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第二章「戦い続ける男」

第六十一話「抑制と解放」

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「おーいっ! 偉いやつらが集まって何をやってんだ?」

 いつもと同じようにデフロットたちの登場だった。そしていつもと同じ調子なので、ベルナールは苦笑する。

「ちょっとした調査だ。そっちはどうだった?」
「Bの弱いのを一にC級が二だよ。たいして数はいない」

 デフロットはいかにも不満げに言う。今の状況ではそのようなものだろう。しかしセシールと弟子の三人で潜るのは少々キツいか、などとベルナールは考えた。

「十分だろう。この場所もそろそろだぞ」
「おっ、そうか。俺が一番クジを引いてるんだ。腕が鳴るぜ……」

 デフロットはいかにも嬉しそうに言う。他のメンバーたちは後ろで顔を見合わせた。

「誰なのだ?」

 話に興味を持ったのか、アルマはベルナールを見上げる。

「ここでジャバウォックを共同討伐したパーティーだよ」

 とベルナールはデフロットたちを紹介した。そしてアルマは驚いたような顔になる。戦いのこととなると話の食いつきが違うのだ。

「おーっ! なかなかやるではないか! A級を倒すなどたいしたものだな」
「ん、なんだ? このチビは……」
「チッ、チビだとーっ!?」

 アルマの顔がいつぞやのように、みるみる赤く染まった。背が低いのだから仕方ないが、デフロットの言い方もどうにかならないかと、ベルナールは溜息をつきたくなった。

「ぶっ、無礼な!」
「あん? じゃあペッタンコンかあ?」

 無礼と言われたので、デフロットはむっとしたように言い返す。まるで子供の喧嘩なのでベルナールは、今度は溜息をついた。胸のことなど言うなよと。

「ぶっ、ぶっ! 無礼者――」
「デフロット! それセクハラよ。失礼じゃない!」

 さすがにステイニーが止めに入った。ベルナールは彼女の胸をチラリと見る。

「別にいいじゃねえか。背の高さや胸で戦う訳じゃねえし……」
「だからって……」
「ステイニーも小さいのが気になってんのか? 俺はそれでいいと思うぜ」
「こんな所でいちいち言わないの!」

 痴話喧嘩もいいかげんにしろと、ベルナールはフォローする。いつまでも続けられてはたまらない。

「デフロット。この娘たちは冒険者の恰好をしているが王都の騎士だぞ」
「なっ、騎士だと?! いや、その歳で凄いじゃないか……。騎士様なんて初めて見たぜ」

 デフロットは素直に驚く。この街に騎士など来るのはまれなのだ。

「むっ……」

 そしてアルマの顔色は普通の色に戻り、表情は素直に明るくなる。

「やっぱ強いのか?」
「単独で倒したのはB級までだが……」
「……」
「――だそうだ」

 ちょっと間が空いたのでベルナールは付け加えた。控えめに言ったアルマに対して、デフロットの次の言葉が気になる。

「その歳でそこまで戦えんならたいしたもんだよ。なあ? ステイニー」
「ええ、この年の頃はあなた、C級から逃げ回ってたわよ」
「ちっ、違――、敵を誘ってたんだ。作戦だよ」
「あらあら。そうだったっけ?」

 デフロットとステイニーのやりとりを聞いて、アルマはニンマリと笑ってから口を開く。

「私も最初は逃げながら戦っていたぞ!」
「そうだろう、作戦よ!」

 アルマのフォローにデフロットは胸を張った。どっちもどっちにしか見えない。

 デフロットは、言葉使いは悪いが、ただの天然で決して悪意はない。意外にアルマのような性格には合うのかもしれなかった。

 無駄話をしてしてもしょうがないので、ベルナールはデフロットたちに、簡単に事情を説明する。

「そうか、封印でこの街に来たのか……。まっ、俺は早く先に進みたいんだがな」

 デフロットらしい感想だった。だが下に行くのは、第五階層でもっと狩りを続けてからだ。

「俺たちはもう少し稼いでいく。ギルドマスター、巨大ホールの件は頼むぜ!」
「うん、出たら封鎖して声を掛けるから」

 ステイニーはベルナールの方をチラリと見て小さく頭を下げる。デフロットたちが戦う時は、ベルナールとバスティのパーティーも支援に就くのだ。


「さて、我々は帰りますか」
「うむ、そうするか」

 エルワンも暇ではない。ベルナールたちは地上へと上がった。帰りがけにマークスに声を掛ける。

「最近バスティたちは来ていないのか?」
「ああ、御無沙汰だ。人出の割には、獲物は少ないしな」
「巨大ホールに出現の兆候がある。他の小ホールにも小物が出るだろう」
「分かった。注意するよ」

   ◆

 そして公約通りに馴染みのスイーツ店に寄る。店主のママは、今回も直々に注文を聞きに来た。

「あらあら、年寄り二人に若い娘さんが二人なんてね。どんな組合わせなのかしら?」
「極秘任務だ。いつものおすすめを二つにお茶を四つだ」
「久しぶりねえ、エルワン。しばらく見ないからとっくに死んだと思っていたわ」
「ひどいなあ、街の仕事が忙しくてほとんどダンジョンには来ていないんですよ。私もスイーツを頂きます」
「三つにしてくれ」

 エルワンのパーティーにも女性メンバーはいたので、現役の頃はよくこの店にも来ていた。


 スイーツが運ばれレディスとアルマは無言でパクつく。お茶は例のお茶だ。成り行きで注文したエルワンは懐かしそうに食べている。

「レディス。王都のダンジョン近くにもこのような店を作りたいな!」
「どこかのお店が立候補すれば作れますわ」
「王宮のパティシエを派遣すればすぐにでも――」
「ダメです!」

 アルマはパンケーキの欠片で、たっぷりの蜂蜜をすくって口に入れた。咀嚼しつつ、次に何を言おうかと考える。

「王都の菓子工房がどこか名乗りを上げてくれるかな? なんなら私が声を掛けてみても――」
「それもダメです!」
「む~……」

 貴族様が安易に権力を行使してはいけないのだ。

   ◆

 満足のティータイムが終り四人は店を出た。支払いは全てギルドで済ます接待となる。

「もうこんな時間ですか、帰りは飛びましょう。空からも周囲を見たいですわ」

 レディスは傾きつつある太陽を見て言う。ベルナールとエルワンは顔を見合わせた。

「俺はもうあまり飛べない。街まではどうかなあ……。エルワン、お前はどうだ?」
「私も同じようなもので……」
「大丈夫ですわ。私が二人をアシストいたします」

 レディスが言い、アルマはニヤニヤとしながらベルナールを見る。

「私がアシストしても良いが、制御が今一つなのだ。レディスは優しく飛ばしてくれるぞ!」


 街を抜けてから四人は大空を飛ぶ。レディスとベルナール、エルワンはゆっくりと上昇した。

 一方アルマはうっぷんを晴らすように急上昇する。

「ふふっ、ふはははーーっ!」

 魔力伝達の声が頭に響く。そしてジグザクに機動して飛行を楽しんでいる。

「元勇者と私とレディスでゴーストを狩るのだからな! 楽しいじゃないか!」
「アルマ、おやめなさい」
「いいではないか。制御は難しいのだ」

 それは制御を得意とするベルナールとは対局にある、荒々しい魔力の解放だった。

 武器にもなるが、決して強さの証明ではない。戦いでもなく、若々しく、ただただ無邪気な解放であった。
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