仕込まれた機械が高音でかすかにうねりを上げる。出力も限界に近いが、腕をへし折るくらいはできそう。
力任せに腕をひねる。乾いた音とともに、腕がおかしな方向へ曲がった。低い唸り声のような悲鳴があがる。その腕を振り払いながら探偵さんを確認する。呆けているのかマヌケな顔をしている。
「わかった。大丈夫。あなたは私が守るから」
右の太ももに取り付けた拳銃を引き抜くと。躊躇なく撃ち放つ。続けて左も引き抜く。それも撃ち続ける。あっという間に弾倉の中身が尽きる。その間に黒服たちがなにもしないわけではない。必死に抵抗してくるし、銃弾は少女自身の身体を貫く。痛みはある。皮膚はさけ、ただでさえ見え始めていた身体の中身である機械が露出していく。けれど、それで止まる理由にはならない。倒れた黒服から銃を奪い取って、再び撃つ。
動く度にスカートが宙に舞う。白かったそのワンピースに染みが広がっていく。それは黒服たちの流した液体だったり少女自身から漏れ出る液体だったり。
ああ。せっかく誂えてもらったワンピースが台無しだ。それは本当に残念な事だと思う。
再び弾倉が空になるころ黒服たちは動かなくなった。
「大丈夫?」
探偵さんは一歩も動かなったみたいだ。
「……追われてるのは分かった。でも、ひとりの方が逃げやすいだろう。なんで俺を頼る」
動かないで何を考えているかと思ったら、そんなこと。
「それは……」
突然視界が揺れる。どうやら休みなしに動きすぎたらしい。身体が急に限界を迎えた。
「お、おいっ」
探偵さんは支えてくれようとしているらしい。でも、探偵さんの腕力ではおそらく……。
「おもてぇっ!」
ちょっとは衝撃を緩めてくれたのだろうか。地面へと倒れ込む。これは私が悪い。そう思いながらもどうしようもない身体を動かそうとする。
無理。そうそうに動かすのを諦める。
「いたたたた……おい大丈夫か?」
探偵さんが真上から心配そうに覗き込んでいる。
「大丈夫。少し疲れただけ。少しだけ眠る。五分で起きる」
動くだけならきっとそれだけあれば十分。そうだといいなと、思いながら目を閉じた。
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