18 / 33
18「停留地にて」
しおりを挟む
輸送隊列は停留地で休憩してから隊列を組み直しました。私たちは最後尾となり、護衛冒険者はシルヴが付きます。大穀倉地帯は終り、周囲は森の風景になってきました。
「俺たちがしんがりかよ。護衛の報酬なんてもらってねえぞ」
「俺が働きますから、ジョルジュさんは手綱だけ握っていて下さい――。おっと、行ってきます」
シルヴは颯爽と操者席から飛び降り森に入りました。
「ねえ、ジョルジュ。一人で大丈夫なの?」
「あいつは本当に強いんだ。それに馬鹿じゃないし、強敵ならそれなりに対処するさ。たぶん騎士だな」
「そうなの? 貴族ってこと?」
「たぶんね」
そう言ってから、ジョルジュは私を振り返ります。
「そんな雰囲気はありますね。身分を隠して、他の街で冒険者修行する貴族子弟は多いと聞きます。たぶん私と同じ休学組なのでしょう」
「貴族様って、やはり大変なのねえ」
「そりゃ、そうだ。ソロの冒険者は危ないのになあ……」
ラシェルは屋敷でバシュラール家の苦境も、政争も日常として見ています。ジョルジュさんは冒険者の観点から考えるのでしょう。
夕刻も近くなり輸送隊列は村の停留地に到着いたしました。いくつかの農家と小さな旅の宿、レストランなどがあります。
第一王都までは、移動だけなら十四日ほどの日程となりますが、私にはある計画がありました。中間にある中規模の街から山岳部への迂回路に入り、ある村へと行くのです。
「ディアーヌ。宿まで御一緒しましょうか?」
「なんか、言葉遣いがバラバラですね。会話も冒険者同士にしましょう」
「はい」
「一人で大丈夫です。本当はそちらに合流したいのですが」
私だけ単独行動はやっぱり面白くありません。輸送隊列の人たちは荷を守りつつキャンプで一夜を明かします。
「それは旦那様との約束ですから」
「うん。あとで、一人で散歩してみるわ」
「注意して下さい――」
「大丈夫、大丈夫。ほんの近くよ」
心配するラシェルと分かれて短い剣を腰に差し、私一人で宿屋に向かいました。
チェックインして部屋を見てから、もう一度外に出ます。街道を戻ってから農道に入ります。そろそろ仕事仕舞いする農夫とたちを横目に見ながら森に入りました。
「やっとディアーヌを、破棄令嬢なんて呼ぶ連中がいないところに来たね」
精霊のアスモデウスさんが現われました。リスのつぶらな瞳で私を見つめます。
「あなたの好きな場所に来ましたね」
「僕は森を住処にしているわけじゃないよ」
私に背中を向けて、どこかに導くように空中を進みます。
「さて、逃げ出して、いったいどこに向かうのかな」
逃げたとは心外です。一時退避と言って欲しいですね。
「第一王都を訪ねるだけです。寄り道はしますけど」
「タンプルに行くの?」
「アスモデウスさんが教えてくれたのですよ?」
「そんなに興味を持つとはね……」
街道の迂回路、山岳部にある鉱山の街がタンプルです。
「魔獣は小物もいませんね」
【探知】を使い安全を確認しながら進みます。私だってそれなりに戦えるのですから少しは、と思っていたのですが……。
「来たね」
「え? 何がですか?」
「魔力がさ……」
私の【探知】にも接触いたしました。それは青く鋭利な、それでいて爽やかな風のような魔力。
「人です」
「君の魔力は押さえてね。相手も感じる」
「はい……」
精霊は姿を消しました。
「俺たちがしんがりかよ。護衛の報酬なんてもらってねえぞ」
「俺が働きますから、ジョルジュさんは手綱だけ握っていて下さい――。おっと、行ってきます」
シルヴは颯爽と操者席から飛び降り森に入りました。
「ねえ、ジョルジュ。一人で大丈夫なの?」
「あいつは本当に強いんだ。それに馬鹿じゃないし、強敵ならそれなりに対処するさ。たぶん騎士だな」
「そうなの? 貴族ってこと?」
「たぶんね」
そう言ってから、ジョルジュは私を振り返ります。
「そんな雰囲気はありますね。身分を隠して、他の街で冒険者修行する貴族子弟は多いと聞きます。たぶん私と同じ休学組なのでしょう」
「貴族様って、やはり大変なのねえ」
「そりゃ、そうだ。ソロの冒険者は危ないのになあ……」
ラシェルは屋敷でバシュラール家の苦境も、政争も日常として見ています。ジョルジュさんは冒険者の観点から考えるのでしょう。
夕刻も近くなり輸送隊列は村の停留地に到着いたしました。いくつかの農家と小さな旅の宿、レストランなどがあります。
第一王都までは、移動だけなら十四日ほどの日程となりますが、私にはある計画がありました。中間にある中規模の街から山岳部への迂回路に入り、ある村へと行くのです。
「ディアーヌ。宿まで御一緒しましょうか?」
「なんか、言葉遣いがバラバラですね。会話も冒険者同士にしましょう」
「はい」
「一人で大丈夫です。本当はそちらに合流したいのですが」
私だけ単独行動はやっぱり面白くありません。輸送隊列の人たちは荷を守りつつキャンプで一夜を明かします。
「それは旦那様との約束ですから」
「うん。あとで、一人で散歩してみるわ」
「注意して下さい――」
「大丈夫、大丈夫。ほんの近くよ」
心配するラシェルと分かれて短い剣を腰に差し、私一人で宿屋に向かいました。
チェックインして部屋を見てから、もう一度外に出ます。街道を戻ってから農道に入ります。そろそろ仕事仕舞いする農夫とたちを横目に見ながら森に入りました。
「やっとディアーヌを、破棄令嬢なんて呼ぶ連中がいないところに来たね」
精霊のアスモデウスさんが現われました。リスのつぶらな瞳で私を見つめます。
「あなたの好きな場所に来ましたね」
「僕は森を住処にしているわけじゃないよ」
私に背中を向けて、どこかに導くように空中を進みます。
「さて、逃げ出して、いったいどこに向かうのかな」
逃げたとは心外です。一時退避と言って欲しいですね。
「第一王都を訪ねるだけです。寄り道はしますけど」
「タンプルに行くの?」
「アスモデウスさんが教えてくれたのですよ?」
「そんなに興味を持つとはね……」
街道の迂回路、山岳部にある鉱山の街がタンプルです。
「魔獣は小物もいませんね」
【探知】を使い安全を確認しながら進みます。私だってそれなりに戦えるのですから少しは、と思っていたのですが……。
「来たね」
「え? 何がですか?」
「魔力がさ……」
私の【探知】にも接触いたしました。それは青く鋭利な、それでいて爽やかな風のような魔力。
「人です」
「君の魔力は押さえてね。相手も感じる」
「はい……」
精霊は姿を消しました。
7
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説
虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?
リオール
恋愛
両親に虐げられ
姉に虐げられ
妹に虐げられ
そして婚約者にも虐げられ
公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。
虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。
それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。
けれど彼らは知らない、誰も知らない。
彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を──
そして今日も、彼女はひっそりと。
ざまあするのです。
そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか?
=====
シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。
細かいことはあまり気にせずお読み下さい。
多分ハッピーエンド。
多分主人公だけはハッピーエンド。
あとは……
あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです
じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」
アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。
金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。
私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。
【R15】婚約破棄イベントを無事終えたのに「婚約破棄はなかったことにしてくれ」と言われました
あんころもちです
恋愛
やり直しした人生で無事破滅フラグを回避し婚約破棄を終えた元悪役令嬢
しかし婚約破棄後、元婚約者が部屋を尋ねに来た。
そんな事も分からないから婚約破棄になるんです。仕方無いですよね?
ノ木瀬 優
恋愛
事あるごとに人前で私を追及するリチャード殿下。
「私は何もしておりません! 信じてください!」
婚約者を信じられなかった者の末路は……
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
大好きな第一王子様、私の正体を知りたいですか? 本当に知りたいんですか?
サイコちゃん
恋愛
第一王子クライドは聖女アレクサンドラに婚約破棄を言い渡す。すると彼女はお腹にあなたの子がいると訴えた。しかしクライドは彼女と寝た覚えはない。狂言だと断じて、妹のカサンドラとの婚約を告げた。ショックを受けたアレクサンドラは消えてしまい、そのまま行方知れずとなる。その頃、クライドは我が儘なカサンドラを重たく感じていた。やがて新しい聖女レイラと恋に落ちた彼はカサンドラと別れることにする。その時、カサンドラが言った。「私……あなたに隠していたことがあるの……! 実は私の正体は……――」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる