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30『再会と別れ』
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バルコニーのお披露目は数日続きました。
帝都の民は熱狂しながらも、落ち着きを取り戻しつつあります。
アテマ王国から援助の物資が続々と届きました。空腹が満たされ、そして未来も少しだけ照らされ、人々は明るさを取り戻しております。
「さて、これからが問題か。来たな……」
そしてあの人がついにやって来ました。厳しい表情で周囲を見回しながらも、少し顔がほころびます。やっぱり懐かしいのですよね。
「久しぶりの我が家は騒々しいこと」
皇妃様が殿下の五つ下の妹、皇女様と共に皇城へと入城されたのです。
「母上、お久しぶりですね。お元気でしたか」
「私は元気だけれど。彼は?」
「座敷牢で蟄居してもらっております」
「どうするつもりなのかしら?」
「どこか僻地の別荘で監視付きの生活ですよ。処刑するつもりはありませんから、ご安心を」
「反省しているのかしらね? 私も同行してしっかり性根を叩き直してあげます」
「それは結構ですね。ぜひお願いしたい。それと――」
「お兄様……」
妹様は殿下に駆け寄り抱きつきます。
「――アリーチェ……。見違えたよ。もう立派な令嬢だ」
私の強力なライバル出現と言えるでしょう。
その様子に目を細めてから、皇妃様は私をチラリと見ました。
「私は賛成いたします。よくぞセラフィーノを決断させました」
「いや、私は自分で決断いたしましたよ」
「なにもここをアテマにする必要はないのよ。帝国は帝国だからこそ、平和なのですから」
「分かっております」
「あなたは帝国の男。そして妻はアテマの女。それがブルクハウセンですから」
どうやら私は認められようです。これが私の成功です。
革命は成功いたしました。
現在の生活に不満を持つ人々。仕事を奪われたメイドたち。そして将来に不安を感じるメイドたち。
アテマ王国との同盟を願う者、そして他の周辺各国との同盟を嫌う者たち。
皇太子セラフィーノ様に信頼を寄せる者。そしてこの私を信じてくれる少数の者たち。
皆の力が結集いたしました結果です。
◆
帝都はほぼ平常を取り戻しました。
同盟の調印式も済みアテマ王国第二王女、アテマンツィ・マリアンジェラ様帰国のはこびとなりました。正門の外に見送りの列ができます。
「偽造金貨の回収は進んでいると思うわ」
「よろしく頼む。いずれ我が国で引き取るよ」
殿下とマリアンジェラ様の二人は、馬車に向かって赤い絨毯を歩きます。私はその後ろに付き従いました。
「ええ、ところで地下の隠し部屋の本、すべて読んだのかしら?」
「ああ、読んだ。もちろんだ。皇城の図書室に全て揃っているからな」
「違うのよ。たぶん図書室にない、特別な一冊があるの」
「特別?」
「一番左の棚の奥。そこの一番下にあるわ」
「それはどのような本なのだ?」
「ふふ、見てのお楽しみね。それじゃ……」
従者が馬車の扉を開きマリアンジェラ様は乗り込まれます。
「世話になったな」
「こちらこそ。大変なのはこれからよ。お互いにね」
「ああ、そうだな」
そして扉を閉めて、窓から顔を出されます。
「裏切らないでね」
「まさか!」
「私なんてギスギスしていて、穏やかでない女だものね」
「言葉のあやだ。母上がそうかな? それが悪いとは思っていないぞ」
セラフィーノ様はあくまで笑いながら、冗談めかして言われます。
「ごめんね」
「いや、気にするな」
マリアンジェラ様は涙ぐみました。
「さよなら……」
馬車の窓が閉じられます。
「お、おいっ」
そして馬車は動き始めました。これからも帝国とアテマ王国との絆は、より深く続きます。
「どう思う?」
そう言って、セラフィーノ様は三歩後ろに控える私を振り返りました。
「何がですか?」
「さよなら、でもあるまいに……」
「殿下、少しは女子の御心をお考えなされませ」
「考えているがなあ……」
マリアンジェラ様は去られました。
最後に一つの謎を残して。
帝都の民は熱狂しながらも、落ち着きを取り戻しつつあります。
アテマ王国から援助の物資が続々と届きました。空腹が満たされ、そして未来も少しだけ照らされ、人々は明るさを取り戻しております。
「さて、これからが問題か。来たな……」
そしてあの人がついにやって来ました。厳しい表情で周囲を見回しながらも、少し顔がほころびます。やっぱり懐かしいのですよね。
「久しぶりの我が家は騒々しいこと」
皇妃様が殿下の五つ下の妹、皇女様と共に皇城へと入城されたのです。
「母上、お久しぶりですね。お元気でしたか」
「私は元気だけれど。彼は?」
「座敷牢で蟄居してもらっております」
「どうするつもりなのかしら?」
「どこか僻地の別荘で監視付きの生活ですよ。処刑するつもりはありませんから、ご安心を」
「反省しているのかしらね? 私も同行してしっかり性根を叩き直してあげます」
「それは結構ですね。ぜひお願いしたい。それと――」
「お兄様……」
妹様は殿下に駆け寄り抱きつきます。
「――アリーチェ……。見違えたよ。もう立派な令嬢だ」
私の強力なライバル出現と言えるでしょう。
その様子に目を細めてから、皇妃様は私をチラリと見ました。
「私は賛成いたします。よくぞセラフィーノを決断させました」
「いや、私は自分で決断いたしましたよ」
「なにもここをアテマにする必要はないのよ。帝国は帝国だからこそ、平和なのですから」
「分かっております」
「あなたは帝国の男。そして妻はアテマの女。それがブルクハウセンですから」
どうやら私は認められようです。これが私の成功です。
革命は成功いたしました。
現在の生活に不満を持つ人々。仕事を奪われたメイドたち。そして将来に不安を感じるメイドたち。
アテマ王国との同盟を願う者、そして他の周辺各国との同盟を嫌う者たち。
皇太子セラフィーノ様に信頼を寄せる者。そしてこの私を信じてくれる少数の者たち。
皆の力が結集いたしました結果です。
◆
帝都はほぼ平常を取り戻しました。
同盟の調印式も済みアテマ王国第二王女、アテマンツィ・マリアンジェラ様帰国のはこびとなりました。正門の外に見送りの列ができます。
「偽造金貨の回収は進んでいると思うわ」
「よろしく頼む。いずれ我が国で引き取るよ」
殿下とマリアンジェラ様の二人は、馬車に向かって赤い絨毯を歩きます。私はその後ろに付き従いました。
「ええ、ところで地下の隠し部屋の本、すべて読んだのかしら?」
「ああ、読んだ。もちろんだ。皇城の図書室に全て揃っているからな」
「違うのよ。たぶん図書室にない、特別な一冊があるの」
「特別?」
「一番左の棚の奥。そこの一番下にあるわ」
「それはどのような本なのだ?」
「ふふ、見てのお楽しみね。それじゃ……」
従者が馬車の扉を開きマリアンジェラ様は乗り込まれます。
「世話になったな」
「こちらこそ。大変なのはこれからよ。お互いにね」
「ああ、そうだな」
そして扉を閉めて、窓から顔を出されます。
「裏切らないでね」
「まさか!」
「私なんてギスギスしていて、穏やかでない女だものね」
「言葉のあやだ。母上がそうかな? それが悪いとは思っていないぞ」
セラフィーノ様はあくまで笑いながら、冗談めかして言われます。
「ごめんね」
「いや、気にするな」
マリアンジェラ様は涙ぐみました。
「さよなら……」
馬車の窓が閉じられます。
「お、おいっ」
そして馬車は動き始めました。これからも帝国とアテマ王国との絆は、より深く続きます。
「どう思う?」
そう言って、セラフィーノ様は三歩後ろに控える私を振り返りました。
「何がですか?」
「さよなら、でもあるまいに……」
「殿下、少しは女子の御心をお考えなされませ」
「考えているがなあ……」
マリアンジェラ様は去られました。
最後に一つの謎を残して。
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