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第二章「戦い続ける男」

第五十三話「蒼穹の出撃」

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 ベルナールとセシリア、そして見送りのエルワンは中央ギルドの屋上に立つ。

 基本、中心部に近い街上空の飛行は、ここ中央ギルドの屋上からを除いて禁止されていた。空飛ぶ魔物との誤認を避けるためである。

「俺はもうたいして跳べないぞ。降下の調整は出来るが」
「昔からそっちは不得意だったわよね。大丈夫、一人なら一日アシストできるわ」

 そう言ってセシリアは矢筒と弓を背負った。

 エルワンは少し心配そうに二人を見ている。二十年ぶりくらいのコンビ復活だからこれは仕方ない。

「とにかく気を付けてください」

 何せ相手は幽鬼ゴーストであり、ギルドマスターの立場としては慎重の上にも慎重にだ。

「ああ、行ってくるよ。心配するな。戦いに行く訳じょないからな」
「じゃ、行くわね!」

 セシリアがそう言うなり、二人の体が持ち上がる。そして一気に大空へと飛翔した。箱庭のような街、サン・サヴァンを見下ろしながら北東へと滑空を開始する。

 この高度まで一気に上がるなど、やはりたいしたものだとベルナールは感心した。

「どう? 昔ほどじゃないけど、まだまだ私っていけるわねー」
「探知はどうだ?」
「うん、そっちもなんとか――。魔物を何体か見つけたわ。雑魚ばかりだけど」

 今日は偵察なのでそちらは無視する予定だ。

 ある程度の深部まで到達してから二人は蛇行しつつ面の索敵行動に切り替えた。

「西側でひとつパーティーが戦闘中。戦いは優勢ね」

 昔はこうやって何度も他の冒険者たちを助けてきた。その中にはエルワンのパーティーもあったと思い出し、ベルナールは苦笑した。


「今日はハズレか……」

 森の終りの先に荒野が見えた。幽鬼ゴーストが潜伏しているとすれば森の中だ。

「ん、おかしなのを見つけたわ。B級程度だけど、ちょっと違う感じの……」
「それだよ。お前の勘は昔のままだ」
「まあねー」

 昔、セシリアは女の勘と言っていたが、ただの魔力脅威を感じ・・として読む力は蒼穹独特の能力だ。感じているだけではなく、それは本当の読みだった。

「そっちに向かおうか」
「うん」

 セシリアの方向転換にベルナールは追随する。やや北寄りだ。

「あっちも気が付いたわね。動くわ」
「ああ」

 ベルナールもその魔物を探知する。確かに違和感のある相手だ。

 木々の上から黒い点が飛び上がった。どうやらデフロットが目撃したワイバーンのようだ。

「どうするの?」
「さてなあ……、一体だが接触に成功した。偵察の目的は達したな。普通は帰還だよ」
「一体だけならば狩れるかも――」
「前回は逃げる冒険者四名を追いかけたがな」
「なら両方ね――、行くわよっ!」

 セシリアは帰還と接触。その両天秤に相手が乗ってくるかを見極めると決めた。

 そして後方へと全力で推進をかける。二人は一気に街へ向かって飛翔した。

「ふんふ、ふーん……。ららら――」

 飛びながらセシリアの鼻歌が出た。ベルナールは昔からこれを、何て曲だ? と思っていたが今までそれを聞いたことはない。

「やはり追って来たか……」
「さ~て、このゴーストはどの程度かしらね?」

 あの一体は、おそらく二体いる仲間から引き離されるリスクを冒して、ベルナールたちに向かって来た。誘われたとは思っていないのだろう。

「お手並み拝見、っと……」

 セシリアは矢を一本抜き出して弓にセットした。そして体を曲げて、両足を広げ後方へ向け放つ。

 ワイバーンは翼をひるがえして、楽々と攻撃をかわすかに見えた。しかしその矢は直角に曲がりスピードを上げ、胴体に直撃し深々と突き刺さる。

「お馬鹿さんねえ……。矢は真っ直ぐ飛ぶってしか知らない、知識薄弱者さんなのね!」
「普通はそれだけだろ」

 恐らくは頭に血が上ったゴーストが、胴体に矢が刺さったまま、まだこちらに向かって飛んでくる。

「さーあ! 次はどんな攻撃をお見舞いしてやろうかしら?」

 セシリアは矢筒からまとめて三本抜き取る。そして同じように放った。魔力のアシストを受けた矢は、誘導されてワイバーンを囲むように飛ぶ。

 敵はどうしようかと考えあぐねるように、首を左右に振りながら迫る矢を見る。この矢も直角に曲がり、ワイバーンは三方から串刺しにされた。

「鳥を串打ちして焼く、焼き鳥って料理があるらしいわね。美味しいのかしら?」
「普通に旨いだろ? ワイバーンの肉じゃあ、ごめんだな」
「あははは、そうよねえ。じゃあこいつは食肉以下ね」

 さすがに飛び続けることは出来ず、ワイバーンは頼りなく降下して行く。ベルナールたちは様子を見るため、螺旋の降下に移り距離を保つ。

「魔力が炸裂するように撃ったつもりだけど、不発だったわ。失敗したのかしら?」
「中和されたんだ。相手もなかなかの使い手だな」

 ベルナールには、セシリアの技は失敗したようには見えなかった。魔力の攻撃は障壁で防ぐ場合と、その魔力を無効にする力で対抗する場合がある。

「仲間が来たようだ……」

 森の中を高速で移動する強力な魔物が二体、こちらに接近してくる。

 魔物が魔物を助けるなどありえないし、冒険者に追われでもしなければ、走るなどもありえない。相手は幽鬼ゴーストだ。

「どうするの?」
「探査の目的は達したしな。様子を見よう」

 二人は三体と距離を取りつつ森の中へと降下した。幽鬼ゴーストたちは合流を果たしたが、特に動きは見せない。

「作戦会議中かしらね?」
「ああ、殺人鬼ならこっちに向かってくるはずだが、奴らは違うようだ」

 しばらく待つと三体はゆっくりと北東へ向けて移動を開始した。ワイバーンも森の中を歩いて移動しているようだ。

「これまでだな。敵はやはり三体。そして何らかの意思を持って行動している」

 そして頭を冷やして冷静に行動すると決めた。簡単な相手ではない。

 ベルナールは残りの二体が何の魔物なのか知りたいと思ったが、今日はここまでだろう。

「あっ、お茶がある。ついてるわね! さすが私」

 セシリアは無邪気に言う。周囲を見回せば、ここはあの・・お茶の群生地だった。

「そっちか……」
「ベル、手伝ってよ」
「分かった、分かった……」

 幽鬼ゴーストが探知外に脱出し、二人は茶摘みの仕事に精を出す。セシリアにとっての重要事項だ。

 蒼穹の娘は今も娘のままだった。
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