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29『新政権』
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「いやあ、皆々様、おそろいですなっ!」
枢密院議長様が、闊達に話されながら控えの間に入ってこられました。周囲を見回しながら、愛想よく手などを軽く上げます。
「これが新時期政権を担うお歴々ですかな? いや、貴族諸侯たちの説得は、この私に任せて頂きたい――」
オラツィオ様は、いつもと同じ仏頂面です。アマデオ様は少しだけ肩をすくめました。皆のあいだにシラけた空気が漂います。
しかし本人はまったく気にする様子はありません。
「――老骨にむち打って働かせて頂きますぞっ!」
「利発なお孫さんがおられるようですね。我が王国に留学させてはいかがかしら?」
ならばと。アテマンツィ・マリアンジェラ様が前に立たれます。アテマ王国の第二王女としては、一言いわずにいられません。
しかし、ここでお孫さんを引き合いにだすなんて――。
「おまっ――。いや、あなた様がなぜここに!」
当然、城の地下に潜んでいたなど知るよしもありません。枢密院議長様は大口を開けて驚かれました。
「我が国はすでに支援を始めております。当事者として、当然ですわ」
「いっ、いつのまに……」
「留学は私たちにとっても都合が良いのです。いかがかしら?」
マリアンジェラ様は勝ち誇ったようにセラフィーノ様をチラ見します。どうやら暗に人質を要求しているようです。さてさて――。
「良いではないか? 例の手紙は読ませてもらったよ。本当に利発そうな孫たちばかりだな。そのような若者たちに、更に見聞を広めてもらいたい」
これは殿下が考えておられる、新たな交流の計画でもあります。
「しっ、しかし……」
「交換留学生制度を考えておる。その使節団長におぬしの孫を、と考えていたがな。不満か?」
「いっ、いえ。そういうことでしたら……、光栄ですが――」
孫の名誉は、おじいちゃんにとっては何よりの喜びでありまよね。
「――むむむっ……」
議長様の中で、損得天秤の針が、右に左に揺れているようです。
「さて、行こうか。皆の者、我に続け」
「「「「はっ!」」」」
殿下が声を掛け、全員が声をそろえます。
私たちがバルコニーに出ると、民衆は大いに盛り上がりました。皆で手を振って応えます。
宣伝が上手くいき、情報は正確に伝わっているようです。
「彼ら、あなた達を追いやって、いったいどうやってこの国を収めるつもりだったのかしら?」
マリアンジェラ様は、議長様に目配せしながら言います。
「新たに金を掘り出して新通貨を流通させる。それと他国と親密なる同盟、そいつらに地方の一部を割譲、そんなところだろうな……」
「ふーん、自分たちだけ生き残ればよかったんだ。あなたは、なぜ私の国を選んだの?」
「政権簒奪派の誘いを断っただろ?」
殿下は少し間を置きました。
「他国と共同で、我が帝国を押しつぶそうとの意見もあったと聞く」
「知っていたのかあ……。どうして?」
「メイドの情報さ。侮れんだろ?」
「……まあね」
「そなたは母上と気脈を通じていた。だからこの話を申し込んだ」
アテマ王国とブルクハウセンにはメイドの交流があります。それは外交として機能しております。もちろんそれ以外にも……。
「あっさり断ったかもよ?」
「そなたは母上に似ておる」
「あらあら、私はあなたの母親代わりかしら?」
「そうとも言えるかな?」
殿下は下をむいて少し笑います。それは幼少の頃から追い求めていた、面影だったのです。
そして私を見ました。
これらか見守る相手だと、私は勝手に解釈いたします。
照れますっ!
「この熱狂、素晴らしいっ!」
「議長殿へ、ではありませんよ」
「いちいちうるさいわっ。若造っ!」
枢密院議長様のお目付役はアマデオ様と近衛兵団にいたしましょう。この二人は仲良くなれるタイプです。私はそう殿下に進言しようと決めました。
「逆賊どもは地下で取り調べ中です。議長殿にもいろいろ聞きたいことがあるのですがねえ……」
「いくらでも話してやるわ。ただし、殿下にだけだ。それから地下は、ごめんこうむるっ!」
「私が責任者なのですよ。殿下から全権を委任されましたので」
「むむっ……」
本当に仲が良いです。
枢密院議長様が、闊達に話されながら控えの間に入ってこられました。周囲を見回しながら、愛想よく手などを軽く上げます。
「これが新時期政権を担うお歴々ですかな? いや、貴族諸侯たちの説得は、この私に任せて頂きたい――」
オラツィオ様は、いつもと同じ仏頂面です。アマデオ様は少しだけ肩をすくめました。皆のあいだにシラけた空気が漂います。
しかし本人はまったく気にする様子はありません。
「――老骨にむち打って働かせて頂きますぞっ!」
「利発なお孫さんがおられるようですね。我が王国に留学させてはいかがかしら?」
ならばと。アテマンツィ・マリアンジェラ様が前に立たれます。アテマ王国の第二王女としては、一言いわずにいられません。
しかし、ここでお孫さんを引き合いにだすなんて――。
「おまっ――。いや、あなた様がなぜここに!」
当然、城の地下に潜んでいたなど知るよしもありません。枢密院議長様は大口を開けて驚かれました。
「我が国はすでに支援を始めております。当事者として、当然ですわ」
「いっ、いつのまに……」
「留学は私たちにとっても都合が良いのです。いかがかしら?」
マリアンジェラ様は勝ち誇ったようにセラフィーノ様をチラ見します。どうやら暗に人質を要求しているようです。さてさて――。
「良いではないか? 例の手紙は読ませてもらったよ。本当に利発そうな孫たちばかりだな。そのような若者たちに、更に見聞を広めてもらいたい」
これは殿下が考えておられる、新たな交流の計画でもあります。
「しっ、しかし……」
「交換留学生制度を考えておる。その使節団長におぬしの孫を、と考えていたがな。不満か?」
「いっ、いえ。そういうことでしたら……、光栄ですが――」
孫の名誉は、おじいちゃんにとっては何よりの喜びでありまよね。
「――むむむっ……」
議長様の中で、損得天秤の針が、右に左に揺れているようです。
「さて、行こうか。皆の者、我に続け」
「「「「はっ!」」」」
殿下が声を掛け、全員が声をそろえます。
私たちがバルコニーに出ると、民衆は大いに盛り上がりました。皆で手を振って応えます。
宣伝が上手くいき、情報は正確に伝わっているようです。
「彼ら、あなた達を追いやって、いったいどうやってこの国を収めるつもりだったのかしら?」
マリアンジェラ様は、議長様に目配せしながら言います。
「新たに金を掘り出して新通貨を流通させる。それと他国と親密なる同盟、そいつらに地方の一部を割譲、そんなところだろうな……」
「ふーん、自分たちだけ生き残ればよかったんだ。あなたは、なぜ私の国を選んだの?」
「政権簒奪派の誘いを断っただろ?」
殿下は少し間を置きました。
「他国と共同で、我が帝国を押しつぶそうとの意見もあったと聞く」
「知っていたのかあ……。どうして?」
「メイドの情報さ。侮れんだろ?」
「……まあね」
「そなたは母上と気脈を通じていた。だからこの話を申し込んだ」
アテマ王国とブルクハウセンにはメイドの交流があります。それは外交として機能しております。もちろんそれ以外にも……。
「あっさり断ったかもよ?」
「そなたは母上に似ておる」
「あらあら、私はあなたの母親代わりかしら?」
「そうとも言えるかな?」
殿下は下をむいて少し笑います。それは幼少の頃から追い求めていた、面影だったのです。
そして私を見ました。
これらか見守る相手だと、私は勝手に解釈いたします。
照れますっ!
「この熱狂、素晴らしいっ!」
「議長殿へ、ではありませんよ」
「いちいちうるさいわっ。若造っ!」
枢密院議長様のお目付役はアマデオ様と近衛兵団にいたしましょう。この二人は仲良くなれるタイプです。私はそう殿下に進言しようと決めました。
「逆賊どもは地下で取り調べ中です。議長殿にもいろいろ聞きたいことがあるのですがねえ……」
「いくらでも話してやるわ。ただし、殿下にだけだ。それから地下は、ごめんこうむるっ!」
「私が責任者なのですよ。殿下から全権を委任されましたので」
「むむっ……」
本当に仲が良いです。
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