上 下
58 / 116
第二章「戦い続ける男」

第五十八話「復帰の可能性」

しおりを挟む
 ベルナール、エルワン、そしてレディスとアルマは、マントを羽織って中央ギルドから街に出た。王都から来た二人が、この街を見たいと言ったからだ。

 その意気たるや大いにけっこうだとベルナールは感心する。それに飛ぶならば、ベルナールは誰かのアシストが必要だ。

「私は王都以外の街は初めてなのだよ」
「ほ~……」

 そう言ってアルマはキョロキョロと周囲を見回す。ベルナールは相槌あいづちを打った。貴族様ならば、さもありなん――だ。

「せっかくだ、仲間も呼んで観光でもしたらどうだ? 旨いもんでも食ってベッドで寝る。気が向いたらダンジョンで戦う――」
「うっ……」

 アルマは一瞬、想像したような表情になる。あの森の開拓地ならば、テント暮らしで野戦食がもう何日も続いているだろう。

 軍は意地悪なのであえて・・・まずい食事を出したり、量を少なくして兵に空腹を体験させたりもするのだ。これもまた訓練だった。

「それじゃあ、ここの冒険者と同じか。騎士様向きではないな」
「くう~っ」

 反撃とばかりにアルマはベルナールを睨んだ。しかしそれは恨めしそうでもあり、ベルナールは笑いを噛み殺す。なにやら、すっかりこの少女をからかってばかりだった。

「いや、私とレディスはこの仕事の間はそのように暮らせるがな。敵も悪くない……」

 そう言ってアルマは立ち直る。幽鬼ゴースト相手で危険が伴うクエストだが、特に臆している様子はない。貴族の使命に燃えている鏡のような少女だった。

「ダンジョンの街にはスイーツ店もあるぞ!」
「なんとっ!」

 アルマの顔がパッと明るくなる。今一番必要としている補給物資なのだろう。

「あの野戦の訓練はいつまでやるんだ?」
「分からない。答えることも出来ん」
「そりゃ、そうだ」

 それは軍の機密だった。終りの見える戦いなどはないので、期限を切らないのもまた訓練だ。

 四人は中央の区画を抜けて北地区に入る。

「ここが、私が預かる北のギルドです。今回の案件はこちらの管轄になります」

 前を通りかかり、エルワンはガイドのごときに説明した。

「冒険者は街全体でどれ程いるのですか?」
「そうですね。この街全体で登録冒険者の人数は三百程に――あっ!」
「どうした?」

 エルワンはレディスの質問に答えるも、突然に声を上げたのでベルナールは問いただした。

「いえ、三百は通告前の人数でして……」
「なんだよ……」

 それかよ、と思い舌打ちしたい気分になった。また話がそちら・・・の方向にいってしまうからだ。

「何?!」

 隣を歩いているアルマの目がキラリと光った。恐るべき嗅覚だ。そして疑問を投げ掛ける。

「通告前? 通告後は?」
「およそ、二百ほどに……」

 何かを予感したエルワンは消え入るような声で答えた。

「その話は聞いたことがあるな! 役立たずの冒険者をまとめて追放したのだろ? そうかそうか。素晴らしい政策ではないか!」
「いえ、追放ではなくて、引退勧告なのですが……」

 ベルナールを見ながらニヤニヤ話すアルマの言葉を、エルワンは訂正するが実質の違いはたいしてない。

「ところで勇者ベルナール殿はどうだったのかな?」
「くっ!」

 今度はベルナールが歯ぎしりする番だった。

「引退したよ……」
「はっはっは! 御苦労だったな。今日はヘルプか?」
「くくっ……」
「アルマ、おやめなさいな」

 楽しそうに成り行きを見ていたレディスからやっと助け船が入った。

「そもそも王都はなぜこんな通達を出したのですかね?」

 そして、この際だとエルワンは質問をぶつける。

「さあ? 存じませんわ。この件に軍は関係ないので」
「そうですか……」

 知らないと簡単に言われエルワンは落胆するが、レディスは話を続ける。

「ただ噂ならば聞いたことはあります。それでよろしければ……」
「結構です。ぜひっ!」
「それほど難しい話ではありませんわ。王都は全国の現役冒険者、実際に戦っている者の人数を把握したかったのです」
「う~ん……」

 とベルナールは唸った。冒険者にとってギルドへの引退届は任意である。クエスト中も含めて死亡届は街からギルドに連絡が来る。

 クエストを受注しない。もしくは受注しても自身で戦わない冒険者は、総数から外したかったのだろう。

「俺は本物の現役冒険者だったのだがなあ……」

 とベルナールはボヤく。これでは、とばっちりもいいところだ。

「その辺りは王都も懸念しておりますわ。近々救済措置がとられる――、これも噂ですが」
「おーー、それはどのような?」
「同じギルド内でAクラス以上の冒険者、三名の推薦があれば現役に復帰できる、などです」
「それは……」

 小さな歓声を上げたエルワンだったが、すぐに落胆した。その条件はなかなか厳しいのだ。

 この街にはAクラス以上の冒険者など、どれほどいるのかとベルナールは頭を巡らせる。

「セシリアはまだ現役だったな」
「ええ、これで一人です。しかし……」

 ベテランにはAクラスが何人かいたが、今は全て引退組となっていた。

「ああ、無理だな」
「まだ噂ですわ」

 王都から来た二人との、噂話は尽きない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...