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第三章「街を守る男」

第百十三話「戦後処理」

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 自宅に戻ったベルナールは、井戸の傍で水を浴びて汗を流す。そして空を見上げた。

 新しい太陽は常に同じ位置にとどまっている。つまり今、この街に夜はないのだ。

「飲みに行っても、明るいってのは気分が乗らながな……」

 などと、呑気にそんなことを言った。それでも行くのが元勇者である。

 この国の歴史書には、数百年に一度ほど白夜と呼ばれる明るい夜があった、と記録されていた。


 ギーザーにはアンディクが先に来ていた。挨拶もそこそこに、この街ができた切っ掛けなどについて話しを始める。ベルナールは、以前エルワンに聞いた話を思い出した。

「この街には、未解放のダンジョンがまだいくつもあるのか?」
「もちろんです。更なる解放を待つ為に作られたのがこの街なのです」

 そういとも簡単に言う。当時ならば知らなかった話であるが今は知っている、ということなのであろう。ベルナールは唸った。

「はるか昔の残骸、とは言え卵の殻に残ったSSSトリプル・エスの魔核が発見されたのですから」
「なんだって!!」

 ベルナールは気色ばんだ。そんな話は初めて聞いた。

 そうそう喋っても良い話とは思えないが、アンディックは顔色一つ変えていない。

「まあ、落ち着けよ。飲めって」

 ベルナールはマスターからビールジョッキを受け取って、半分ほど一気飲みする。

「昔からあった噂さ。酒場のヨタ話程度だったがな」
「うん……」

 そう言われれば、ベルナールも昔聞いたような気がしてきた。マスターが知っているのなら、たぶんどこかの酒の席だ。

特別種SSSのそれを見つけた当時、探索部隊は驚きましてね。私が来る、ずっと以前の話ですよ。卵の殻と魔核は、かなりの数が発見されたらしいです」
「そうだったのか……」
「手に入れた強力な魔核は、神器に使用されたのかもしれませんね」
「そして、当面集められるものだけを集めて、この街を去ったってわけだ」
「一部の部隊が残り、以後は山岳部の探索に切り替えたようですが、そうそうマウスなど見つかりません」
「そりゃそうだ」

 未確認開口部ロスト・マウスは未だに発見されていない。それは入り口が特殊な力によって保護されているからだと言われていた。

「王都での意見は対立していたそうです。積極的に下層へ進み、新なる卵発見するか」

 アンディクは淡々と話してから、ビールを飲み干しておかわりを注文した。そして説明を続ける。

 そのようなものが次々に発見されては王国の、いや世界の危機になると考える者もいたらしい。散々揉めたあげく、結局――。

「それで下層への進撃は中止とされたのです」

 ただただ、戦いに明け暮れていた若き日々。王都はこの街でそのような画策を巡らしていたのだ。

「しかし、ならばなぜラ・ロッシュの第六階層は許可されたんだ?」
「もしそこに卵があるのならば、先手を打とうと考えたのですね。しかしそこには何もなかった。だが何者かが、特別種SSSを利用しようと考えている。そんな情報を王都はつかんだ。それで私の部隊が派遣されたのです」

 確かに狙っている奴らはいた。そのれがゴーストだったのだ。

「もっとも、ほとんどの高官は反対でしたけど。予測ばかりの話ですから」

 しかしアンディックは確信していた。ブラッドリーからの情報かもしれないし、他からかもしれない。

 ベルナールは聞きたいとは思うが止めておく。それは今は王宮で仕事をする友に対して失礼、敬意を表していないと思ったからだ。

「事情はわかったよ。どう転んでも街が賑やかになり、景気が良くなるわけだ。いい話じゃないか」

 ベルナールは話題を変えようとする。混乱は終わったのだ。余計な詮索はもう無用だ。

「私もです。久しぶりに皆と戦えて、楽しかったですよ」
「俺もさ。セシリアもな」
「ええ」
「ところで俺の戦力外通告には、裏に何かあるのか?」
「さあ? 以前に話した以外は何もないと思いますよ」

 ベルナールはやや肩を落とす。戦力を削ぐ目的もその逆もなかった。陰謀も何もない通告であったのだ。

「……そりゃあ結構。ただの偶然かよ」

 それならば、とも思う。街の危機を睨んで、この街では多くのロートル冒険者が再び剣を取った。だが温情措置はなさそうだ。

「割を食ったと言えばもう一人いるな。ギスランはどうなるんだ?」
「移送の日程が決まりました。近衛もほとんどが引き揚げますよ」
「そうか。ゴタゴタも、やっと終わりだな」

 王都の思惑より、街のこれからだ。ベルナールは再びグラスを煽る。
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