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第三章「街を守る男」
第八十八話「共闘乱戦」
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おっさん主体の冒険者集団は森の中に散って行った。一方ベルナールたちは封鎖線を飛び越え前線に向けて飛ぶ。
「私たちはどうするの?」
「A級の魔物が何体か出てきている。それを優先して狩ろうか」
「そうね。大物を探すわ」
セシリアは探査に集中し、体が滑空する風の音だけが聞こえた。森を見下ろすと所々で魔力が光っている。
「ねえ……」
「なんだ?」
「あなたって今まで私の料理を、一度も美味しいって言ったことなかったのよね。このあいだ初めて聞いたわ」
「そうだったか?」
セシリアは突然何を言い出すのか、ベルナールへの不満を語り始める。
「そしてクエストが終われば毎晩シャングリラ……」
「そうだったな……」
アンディックとの再会で昔を思い出したのか、そんな話まで始めた。
「別にいいのよ。別に――ね……」
セシリアが悪戦苦闘して作った少し焦げたシチューは、それでも旨かったと記憶しているが、その時のベルナールは感想など言わずに、シャングリラへと向かっていたのかもしれなかった。本人はそんなことなど憶えていないが、セシリアはそうではないのだ。
「俺も色々と思い出したよ。昔のことを……」
シャングリラに限らず、この街にはベルナールたちの思い出ばかりである。
「見つけたわっ! 森の中にA級が来てる」
ベルナールの言葉には反応せずに、セシリアは方向を変えた。大物が探知範囲に入ったのだ。
遠くの木々の上に頭部が見え隠れしている。この大きさは間違いなくA級のグレンデルだ。
「もうこんな所まで来てるのか」
「時間が惜しいからすぐに倒しましょう」
「うおっ!」
セシリアが言うなりベルナールの体はグレンデルの上部まで持って行かれ、体と剣に魔力が充填される。
「そうさ、お前の魔力が一番荒々しい。やはり俺にはこいつが一番だっ!」
「そうね、あなたしか、こんな私の力は受け止められない。あなたがいなければ、私は強い自分が嫌で嫌で気が狂っていたわ」
「ああ、俺がいくらでも、お前の力を受け止めるやるぞ!」
ベルナールは一度剣を突き上げてから垂直に突き降ろす。
「今日の俺は機嫌が良いのさ。特別に見せてやる――」
剣から伸びた野太い魔法光がグレンデルを垂直に貫く。
「――これが勇者パーティーの力だっ!」
体幹の中心が消失したグレンデルはボロ屑のように崩れ落ちた。二人は森の中に降下する。
「たいしたもんだよ。魔核ごと消えちまった」
「ねえ、そこかしこ魔物だらけよ……」
「片付けようか」
周辺には多数のB、C級がおり、ベルナールとセシリアはこの際だと掃討戦を繰り広げた。
「あいつらは誰だ……」
気配を感じてベルナールは空を見上げた。木々の間から飛行する数名の姿が見える。
「援軍に決まっているじゃない――」
「援軍?」
四角の編隊が六つ、四群に分かれて飛行し三名が先頭に立っていた。冒険者のパーティーには見えない隊列である。
「アンディックたちでしょ!」
「そうか!」
「何で挨拶に来たと思ってるのよ」
「あいつ、知ってたな……」
アンディックはここまで予測して準備していたのだ。そうでなければこう話は上手くはいかない。
「あいつら荒野に突出して暴れるつもりだ」
「私たちも行く?」
「当然だ」
二人が森の上に上昇すると右手にバスティ、左手にはデフロットたちの姿が見えた。皆、考えることは同じらしい。
駆けつけたアンディックたちが上空から降下を始める。
その一団よりも低く飛んで、ベルナール、バスティ、デフロットたちはこの街の主役は俺たちだ、とばかりに魔物の群に突っ込む。
総勢三十八名の冒険者、騎士の混成部隊の激戦が始まった。
「俺たちはA級を狙うぞ!」
「今度は私ね!」
セシリアが放った荒れ狂う特大の矢をベルナールの制御が誘導する。そして矢は開口の縁にいた大型ジャバウォックに炸裂した。
それを戦いの狼煙とばかりにバスティ、デフロットたちが地上に降りて暴れ、アンディックが引き連れる謎の援軍は垂直に近く降下する。皆がそろいの王宮装備に身を包んでいた。
ベルナールとセシリアは互いに近距離、中距離の獲物を担当しつつ戦う。
「久しぶりですねえ」
「ああ、本当に久しぶりだ」
剣を振るうベルナールと、弓を引き絞るセシリアたちにアンディックが加わる。一人欠けてはいるが勇者パーティーの再結成だった。
左翼と右翼の騎士団はひとしきり暴れた後、森に引き始めた。これは当然の作戦である。その中にはアルマとその相棒の姿が見えた。
一方、アンディックが引き連れている騎士たちは、団長を守るように未だ周辺で戦っている。
「あれは?」
「重武装で五十騎ほどを用意しました」
土煙を上げながら騎馬の一群が進んで来る。それは森と荒野との境界線を進みながら、魔物を蹴散らす。これもまたアンディックが手当していた戦力であった。
「そろそろ頃合いでは? 適当な所で引きましょう」
「ああ、初日としてはこれで十分だよ」
今日の戦果にベルナールは手応えを感じていた。これならば明日以降も戦力は拮抗するだろう。
「こいつはおまけです」
アンディックが手をかざし空中に魔力光球を作り出す。セシリアが協力すると稲妻の放電が始まった。
「雑魚相手に使うのはもったいないがな――」
そう言ったベルナールが攻撃の道筋をつけると、光は放物線を描いて開口へと消えていく。地獄の釜の底では雷雲がしばらく荒れ狂うだろう。友の力もまた健在だ。
「全員撤退せよ。森の野戦に切り替える!」
アンディックがそう指示をだすと、そろいの衣装に身を包んだ若々しい騎士たちは命令を忠実に実行する。
騎馬隊も分散しつつ森の間道に引き始め、ベルナールたちも森へと戦場を移動した。
「私たちはどうするの?」
「A級の魔物が何体か出てきている。それを優先して狩ろうか」
「そうね。大物を探すわ」
セシリアは探査に集中し、体が滑空する風の音だけが聞こえた。森を見下ろすと所々で魔力が光っている。
「ねえ……」
「なんだ?」
「あなたって今まで私の料理を、一度も美味しいって言ったことなかったのよね。このあいだ初めて聞いたわ」
「そうだったか?」
セシリアは突然何を言い出すのか、ベルナールへの不満を語り始める。
「そしてクエストが終われば毎晩シャングリラ……」
「そうだったな……」
アンディックとの再会で昔を思い出したのか、そんな話まで始めた。
「別にいいのよ。別に――ね……」
セシリアが悪戦苦闘して作った少し焦げたシチューは、それでも旨かったと記憶しているが、その時のベルナールは感想など言わずに、シャングリラへと向かっていたのかもしれなかった。本人はそんなことなど憶えていないが、セシリアはそうではないのだ。
「俺も色々と思い出したよ。昔のことを……」
シャングリラに限らず、この街にはベルナールたちの思い出ばかりである。
「見つけたわっ! 森の中にA級が来てる」
ベルナールの言葉には反応せずに、セシリアは方向を変えた。大物が探知範囲に入ったのだ。
遠くの木々の上に頭部が見え隠れしている。この大きさは間違いなくA級のグレンデルだ。
「もうこんな所まで来てるのか」
「時間が惜しいからすぐに倒しましょう」
「うおっ!」
セシリアが言うなりベルナールの体はグレンデルの上部まで持って行かれ、体と剣に魔力が充填される。
「そうさ、お前の魔力が一番荒々しい。やはり俺にはこいつが一番だっ!」
「そうね、あなたしか、こんな私の力は受け止められない。あなたがいなければ、私は強い自分が嫌で嫌で気が狂っていたわ」
「ああ、俺がいくらでも、お前の力を受け止めるやるぞ!」
ベルナールは一度剣を突き上げてから垂直に突き降ろす。
「今日の俺は機嫌が良いのさ。特別に見せてやる――」
剣から伸びた野太い魔法光がグレンデルを垂直に貫く。
「――これが勇者パーティーの力だっ!」
体幹の中心が消失したグレンデルはボロ屑のように崩れ落ちた。二人は森の中に降下する。
「たいしたもんだよ。魔核ごと消えちまった」
「ねえ、そこかしこ魔物だらけよ……」
「片付けようか」
周辺には多数のB、C級がおり、ベルナールとセシリアはこの際だと掃討戦を繰り広げた。
「あいつらは誰だ……」
気配を感じてベルナールは空を見上げた。木々の間から飛行する数名の姿が見える。
「援軍に決まっているじゃない――」
「援軍?」
四角の編隊が六つ、四群に分かれて飛行し三名が先頭に立っていた。冒険者のパーティーには見えない隊列である。
「アンディックたちでしょ!」
「そうか!」
「何で挨拶に来たと思ってるのよ」
「あいつ、知ってたな……」
アンディックはここまで予測して準備していたのだ。そうでなければこう話は上手くはいかない。
「あいつら荒野に突出して暴れるつもりだ」
「私たちも行く?」
「当然だ」
二人が森の上に上昇すると右手にバスティ、左手にはデフロットたちの姿が見えた。皆、考えることは同じらしい。
駆けつけたアンディックたちが上空から降下を始める。
その一団よりも低く飛んで、ベルナール、バスティ、デフロットたちはこの街の主役は俺たちだ、とばかりに魔物の群に突っ込む。
総勢三十八名の冒険者、騎士の混成部隊の激戦が始まった。
「俺たちはA級を狙うぞ!」
「今度は私ね!」
セシリアが放った荒れ狂う特大の矢をベルナールの制御が誘導する。そして矢は開口の縁にいた大型ジャバウォックに炸裂した。
それを戦いの狼煙とばかりにバスティ、デフロットたちが地上に降りて暴れ、アンディックが引き連れる謎の援軍は垂直に近く降下する。皆がそろいの王宮装備に身を包んでいた。
ベルナールとセシリアは互いに近距離、中距離の獲物を担当しつつ戦う。
「久しぶりですねえ」
「ああ、本当に久しぶりだ」
剣を振るうベルナールと、弓を引き絞るセシリアたちにアンディックが加わる。一人欠けてはいるが勇者パーティーの再結成だった。
左翼と右翼の騎士団はひとしきり暴れた後、森に引き始めた。これは当然の作戦である。その中にはアルマとその相棒の姿が見えた。
一方、アンディックが引き連れている騎士たちは、団長を守るように未だ周辺で戦っている。
「あれは?」
「重武装で五十騎ほどを用意しました」
土煙を上げながら騎馬の一群が進んで来る。それは森と荒野との境界線を進みながら、魔物を蹴散らす。これもまたアンディックが手当していた戦力であった。
「そろそろ頃合いでは? 適当な所で引きましょう」
「ああ、初日としてはこれで十分だよ」
今日の戦果にベルナールは手応えを感じていた。これならば明日以降も戦力は拮抗するだろう。
「こいつはおまけです」
アンディックが手をかざし空中に魔力光球を作り出す。セシリアが協力すると稲妻の放電が始まった。
「雑魚相手に使うのはもったいないがな――」
そう言ったベルナールが攻撃の道筋をつけると、光は放物線を描いて開口へと消えていく。地獄の釜の底では雷雲がしばらく荒れ狂うだろう。友の力もまた健在だ。
「全員撤退せよ。森の野戦に切り替える!」
アンディックがそう指示をだすと、そろいの衣装に身を包んだ若々しい騎士たちは命令を忠実に実行する。
騎馬隊も分散しつつ森の間道に引き始め、ベルナールたちも森へと戦場を移動した。
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