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25『皇城の戦闘』
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皇城では、あちらこちらで睨み合いと小競り合いが繰り広げられておりました。
城内の広大な敷地には、大臣クラスが住まうお屋敷が点在いたします。そしてそれぞれが、子飼いの戦力を持っておられますから。
私は一番難関と思われている、最初の目標に向かいました。そこには数名の近衛がおりました。
難儀しているようです。
「私兵はいませんでしたね。ただご老体は頑固で、口で抵抗しております」
「やってみます」
近衛兵団長のアマデオ様に応え、私はその屋敷の中にズカズカと入り込みます。
「次に来たのはメイドの小娘かっ!」
「皇太子殿下の勅命です」
「私は皇帝の臣下だ」
枢密院議長様はまだ強気のようです。私は準勅命の書類を差し出しました。
「公職追放と無期限の蟄居です。温情に感謝してくださいませ」
「何をこしゃくな。小僧めがっ」
「こちらはお孫様たちからです」
「なんだと?」
私は一通の手紙を差し出しました。あらかじめ手配していた、目に入れても痛くないほど溺愛しているお孫さんたちからの手紙です。
議長は手紙を鷲掴みにして震えました。涙がこぼれます。
「若造どもっ! 儂をどこにでも連れて行けいっ!」
アマデオ様が二名の近衛兵を連れて入って来ます。右手を軽く振りました。
「連行しろ」
「はっ」
そして両脇を抱えられ地下牢へと運ばれます。皇城の中の暮らしが長く、国全体が見えなくなっていたのですから仕方ありませんね。
議長様は今更この国の一端を垣間見ました。お孫さまたちの説得が、上手くいって良かったです。
「手回しがよいのですねえ」
アマデオ様は感心したように言いました。
「あちらのメイドたちに協力頂けたのです。女たちは殺し合いなど望みませんので」
「この革命の立役者たちですね」
「はい」
地方の現状、領地経営が上手くいっていない、早く帰って来て欲しい、会いたい、など子供ならではの素直な文章が綴られていました。
老害のおじいちゃんには、このような説得方法が一番です。ちなみに抵抗すれば、孫に危害が及ぶと想像するのは勝手な憶測ですよね。
◆
「ちっ! あんなのまで、用意していやがったのか……」
ひらけた庭に出た途端、アマデオ様が舌打ちいたしました。
皇城内に存在してはいけない、この世界最凶の脅威が唸りを上げています。
魔獣です。
私は、はしたなくも両手をスカートの中に入れ、二本のナイフを抜きました。
「檻に入れて城内に搬入していたようですね」
なるほどですね。確かに荷馬車に乗る檻に収まる、中型以下の大きさですが、機動力に富む狂犬魔獣です。
槍兵たちがジリジリと包囲をせばめますが、時間はかけられません。
「行きます……」
私は魔力を発揮して、一気に間合いを詰めます。
胴体にナイフを二本同時に突き刺しました。これは致命傷にはなりません。
狂気の牙が襲いますが、体を捻ってかわし喉を切り裂きます。
「セラフィーノ様のっーー」
もう一方のナイフで心臓を一突きし、魔力を注入しました。
「ーーじゃまはさせませんっ!」
飛び退くと、魔獣はドサリと倒れました。
「お見事ですねえ……。相手はいずれ先手を打つつもりだったようです。こちらが先に仕掛けて正解でしたよ」
ほっとしたのもつかの間、殿下の姿が見えます。中庭に出てきました。私は慌てて駆け寄ります。
「外は危険です」
「将来皇妃のそなたとて戦っておるわ」
「私はまだメイドです。敵は持ち込んだ魔獣を放っております」
「の、ようだな。だから様子を見に来た、ん?」
殿下は気配を感じて夜空を見上げます。建物の屋根の上に、二体の魔獣が見えました。こちらに飛び掛かりつつ、落下して来ます。
「小物程度か……」
殿下の剣一閃。
解き放たれた魔力の弧は一体を切り裂き、直角に曲がってもう一体も両断いたしました。
魔獣はそのまま地面に激突いたします。
「こんなシロモノを用意していたとは――な。やるものだよ」
宰相一派は皇城を混乱に陥れ、いずれは完全に権力を奪取するつもりだったのです。
それにしても、いつにもまして華麗なる、魔力さばきでした。
「殿下、奸賊どもが抵抗しております西の丸は封鎖中です。これから宰相以下三名の大臣を拘束に向かいます」
駆け寄ったアマデオ様が、今までの経過をご報告いたしました。
「ご苦労!」
「引き続き場内を掃討いたしますので」
「ほどほどにな。止むを得ず加担した者も多い。温情を持って当たれ」
「はっ! ここはまだ危険です。部屋にお戻りください」
そうご進言いたしました。私も続きます。
「そうです。必要なら、ご報告にあがりますから」
「分かった、分かった。私とて働きたいのだがなあ……」
とぼやきます。まだ皇帝未満の殿下です。
城内の広大な敷地には、大臣クラスが住まうお屋敷が点在いたします。そしてそれぞれが、子飼いの戦力を持っておられますから。
私は一番難関と思われている、最初の目標に向かいました。そこには数名の近衛がおりました。
難儀しているようです。
「私兵はいませんでしたね。ただご老体は頑固で、口で抵抗しております」
「やってみます」
近衛兵団長のアマデオ様に応え、私はその屋敷の中にズカズカと入り込みます。
「次に来たのはメイドの小娘かっ!」
「皇太子殿下の勅命です」
「私は皇帝の臣下だ」
枢密院議長様はまだ強気のようです。私は準勅命の書類を差し出しました。
「公職追放と無期限の蟄居です。温情に感謝してくださいませ」
「何をこしゃくな。小僧めがっ」
「こちらはお孫様たちからです」
「なんだと?」
私は一通の手紙を差し出しました。あらかじめ手配していた、目に入れても痛くないほど溺愛しているお孫さんたちからの手紙です。
議長は手紙を鷲掴みにして震えました。涙がこぼれます。
「若造どもっ! 儂をどこにでも連れて行けいっ!」
アマデオ様が二名の近衛兵を連れて入って来ます。右手を軽く振りました。
「連行しろ」
「はっ」
そして両脇を抱えられ地下牢へと運ばれます。皇城の中の暮らしが長く、国全体が見えなくなっていたのですから仕方ありませんね。
議長様は今更この国の一端を垣間見ました。お孫さまたちの説得が、上手くいって良かったです。
「手回しがよいのですねえ」
アマデオ様は感心したように言いました。
「あちらのメイドたちに協力頂けたのです。女たちは殺し合いなど望みませんので」
「この革命の立役者たちですね」
「はい」
地方の現状、領地経営が上手くいっていない、早く帰って来て欲しい、会いたい、など子供ならではの素直な文章が綴られていました。
老害のおじいちゃんには、このような説得方法が一番です。ちなみに抵抗すれば、孫に危害が及ぶと想像するのは勝手な憶測ですよね。
◆
「ちっ! あんなのまで、用意していやがったのか……」
ひらけた庭に出た途端、アマデオ様が舌打ちいたしました。
皇城内に存在してはいけない、この世界最凶の脅威が唸りを上げています。
魔獣です。
私は、はしたなくも両手をスカートの中に入れ、二本のナイフを抜きました。
「檻に入れて城内に搬入していたようですね」
なるほどですね。確かに荷馬車に乗る檻に収まる、中型以下の大きさですが、機動力に富む狂犬魔獣です。
槍兵たちがジリジリと包囲をせばめますが、時間はかけられません。
「行きます……」
私は魔力を発揮して、一気に間合いを詰めます。
胴体にナイフを二本同時に突き刺しました。これは致命傷にはなりません。
狂気の牙が襲いますが、体を捻ってかわし喉を切り裂きます。
「セラフィーノ様のっーー」
もう一方のナイフで心臓を一突きし、魔力を注入しました。
「ーーじゃまはさせませんっ!」
飛び退くと、魔獣はドサリと倒れました。
「お見事ですねえ……。相手はいずれ先手を打つつもりだったようです。こちらが先に仕掛けて正解でしたよ」
ほっとしたのもつかの間、殿下の姿が見えます。中庭に出てきました。私は慌てて駆け寄ります。
「外は危険です」
「将来皇妃のそなたとて戦っておるわ」
「私はまだメイドです。敵は持ち込んだ魔獣を放っております」
「の、ようだな。だから様子を見に来た、ん?」
殿下は気配を感じて夜空を見上げます。建物の屋根の上に、二体の魔獣が見えました。こちらに飛び掛かりつつ、落下して来ます。
「小物程度か……」
殿下の剣一閃。
解き放たれた魔力の弧は一体を切り裂き、直角に曲がってもう一体も両断いたしました。
魔獣はそのまま地面に激突いたします。
「こんなシロモノを用意していたとは――な。やるものだよ」
宰相一派は皇城を混乱に陥れ、いずれは完全に権力を奪取するつもりだったのです。
それにしても、いつにもまして華麗なる、魔力さばきでした。
「殿下、奸賊どもが抵抗しております西の丸は封鎖中です。これから宰相以下三名の大臣を拘束に向かいます」
駆け寄ったアマデオ様が、今までの経過をご報告いたしました。
「ご苦労!」
「引き続き場内を掃討いたしますので」
「ほどほどにな。止むを得ず加担した者も多い。温情を持って当たれ」
「はっ! ここはまだ危険です。部屋にお戻りください」
そうご進言いたしました。私も続きます。
「そうです。必要なら、ご報告にあがりますから」
「分かった、分かった。私とて働きたいのだがなあ……」
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